■短期プライムレート上昇と貸主・借主の反応
日銀は7月31日の金融政策決定会合で0〜0.1%としていた政策金利(無担保コール翌日物レート)を0.25%に引き上げました。
日銀の追加利上げを受け、メガバンク全行のほか、地銀なども9月からローンや企業融資の指標となる短期貸出最優遇金利である短期プライムレート(短プラ)や1年を超える長期貸出への最優遇金利(=短プラに+0.3%~+0.5%上乗せしたもの)を9月に引き上げると発表しました。
都市銀行は、総じて0.15%の引き上げです。
少々驚いたのは、一部の不動産投資家の方々や金融機関の反応です。
金利引き上げの通知や連絡を銀行から受けたら、繰り上げ返済や他行への借り換えをほのめかして金利の据え置きを求める方が結構います。
また反対に、銀行の担当者が借主のところに出向いて金利引き上げについて説明するということもあるようです。
私が銀行を退職したのが16年半前。それまでは短プラは、当然に随時変更するものでした。借入も元々短プラ連動の契約なのだから、変動して当然。わざわざ連絡などしませんでしたし、いわんや借主のところに出向いて、金利引き上げについて説明することもありませんでした。
しかしながら、今回の短プラ引き上げは17年半ぶりです。
あまりに長い間変更がなかったので、現場の銀行員も借主も短プラ連動の変動金利での融資について固定金利のような感覚になっているのかもしれません。
今回の短プラ引き上げで、中小金融機関では、短プラ連動貸金でも折衝によっては引き上げ幅を圧縮しているところもあるようです。
実は私は、短プラ連動融資の借入期間途中での金利引き下げは、原則難しいと思っていました。それは、銀行が借入人の評価をする時に、金利を引き下げると自己査定の抽出基準である「貸出条件の緩和」に該当し、詳細にチェックしなければならないことが多くなるからです。
ただ、金利圧縮された方に話を聴いていると元々短プラ(新長プラ)にある程度利率を上乗せされていたり、事業会社を経営していて短期の運転資金も、その金融機関から調達している方が多いようです。
その銀行で出せる最優遇金利ジャストなどのギリギリ低い金利を提供されている場合には、金利据え置きや圧縮は難しいでしょう。
また、元々サラリーマン大家さん向けに4%を超える金利で融資して、数年経ち財務内容が明確になったら金利を下げていた銀行もありますが、それは銀行業界全体から見ればレアケースと考えてください。
■植田ショックからの円高・株安
今回の短プラ引き上げは、文頭に書いた通り7月末の日銀の金融政策決定会合によるものですが、今回の発表は、ある意味サプライズでした。
政策金利を0.15%引き上げたのは、ある程度は予想されていました。しかし、個人消費や国内総生産などの経済指標が弱い中、植田総裁が会合後の記者会見の中で、さらなる利上げの可能性も示唆したことはマーケット関係者にとって想定外だったのではないでしょうか。
今回の利上げを巡っては、景気への悪影響を懸念して、植田総裁以下9人の政策委員のうち、審議委員の2人が反対したほどです。
その後、日銀の想定外の方針に驚いた投資家が円の買戻しに動いているところに、7月の米雇用統計で失業率が上昇したことにより米国の景気後退が意識され、世界同時株安にもつながりました。
結果として7月上旬には1ドル161円台であった為替相場が、8月下旬には1ドル143円台まで円高に振れました。
■今後の変動金利はどうなる?
今後の変動金利がどう動くかについての予想は専門家によって、まちまちです。
よく目にするのは、日銀は12月に再び追加利上げを実施。次回の利上げ幅は0.25%。その後、来年に2回程度の利上げがあり、政策金利は2025年末までに1.00%になるというものです。
また、GDPの約6割を占める個人消費が横ばいかマイナス基調の中で、これ以上の利上げはないと予想する専門家もいます。
私の個人的見解としては、
〇少子高齢化が現在進行形であり、人口ボーナスによる成長が期待できない。
〇日本の金利動向にかかわらず、米国の金利引き下げにより円高が進むと思われる。輸入企業の価格転嫁が道半ばである中、円高が進むと価格引き上げが難しくなる。
〇円高により輸出企業の収益力が下がり、賃上げ余力が少なくなる。日本独特の終身雇用制が影響し、基本給は上がりにくく、賞与で調整される。また他国との外国人労働者争奪が円高で有利になり、人件費が下がる。
等の理由により、これ以上変動金利が上がらないとはいいませんが、相応の年月が掛かるのではないかと考えます。
いずれにせよ、これから数年の政策金利は1%を超えることは、よほどの突発的な天災や世界情勢の変化が起きなければないと考えます。
日本国債10年物の金利も今年に入り1.0%を超えることがありましたが、8月下旬には0.8%台後半で推移しています。これはマーケットが今後10年間の政策金利水準の平均が1.0%未満であるとマーケットが考えていることと同義です。
変動金利が少々上がったとしても、余剰資金を慌てて繰り上げ返済にまわすのは、余程手許資金が潤沢な場合以外は、待った方が良いでしょう。もし仮に短期金利が急上昇した時は、不動産価格は下落し、売り急ぎ物件が出る可能性が高いです。
そのような時、銀行の融資姿勢は厳しくなり、自己資金や純資産が少ない方は新規融資が受けられない可能性が高くなるからです。過去のバブル崩壊時もリーマンショック時もそうでした。
不動産投資は長期の投資です。今足元の些細な変化に動ぜず、大局的見地から投資判断していきましょう。