大家さんから「修繕費にいくらお金をかけるべきですか?」という質問をよく受けます。
これは物件の状態、競合物件との比較、家賃の見込み、空室の原因などを総合的に考慮して判断するべきなので、一概には言えません。
しかし、税理士として、キャッシュフローから使えるお金を考えて、かけるべき上限額を算出することはできます。
今回は、その方法をお伝えしていきます。
1.やみくもに修繕にお金をかけていないか?
賃貸経営において、家賃収入は全て自由に使えるお金ではありません。そこから借入の返済や固定資産税など経費を支出しなければなりません。
これらを差し引いて、実際に自由に使えるキャッシュフロー(手残り)を計算する必要があります。
ざっくりと計算するなら、「収入-返済-経費(支出を伴うもの)-税金(所得税、住民税)」になります。
●キャッシュフローのイメージ
この手残りがマイナスにならないように支出額をコントロールしなければなりません。
2.「絶対に必要な修繕」と「バリューアップの修繕」を区分
修繕には、物件の維持に不可欠な①「絶対に必要な修繕」と、②物件の価値を高めるための「バリューアップの修繕」があります。
①は、建物の安全性や居住性を確保するために必要不可欠であり、削減できない修繕費です。
②は、将来に向けて入居率の向上や賃料の引き上げを目的としており、必ずしも支出しなくてもよい修繕費です。
いくらかけるべきか悩むべきなのは②の修繕かと思います。
これらを明確に区別し、優先順位をつけて予算を配分することが大事なのです。
3.「修繕費」と「資本的支出」の区分
税務上、①「修繕費」は通常、経費として全額をその年の費用として計上できますが、②「資本的支出」は資産として計上し、減価償却を通じて数年にわたって費用化されます。
①修繕費とは、固定資産の修理・改良などのために支出した金額のうち、その固定資産の通常の維持管理のため、又は災害などにより毀損した固定資産につき、その原状回復に要すると認められる部分の金額をいいます。
簡単にいうと、元の状態に戻すような支出が修繕費です。
例えば、クロスの貼り換えや床の補修などが修繕費にあたります。
②資本的支出とは、固定資産の修理・改良などのために支出した金額のうち、その固定資産の価値を高め、又はその耐久性を増すこととなると認められる部分に対応する金額をいいます。
簡単にいうと、価値が上がるような支出が資本的支出です。
単なるフローリングを床暖房に変更するなど、いわゆるリノベーションが資産的支出に該当します。
これらを区分するのは、修繕の専門家でなければ困難なものです。
そこで、実務上の判断として、形式基準という判定方法があります。
「形式基準のフローチャート」にあてはめて、修繕費に該当するか、資本的支出に該当するかを判断していきます。
●形式基準のフローチャートのポイント
(ⅱ)おおむね3年以内の周期で修繕・改良等が行われているものはすべて修繕費
(ⅲ)区分不明なものは、60万円未満または取得価額の10%以下ならすべて修繕費
(ⅳ)区分不明なもの(上記(ⅰ)~(ⅲ)の適用を受けるものを除く)は、継続適用を条件に支出金額の30%か取得価額の10%のいずれか少ない金額を修繕費、残額を資本的支出
古くなった設備を同じものに取り替えただけだからと修繕費で一括の経費にしがちですが、間違いです。
取り替えは、「建物の各住宅を形成していた一部分の取壊し・廃棄と新設が同時に行われたとみるべきもの」とされているからです。
つまり、「絶対に必要な修繕」であっても、資本的支出になるものがあるのです。
4.4区分のマトリックス
絶対に必要な修繕の中にも、税務上の資本的支出に該当するもの(例:キッチンの交換)があります。
逆に、バリューアップの修繕の中にも、税務上の修繕費に該当するもの(例:アクセントクロスを貼る)があるのです。
これらをマトリックス表にしてみると次の通りです。
5.キャッシュフローへの当てはめ
経費を使うことによる節税は「割引」、ということは以前のコラムでお伝えしました。
参照→経費を使うなら年内、それとも年明け?年末までにやるべき対策とは
100万円の経費を使ったからと言って、100万円の税金が減るわけではありません。
「経費支出額 × 税率分」の税金が少なくなります。
ですから、修繕費は「割引効果あり」、資本的支出は「割引効果なし(※)」と考え、使える修繕費を出していきます。
(※)厳密には減価償却になる分が、割引効果がありますが、支出した年の減価償却費は月割り計算されるため影響は少ないと考え、ここでは無視します。
修繕費については、税金を抑えられる割引があります。これは裏を返せば、割り増しで支出することができるということです。
例えば、100万円の予算で修繕を考えた場合。その人の税率が30%とすると
100万円 ÷(1-30%)= 1,428,571円 を修繕費に充てられることになります。
1,428,571円支出しても、428,571円(1,428,571円✕30%)分の税金支出が抑えられることになるからです。
これをキャッシュフローに当てはめて、使える修繕費を計算してみましょう。
まず、前述したキャッシュフローの支出のうち、絶対に必要となる修繕費(上記マトリックス上の)Aや資本的支出(上記マトリックス上の)Bに分解してみました。
このAの修繕費は経費になるため、税金の割引を受けられます。
ここで計算されたキャッシュフロー300万円が残っています。この300万円は、バリューアップの修繕(上記マトリックスのCとD)に回すことができると考えます。
このうちCの修繕費は割引効果があるため、「支出金額÷(1-税率)」を投資することが可能です。
一方Dの資本的支出は割引効果がないため、「支出金額」そのまま投資することが可能と考えます。
これらの支出額を計算して、想定の手残りがマイナスにならないようにすればよいのです。
このようにキャッシュフローと税金への効果を考えることで、最大限支出できる(キャシュフローがマイナスにならない)投資額が算出することができるのです。
ぜひ資金計画を立てる参考にしてください。
私のYouTubeチャンネル「大家さんの知恵袋」でも、「資本的支出と修繕費どっちが有利?」について動画で解説していますので、こちらもあわせてご覧ください。
https://youtu.be/OO4cAuFFb0w?si=wyyUhM_FIlsMHwEZ
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