トランクルーム投資とは、文字通りトランクルームを経営して、利用料を収益として獲得する投資方法である。稼働後に安定した現金収入を得られるという点では不動産投資に近い。一方で、テナントを活用して物件を持たない運営も可能な点で、事業投資に近い側面もある。
店舗が軌道に乗れば、毎月安定したキャッシュフローが期待できる。一方で、ローンを活用しづらく、レバレッジ効果が見込めないのが難点だ。今回はトランクルーム投資の特徴について、不動産投資とも比較しながら紹介したい。
トランクルーム投資の基本
トランクルームは、都市部を中心に全国各地にある備品や荷物などを収納できる施設である。元々は空き地にコンテナのような倉庫を並べて運営するケースが多かったが、足元は、テナントの一角を加工して運営する屋内型も見られる。
利用者は、基本的に区画単位でトランクルームを契約する。契約は月単位で結ぶケースが多く、一度利用が始まれば数年単位の利用となる人が多い。そのため、毎月安定した現金収入を得られるのが特徴だ。
都市では自宅の占有面積が狭く、所有物を自宅内に保管できない人が少なくない。企業についても、書類や備品を保管するためのスペースをオフィスに確保すると、広いオフィスが必要となる。
個人・法人とも、これらの荷物を収納・保管する目的で、トランクルームを利用する人が多く存在するのだ。
なお、トランクルームの市場は足元拡大傾向である。キュラーズの調査によると、2023年時点で日本国内のトランクルーム市場規模は770億円に達し、15年連続で成長している。
エリアリンクの予測によると、2026年には市場規模は1,000億円に到達するとの見方もある。
その分新規参入する業者や投資家も多い点には注意が必要だが、2024年現在においては、魅力的な投資領域の一つと言えるだろう。
トランクルームのタイプと投資スタイル
トランクルームは、不動産投資に似ているとイメージされがちだ。確かに安定した現金収入を毎月得られるという点では、似た側面もあるかもしれない。
もともとトランクルーム投資は、投資家自身が土地を取得して、そこに設備を設営して運営するタイプが多かったことも、両者が似たものと見なされる理由の一つだ。一方で、足元は投資家が物件を所有しないスキームも見られる。
まず、トランクルームには、大きく分けて屋外型と屋内型の二つのタイプがあることをおさえておこう。
屋外型とは、空き地にコンテナなどを配置して運営されるトランクルームだ。その土地は、実質的に全てトランクルームに使用することになるため、土地活用の方法が限られる郊外に作られるケースが多い。
このタイプへ投資する場合には、投資家が土地を取得するのが一般的である。運営業者が投資家の代わりに土地を購入する場合もゼロではないが、実際には投資家が保有する土地をトランクルームに当てる人が多い。屋外型のトランクルームへの投資は、より不動産投資に近い形態といえるだろう。
対して、最近はテナントの空室を利用してトランクルームとして運営する人も多い。この場合はテナントを借りるため、不動産を所有せずに運営を行うのが一般的だ。不動産がいらない分、高額な資金を投じて現物不動産を購入する必要がない。
室内型は、開いたテナントで比較的低コストで設営できる。また、建物の他の区画はオフィス・店舗など他の用途で活用できるため、不動産価格が高い都市部でも運営しやすい。
人口密集地であれば、利用者の需要も安定していると期待されるため、近年室内型のトランクルームは増加傾向だ。
トランクルーム投資の契約形態
トランクルーム投資はまだ発展途上で、さまざまなスキームが見られる。トランクルーム事業者と契約して運営するパターンに絞ると、大きく分けて次の3つがある。
- 一括投資
- 区分投資
- 固定収益型
このほかに、そもそもトランクルーム事業を一から自分で立ち上げる方法もあるが、これは投資というより企業に近いので、今回は割愛することとする。
一括投資とは、一つのトランクルーム施設の利用料を受け取る権利を丸ごと取得する方法である。屋外型の場合は、自分で物件自体を取得する場合もあるが、屋内側の場合は、事業の権利だけを取得して、不動産物件は他人が所有するスキームも多い。
また、管理の範囲も事業者やスキームによってさまざまで、客付けやメンテナンスなどを投資家が自前で対応する場合もあれば、トランクルームの事業者がほぼ一任して管理を担い、投資家は利用料から管理コストを差し引いた金額を受け取るケースもある。
このスキームでは1千万円~数千万円程度の取得価格となる。トランクルーム投資ではローンの活用が難しいため、実質同程度の金額の現金が必要だ。
一つの店舗のトランクルームを複数の投資家で分け合う区分所有スタイルも見られる。物件を丸ごと所有するよりは安価で投資できる。区分投資の規模や立地にもよるが、目安として5百万円以内で投資できる場合が多い。
区分所有スキームには、①一つの店舗内にある区画ごとに投資家に利益を受け取る権利を分け与えるタイプと、②店舗全体の収益を複数の投資家で投資口数に応じて山分けするタイプがある。
①については、トランクルーム事業者が公平に客を各区画に配分しなければ、区分所有者間で収入格差が起きてしまう。意図的にそのような行動に出る事業者は想定しづらいものの、実績が豊富で信頼のおける事業者で投資を始めるのがいいだろう。
最後に固定収益型のスキームも見られる。ここまで紹介したタイプにおいては、投資家の利益はトランクルームの稼働率に依存する。満室時を最大として、利用者が多ければ多いほど売り上げが増加するのだ。
これに対して、投資家の受け取る利益が固定されているスキームも見られる。稼働の上下について気にする必要がなく、経営を始めた初月から安定した現金収入を得られるのが特徴だ。
ただし、稼働が安定したトランクルームと比べると、固定収益型の方が利回りは低下する傾向にある。
トランクルーム投資と不動産投資の比較
トランクルーム投資と不動産投資を次の点から比較した。
- 利回り
- レバレッジ効果
- 安定性とリスク
- 税金や費用
- 減価償却
順番に見ていこう。
利回りはトランクルーム投資の方が高い
利回りの目安は、一般的にトランクルーム投資の方が高水準だ。不動産投資の利回りは、実質ベースで言うと、区分マンションで5%以下、アパートなら5%程度というところだろう。
もし借入を利用していれば、そこからローン返済が差し引かれるため、受け取るキャッシュフローベースでの利回りはさらに低下するだろう。
トランクルーム投資では、固定収益ではないスキームで15%、固定収益型では8~10%程度が目安となる。次に紹介する通り、トランクルーム投資でローンを活用する人が少ないため、収益から運営コストを差し引いた金額は、そのまま投資家の現金収入となる場合が多い。
レバレッジ効果を得られるのは不動産投資
一方で、借入を活用してレバレッジ効果を享受できるのは、不動産投資のメリットだ不動産投資では、多くの投資家が物件を担保にしてローンを借入れて、少ない自己資金で投資を始める。
そのため利回りは低くても、投下した資金対比の収益率である「ROIC」はより高くなる可能性があるのだ。少ない自己資金で多くの収益を得る仕組みが「レバレッジ効果」である。
トランクルーム投資はローン活用の余地が限られていて、もし活用できたとしてもキャッシュフローが大きく低下する。物件を所有しない投資スタイルでは、担保に預け入れられないためローンは借りられないか「事業用ローン」を活用することになる。
一般に不動産担保ローンより条件が悪く、借入可能期間も短いため、返済負担が重くなってしまうのだ。着実な現金収入を得るのがトランクルーム投資の魅力の一つなので、現実にはローンを活用する人は少ないと考えられる。
不動産投資のROICは物件規模や担保価値、ローン条件などさまざまな要素で変動する。そのため、ROICベースで、不動産投資とトランクルーム投資のどちらが優れているかは一概に判断できないだろう。
安定性 / リスクの特性はそれぞれ異なる
月次の現金収入の安定性は、大枠で見るとどちらにも当てはまる特徴である。稼働が安定すれば、不動産であれば賃料、トランクルームなら利用料が毎月入るようになる。
強いて言えばトランクルームは区画数が多い分、新規開店した場合は埋まるまで少し時間がかかる可能性がある。一方で一度埋まった後は、トランクルームの方が1人の契約終了が収益に与えるインパクトが小さいため、収益が安定しやすい。
また、トランクルームは不動産と比べて経年劣化を気にする人が少ない為、経年による利用料の低下も起きにくい。
リスクについても考えてみよう。不動産の場合は、不動産自体の劣化や市況悪化が価格下落要因となりうる。経年劣化による賃料下落は収益の減少リスクになるだろう。トランクルームは不動産を「所有するか」「しないか」によって少々リスク特性が変わる。
いずれの場合にも、実は「トランクルーム事業者の倒産」が重要なリスクとなる。基本的にトランクルームの運営や維持・管理は事業者に任せることとなる投資家が多いと想定されるため、事業者が倒産すればたちまち閉店となって、収入が途絶えてしまうのだ。
もし「不動産を所有」していれば、不動産の価値自体は手元に残るので、閉店して駐車場にする、ビルやアパートを建てる、土地を売却するなど、一定の現金回収の方法はある。
対して「不動産を所有していない」場合は、利用料を受け取る「権利」が無形の資産として機能していたわけなので、閉店すれば事実上この資産は無価値化する。すなわち、当初投資した元本は「全損」となる可能性が高いのだ。
突き詰めて考えると、不動産を所有しない形態は、よりトランクルーム事業者の事業リスクを負っていることがわかる。
税金や費用はトランクルーム投資の方がかかる項目が少ない可能性が高い
税金や費用の項目を比較すると、特に不動産を所有しない形態の場合は、トランクルームの方が費用・税金の項目が少ないことがわかる。特に大規模修繕を気にする必要がないという点では、収支管理はしやすいだろう。
不動産を持たない運営では、物件自体のメンテナンス費用を負担することはない。またトランクルーム設備の維持・管理は基本的に事業者が対応してくれる。
既存のテナントを借りるため、本質的には賃料が発生するはずだが、最近はトランクルーム事業者が負担する契約となっている場合も多い(そのときは、実質的に手数料にテナント賃料が含まれることとなる)。
不動産投資では、将来の大規模修繕や原状回復費用などをある程度プールしておく必要がある。長期的な視点で現金の使用や貯蓄を考えていなければならない。不動産を所有していると、固定資産税も発生する。
最終的には投資規模にもよるが、基本的に不動産投資の方が出ていく科目が多い点に注意が必要だ。
減価償却/費用はトランクルーム投資の方が短期で一気に計上できる
減価償却や経費計上による節税を投資の付随的な目的としている人もいるだろう。不動産投資の場合は、建物の築年数や耐用年数に応じて減価償却期間が大きく異なる。たとえば、木造の築古物件を取得すれば最短4年程度、長いものではRC造りの新築で47年にも及ぶ。
トンラクルーム投資は、不動産を所有するとしても、土地だけを所有する状況であれば、不動産に対する減価償却はない。一方で、利用料を受け取るための契約は、無形の繰延資産とみなされる場合がある。こちらについては5年間で減価償却をする。
以上を総括すると、トランクルーム投資の場合は、支払った現金の一部はその年に経費計上して、繰延資産は5年で減価償却するケースが多い。
まとめ
トランクルームを活用した投資を手がける事業者は増えつつある。日本全体でまだまだトランクルーム店舗の増加余地がある中で、投資家からの資金を集めてトランクルームの事業を拡大を進めている状況だ。
トランクルームを投資としてみた場合には、不動産投資よりも利回りが高く、資金管理がシンプルな点が特徴だ。区分投資スキームも含めれば投資資金は、百万円~1千万円台程度ですむ。
「不動産投資の初期費用を捻出できないが、トランクルームなら検討できる」という人も多いだろう。
対して不動産投資は、借入を活用してレバレッジ効果を享受できる点が強みだ。うまくいけば、投下資本対比では大きな収益を得られる可能性がある。どちらにもメリット・リスクがあるので、自分に合った方法を比較検討して、投資検討を進めてほしい。
執筆:
(いとう けいすけ)