グロービス流 キャリアをつくる技術と戦略』(グロービス経営大学院著、村尾佳子執筆、東洋経済新報社)は、ビジネスリーダーの育成に定評のあるグロービス経営大学院が、「10年後に後悔しないためにすべきこと」を説いたキャリアマネジメントテキスト。

目先のキャリアではなく、自分がどういう人生を歩みたいのか、そして突然の環境変化にまで目を向けて、自分で整理しながら考えることができること」(9ページより)を目指したというだけあり、キャリア構築を目的とした実践的な議論、そして有効な方法論が紹介されています。

具体的な行動を促す第5章「やるべきことに向けて動き出そう」から、いくつかを引き出してみます。

「自分マーケティング戦略」を立てる

いかに自分を魅力的に見せ、売り込むかという点について考えるためには、マーケティング戦略の発想が役立つそうです。(209ページより)

  1. 外部/内部の環境分析を通じて、市場機会を発見する
  2. 市場を細分化し、どこで戦うかを決める(ターゲティング)
  3. 競合と比較していかに魅力的に見せるのかを検討する(ポジショニング)
  4. 具体的な打ち手を考える(マーケティング・ミックス)

という流れをたどる基本的なマーケティング戦略策定のプロセスをもとにキャリアを考えた場合、次のようなステップになるということ。

1)転職市場や自分を取り巻く環境などを分析しながら、動くべきタイミングを見極め、目標を仮決めする。(市場機会の発見)

2)仮決めした目標に対し、アプローチする社内ポジションや転職の場合は企業、さらに職種を絞り込む。(ターゲティング)

3)それぞれの社内ポジションや転職候補企業に対し、いかに自分が魅力的に見えるか、自分の強みを整理し、自分をアピールする言葉を磨く(能力は持っている前提)。(ポジショニング)

4)(3)をもとに、いつ、どのように応募するか、どれくらいの給料を要求するか、などを検討する。(マーケティング・ミックス)

(1)について重要なのは、「目標の妥当さ」と「動くタイミング」の見極め。その際に有効なのが、3C分析といわれるフレームワークだそうです。

3Cとは「市場(customer)」「競合(competitor)」「自社(company)」の頭文字で、外部環境の市場と競合の分析からKSF(当該事業で成功するための要件)を見つけ出し、戦略に活かす分析をするフレームワーク。「自社」を「自分」に、「市場」を「社内異動先」や「希望する転職先」に、「競合」を「ライバルになる同世代のビジネスパーソン」に置き換えて考えればいいということです。

(2)についてすべきは、自分がアプローチするポジションや職種、企業を絞り込むこと。特に転職の場合は、絞り込んだ企業が本当に将来的に魅力的なのか、自分にとって本当によいのかを充分に確認する必要があるといいます。このとき有効なのは、「今の仕事」と天秤にかけながら比較検討していくことだとか。

次いで(3)においては、いかに自分を魅力的に見せるかを徹底的に、戦略的に考える必要があるといいます(その仕事に必要な能力が備わっているという前提)。具体的には、自分のキャリアを相手の文脈に合わせ、できるだけ魅力的に見えるようにストーリーを作る。誇大化するのではなく、事実をもとに、どのように見せるかを考える。数多くいる候補者のなかで、目立つ存在にならなければいけないわけです。そして(4)は、社内異動を狙う場合と、転職する場合のふたつの選択肢があるとのこと。

行動計画が「自分マーケティング」成功のカギ

行動計画をつくる上で重要なのは、「期限を区切る」こと。できるだけ具体的に考え、「実現可能性」をしっかりと考えて計画を立てるべきだといいます。ちなみに行動計画で明確にしておく必要があるのは、以下のとおり。(216ページより)

  • 目標(相手側の条件の確認と自分の能力のギャップを知る)
  • 目標達成のための具体的アクションと達成予定期間
  • 予想される障害(自分の上司の反対等)と対応策

ここですべてをご紹介するわけにはいきませんが、これだけを見てみても内容の緻密さを推し量れるのではないかと思います。とても密度の濃い書籍ですので、読了した際にはきっとなにかを得ることができると思います。

(印南敦史)