健康的な生活習慣に関心のある人なら、どこかで「朝食は1日の食事の中でもっとも重要」みたいな文言を目にしたことがあるでしょう。バリエーションはさまざまで、「朝食を食べると代謝が活発になる」とか、中には「朝食を食べなきゃ死ぬよ」なんて過激なものまで。ところが、これらは全部間違いだったらしいことが、最近わかってきました。
筆者自身、朝食については長いこといろいろ試してきました。子どもの頃は太っていたのですが、当時は朝食なんて面倒だと思っていました。ところが2010年に、オーツ麦とホエー(乳清)の朝食を始めてから、これは朝の「お約束」になりました。ほとんど神への信仰みたいでした。「食の神にこれを捧げないと1日が始まらない」という感じです。それは決して神への愛から来るものではなく、むしろ畏怖に近い感覚でした。これを捧げないと、気まぐれな神様のバチが当たって、代謝が悪くなったり、筋肉量が減ったり、ワークアウトがうまくいかなかったりする...そんな風に思っていたのです。
でもその後、健康についていろいろ読むようになって、別の健康法も試すようになりました。その中で、細マッチョを目指すブログメディア「Leangains」で提唱されている「断続的断食法(Intermittent Fasting: IF)」という食事法を知りました。この食事法では、食事をとって良いのは日中の8時間前後だけ。残りの時間帯は断食です。普通に実施すると、朝食を摂らずに動きはじめる感じになります。最初は半信半疑でした。でも、さまざまな研究や実験を通じて、朝食が1日の食生活の中で相対的にどのくらい重要か(というより「重要でないのか」)、いろいろわかってきたのです。
「朝食は不可欠」説の根拠とされるもの(と、それが正しくない理由)
朝食がいかに健康にいいのかを論じる研究は、山ほどあります。朝食を抜くと心臓や血液の健康に悪影響をもたらすとか、朝食を食べている生徒の方が学校の成績が良いとか。でも、こうした調査をよく読むと、ほとんどは観察研究なのです。つまり、既存のデータを眺めて仮説を導き出そうとしただけで、被験者グループを一定の条件下に置いて実験を行う介入研究とは異なります。
問題なのは、体内で起こっていることはどれも非常に多面的なもので、数え切れないほどの要素に左右されているということです。例えば、もしかしたら、朝食を食べている生徒の方が家庭の収入が高く、その影響で学校の成績も良いのかもしれません。つまり、相関関係と因果関係は別物ということ。
実験の条件を揃えておかないと、その実験で得られた結果が、ある特定の要素に起因しているのか、それともさまざまな不確定要素の影響が重なり合って生じたものなのか、わからないのです(とはいえ、人体に関することは、観察研究以外の方法では調べにくいのですよね)。
古くて今では有効でないとされている研究の成果が、広く一般に根づいてしまっていることがあります。少量の食事を、1日の中で何度にも分けて摂ると「代謝が活発になる」というのも、そのひとつ。これが時とともに変化して、「朝食は健康的な食生活の大黒柱」という思い込みになりました。理屈はこうです。夜8時間寝ている人なら、その8時間はいわば「ボイラーの火を落とした」状態だったわけで(夢遊病で、寝ている間に食べてしまう人は除きます)、すぐに朝食を食べないと「エンジンがかからない」というわけです。でも実際には、この説を裏づける証拠は存在しません。
1日の食事回数は、短期的には「食物の産生熱量(TEF)」に影響をおよぼします。TEFとは、消化吸収や栄養素を体内に行きわたらせるのに使われるカロリー量を指します。でも24時間のトータルで考えたら、結局は同じことです。栄養に関する学術誌『The British Journal of Nutrition』に発表された研究で、被験者を1日3食と6食のグループに分けて追跡したところ、摂取カロリーと栄養価の総量が同じならば、代謝量も変わらないとわかったそうです。
では、食事のタイミングはどうでしょうか。臨床栄養学の学術誌『The American Journal of Clinical Nutrition』に去年発表された論文では、ボランティアの被験者を朝食を食べるグループと食べないグループに分けて、毎日そうするように指示しました。つまり、食べるグループなら1日も朝食を抜かさない、食べないグループなら毎日抜かすというわけです。結果的に、普段の食習慣をそのまま続けることになった被験者と、変えることになった被験者が出ました。16週間後に身体測定を実施したところ、有意な体重減少が見られた被験者は1人もいませんでした。全体の平均では、減量したのはわずか1ポンド程度(約0.5kg)。グループ全体では、朝食を抜かそうが食べようが、体重にはまったく影響しなかったのです。似たような研究で、期間が12週間のものもありますが、やはり朝食を食べるか食べないかにかかわらず、体重の減量幅に有意差は生じなかったとのことです。ただしこちらの実験では、被験者は減量自体には成功していて、普段と食習慣を変えるように指示された被験者は、特に減量幅が大きかったそうです。
要するに朝食なんて、食べても食べなくてもどちらでも良いということです。午前中の断食を試してわかったこと
冒頭で触れたIF食事法は、1日の中に断食の時間帯と食べても良い時間帯を設けるもので、「午前中に食事を摂らない」というのは、そのやり方のひとつです。この食事法のことをとやかく言う人もいますが、「朝食を抜くと認知機能や代謝に悪影響があるという説は間違った観察研究に基づいていた」ことは、最近の研究でわかっています。実際には、短時間の断食をしても認知機能に悪影響はないし、むしろカテコールアミンが放出されるおかげで、代謝量は増加するのです。
でも、この食事法をやってみて個人的に一番のメリットだと感じたのは、おかげで自由になれたことです。2010年ごろに最初にIFを試した時は驚きました。代謝が悪くなったりはしないし、空腹を感じたり、食べても良い時間帯にドカ食いしてしまったりもありませんでした。事前にインターネットでいろいろ読んだように、こんな食事法を続けたら筋トレの努力がムダになって、しおれて死んでしまうと思い込んでいましたが、そんなことにはならなかったのです。
グレリンというホルモンのはたらきで、私たちは毎日だいたい同じ時間帯に食事を摂る習慣ができています。そのせいで、IFに慣れるまでには、筆者の場合は1週間かかりました。でもそれ以降は、午前中の生産性が上がったと思います。朝のノルマがひとつ減ったわけですから。以前はまったくの義務感から、卵を割ってオートミールの支度をしたものですが、その代わりにトレーニングや読書ができます。目覚ましのスヌーズボタンを押したって良いんです。
筆者は痩せたい人のためのパーソナルトレーナーをしており、クライアントにもIFを試すよう、よく勧めているのですが、多くの人が同じ効果を感じたそうです。もちろん、これは誰にでも効果のある究極の減量法というわけではありません。でもこの方法を試したおかげで、多くの人が、「唯一正しいとされる食習慣」にただ従うのをやめて、「自分の好みに合った食習慣」を見つけられたのです。IFを試したあと、たいていの人はこの食事法を続けていますが、やめてしまった人もいます。でも大事なのは、この食事法を試せば「目標を達成できるかどうかは、日々のルーチンの細部をどうしようが関係ない。一度決めたルーチンを守り続けることのほうが重要だ」と実感できることです。
自分にとってうまくいく食習慣を見極めること
これを読んで、「午前中は断食した方が良いの?」と迷っている人もいるでしょう。自分にとってうまくいく方法を選んでください。朝食を食べたければ、食べましょう。胃にもたれそうなら、抜きましょう。どちらにせよ、悪影響はありません。ただし、新しい食習慣を試す際は、慣れるのに1週間はかかると思っておいてください。決める時は、個人的な好みに従って、長期間続けられる方法を選ぶべきです。
で、「1日の食事の中でもっとも重要」なのはどれかって? 自分でこれと思うものを選べば良いのです。
Dick Talens(原文/訳:江藤千夏/ガリレオ)
Images by Alvaro Tapia, Carmen Eisbar, and Polandeze.