「子育ては日々の成長の発見、PTAはダイバーシティー。育児を通して地域とかかわることはさまざまな経験ができ、ビジネス・スキル向上の絶好のチャンス。やらない理由が見つからない」

こう熱く語るのは、"元祖イクメン"と言われ、「NPO法人コヂカラ・ニッポン」の代表を務める川島高之さん。商社勤務のあと、上場企業の資産運用会社社長に就任。ビジネスに結果を出しつつ、部下たちのワーク・ライフ・バランスの充実を考え、私生活にも配慮する「イクボス」を提唱しています。

子育てや家事の経験を活かした「ライフの視点」、社長としての経験を活かした「ビジネスの視点」、PTA会長やNPO代表での経験を活かした「ソーシャルの視点」という、"3つの視点"を融合させ、多忙な社長業務の傍ら、全国で講演活動なども幅広く行っています。今回は「イクメン」「イクボス」を体現している川島氏に、イクメンの浸透や広がり、イクメンの利点や課題などについてうかがいました。

ウェブメディア「Mugendai(無限大)」の記事より抜粋してご紹介します。

川島高之(かわしま・たかゆき)
NPO法人コヂカラ・ニッポン 代表 / 三井物産ロジスティクス・パートナーズ株式会社 代表取締役社長
1964年神奈川生まれ。慶應大学理工学部卒、三井物産株式会社に入社。2012年より、系列上場会社である三井物産ロジスティクス・パートナーズ株式会社の代表取締役社長に就任。地元の小・中学校ではPTA会長、少年野球のコーチなども務めてきた。子ども教育関連のNPO法人コヂカラ・ニッポン代表、イクメン関連のNPO法人ファザーリング・ジャパン理事を務め、ライフ、ワーク、ソーシャルの3つの視点や経験を融合させた生き方をテーマにした講演を各地で行っている。著書に『いつまでも会社があると思うなよ!』(PHP研究所)。『AERA』の「日本を突破する100人」にも選ばれている。

イクメンの浸透・広がりに伴い、新たな課題も

── "元祖イクメン"と言われるお立場から、その浸透や広がりについて、現状をどう見ていらっしゃいますか。

川島:私がイクメンを始めた18年前は、PTAや子どもの運動会を理由に仕事を休むと「え?」という顔をされたものです。今は子育てに積極的に取り組む男性も少しずつ増加しており、「イクメン」は大分浸透してきたのではないでしょうか。一方で、課題も生まれてきています。

1つは男性が「2人目の母親」になっているという点です。性別はどうあれ、子育てには父性と母性の両方が必要なのに、父親も一緒になって母性が強くなり、子どもに対して過干渉になってきています。

たとえば、昔は学校に対するクレームは圧倒的に母親からが多かった。子どもが喧嘩した、怪我をした、と。それに対して父親は「そんなことで」と諭す立場だったのが、今では両親そろって学校にクレームをつけに行く。また、お受験パパも増加し、両親そろって子どもにプレッシャーをかけているという状態です。

2つ目は、「ニセイクメン」の増加です。週末に子どもと一緒に遊んでいるから自分はイクメンだ、と言う男性がいるらしいのですが、それは楽なところをやっているだけで、ちょっと虫がよすぎる。子どもが病気をしたら交代で休み病院に連れて行く、おむつを取り替える。共働きで子育てをしているのならば、最低それくらいはして初めて「イクメン」ですよ。

物事は一方に進むと悪い方も出てくるものです。だから、イクメンが増えてきたのはいいけれども、その流れの中で勘違いなどの反作用も出てきているというのが現状だと思います。

── とはいえ、イクメン自体は今後、当たり前のこととして定着していくのでしょうね。

川島:共働き家庭が増加している現在、家事や育児の面でも共に協業しないと、妻にばかり負担がかかってしまいます。つまり「家庭でも共働き」することは自然な流れです。また、子育てをすれば必然的に地域と関係しますので、地域活動も同様です。育児・家事・地域、そして将来は親の介護などを妻に丸投げするのではなく、夫も一緒にやるという時代にどんどんなっていきますから、イクメンが当たり前になっていくでしょうね。

「PTAはビジネス・スキルを磨く場でもある」ママさんマネジメントから得たもの

── お仕事が忙しい中、地元の小・中学校でPTA会長などの活動にかかわられたきっかけは。

川島:小学校に入ればPTAがあり、当然誰かがやるわけです。私も、1人の子の父親として、当たり前だと思ってやったら、すごく楽しい。やりがいもあり、自分自身の成長のためにもやる価値が高いということに気が付いたので、その後は積極的にやるようになりました。

── あえて母親ではなく、父親がPTA活動に参加するメリットは何だと思われますか。

川島:PTAは大体が女性社会、しかも専業主婦が多い。勤め人の母親がそこに入ると、えてして専業主婦との闘いになってしまうのです。女性は「私は仕事がありますから」と言って途中で退席しにくい。しかし、男性の場合は、同じことをしても、「仕事があるのに、来てくれてありがとう」となるのです。PTAや地域活動にとって、従来から男性は希少価値でした。そこに男性が出て行くことは、本人にとっても、PTAや地域にとってもいいことだと思います。

また、教員の方にとっても、父親の参加は歓迎されていると思います。女性同士だとなかなか結論が出ないことがありますが、男性だとビジネスの場で日々鍛えられていることもあって、とにかく結論を出そうとしますからね。

── 仕事と同様、ママさんたちのマネジメントが必要ですね。

川島:まさに、会社のマネジメント・スキルがそのままPTAのマネジメントに生きるし、逆に、PTAでマネジメントをやっていたことが、会社のマネジメント能力を高める効果もありました。

実は会社のマネジメントよりも、ずっとママさんマネジメントの方が難しいのです。PTAにいたっては、学校や父母、さらに、地域の重鎮、町内会長のような人がいるので、まさに「ダイバーシティー」です。会社のような共通言語はないし、あうんの呼吸も効かない。しかも、「PTA会長の命令だ」というような職権も使えません。

会社には明確な1つの目標や共通言語はあるし、最後は社長命令という職権が使えます。私は自分のマネジメント能力を高めてくれたのは、PTAだと思っています。本当にやって良かったと思います。

だからこそ、私はPTA会長の後任を選ぶ時に、男性こそやった方がいいと言い続けました。やりがいがあるし、絶対自分のためになるよと。楽しそうに活動している人たちを見れば、他の人も参加したくなりますよね。結果的に、私のいた学校では役員の半数が男性になりました。

川島さんのお話をまとめると、男性が真正面から育児に向き合い、「真のイクメン」になれるなら、それは家族や社会にとってメリットがあるだけでなく、男性自身にとっても貴重な体験になるということでしょう。

以下のリンク先で川島さんは、「成果を出すことがライフ・ワーク・バランスの実現にとってまず重要」だと語り、新時代のビジネスマンが意識しておくと良い点を教えてくれています。また、社員の多くがライフ・ワーク・バランスを重視するようになったとき、部下の私生活に配慮できる、新しいタイプの上司「イクボス」が必要になってくるだろうとも語っています。今後、日本の男性はどのように子育てに関わり、部下たちを育てていくといいのでしょうか? 関心のある方は以下のリンクよりぜひご確認ください。

子育ては期間限定のプラチナチケット ――「イクメン」が日本を「人材資源大国」にする | Mugendai(無限大)

(ライフハッカー[日本版]編集部)