Inc. : これからの仕事は、イノベーションと俊敏性がすべてになります。めまぐるしく変わり続ける状況にいつでも対応できるようにしておく、つまりいつでも新しいことを学べるようにしておかなければならないということです。
もはや学習は、学校でするものとは限りません。新卒で働き始めたときに学んだスキルだけに依存してはいられないのです。それでは間違いなくキャリアが停滞してしまうでしょう。
そこで私は、科学を応用した、潜在的なリーダーシップ能力の開発を研究するNeuroLeadership Institute(NLI)の研究責任者で主任教授であるJosh Davis博士に話を聞くことにしました。
NLI が最近研究しているのは、どうすれば考えを頭にとどめておくことができるかということです。この研究によって、同研究所は、効果的学習のための4つの条件──Attention(集中)、Generation(アウトプット)、感情(Emotion)、Spacing(間隔)──を説明するモデル、AGESを考案しました。
AGESモデルとはどのようなものか?
- Attention(集中):学習する際は、1つのことに全神経を傾け、集中を維持する。
- Generation(アウトプット):話を聞くだけでは不十分。学習した情報を使ってなんらかの活動をすることで記憶定着率が高まる。情報を有意義に活用するようなシチュエーションを作り出す。
- Emotion(感情): 強い感情は強い記憶につながる。学習したことを感情に結びつける方法を考える。
- Spacing(間隔):記憶量を増やすためには、学習と学習のあいだの間隔を作る必要がある。
── なぜ今AGESモデルがそれほど重要なのでしょう?
Josh:仕事の世界が目まぐるしく変化する状況下、すべての人が学び方を学ばなければならなくなりました。学習の達人になる必要があるということです。この4つの原則は、長年にわたる何百もの調査研究から引き出されたものですが、意識的に覚えたいことを意識的に覚えるための、非常に効果的な方法です。── 人の学習を阻むもので、最もよくある障害は何だとお考えですか?
Josh:誰もが学校生活で覚えた同一の勉強法があります。それは、すべてを一度に勉強するというやり方です。一夜漬けの試験勉強に見られる、たくさんの情報を一度に取り入れ、吸収できるだけしようという方法です。しかし、情報を記憶するのが目的ならば、この方法は非効果的です。ではどんな方法が効果的かというと、何かを勉強したら一晩寝て、もう一度勉強するというやり方です。睡眠は、実は受動的なものではありません。多くの脳のプロセスが活発に働いていますが、その1つが、その日に重要とマークされたことが再活性化されるプロセスです。私たちはそうして記憶を養っているのです。しかし、それは瞬時に起こることではありません。学習し、一晩寝てから復習するというプロセスを経て初めて再活性化されます。
AGESモデルの活用法
Josh:たとえば、あなたがある社員にすばやい適応を求めているとしましょう。新しいことを迅速に学習し、覚えたことを忘れないでほしい、同じことを繰り返し教えなければならないのは困る、と考えたとします。社員が4原則のすべてを実践しやすい状況を作る手段の1つとして、本人のしていることや学んだことを他の誰かに教えさせるという方法があります。人に教えなければならない状況に立つと、自分が学ばないわけにはいかなくなります。実際、人は教える立場になったほうが自身の学習効率が高いという研究結果も存在します。もし私が、わが社での仕事の仕方を人に教えることになったら、その人と向き合って自分の知識を伝えなければならない必要性から、おのずと懸命に集中するでしょう。
また、そのことを、自分がすでに知っていることに結びつける必要性も出てくるし、相手がどのような関連性を見出すかも考慮しなくてはなりません。情報をまとめ上げて、説得力があり、有効で、教わる人の感覚に合った話をしようとするので、多くの関連づけを行うことになります。
このプロセスでは、自分のいいところを見せたいという気持ちが働くので、感情も動きます。社会的交流は、私たちにとって非常に重要なものです。人に教える立場に就いたら、相手をがっかりさせたくない、自分を知的に見せたい、興味をもってもらいたいと思うでしょう。そうしたさまざまな社会的動機が絡んでいるので、教えることは感情的行動なのです。
また、人に教えるのは、通常、自分が学んで直ぐではありません。1週間後なり1カ月後なりになるので、そのつど情報を復習するでしょう。つまり間隔が空くのです。
ですから、誰かに何かを学んでほしければ、人のために、本人がそれを習得し、まとめ上げ、教えなければならないような立場に就かせましょう。4原則のすべてを働かせ、学んだことを保持するにはすばらしい方法です。
アウトプットに必要なこと
── AGESはご自身の学習能力向上にどう役立っていますか?
Josh:意識的に学習したいことがあるときは、まず、他の情報が入ってこないようにします。メールチェックをやめ、他のことにも邪魔されないようドアを閉めて、学習に専念します。また、間隔を空けて必ず復習するようにし、人にどう教えるかを考えます。さらに、学んでいることが、大事なことをするのにいかに役に立つか? 興味深いことならこれをいかに活用できるか? このことに興味をもちそうな知り合いは誰だろう? 達成したいと思っていることを達成するのに、これがどう役立つか? といったことを自問します。そうして、自分がすでにもっていた目標に結びつけるのです。
感情の部分は、私自身にとってもやや実践が難しいのですが、教えようとすることで、感情的要素に結びつけやすくなります。また、誰かに一対一で教えるときは、その内容にいかに価値があるかを相手が自分で気づくように導いています。そのほうが、ただ答えを教えた場合よりも、教わる側の実践率が高くなるのです。自分自身の洞察をもつというのは、強力なアウトプットです。さらに、気づきを得ることは気持ちの良いことなので、感情を引き起こす効果的な方法でもあります。
── 洞察をもつことは習得の一番の近道だとおっしゃっていますが、洞察が得られるような環境はいかにして作ることができますか?
Josh:気づきを得るための最適な状態について語る前に理解すべきことがあります。それは、人が、一度に意識的に認識することができる事柄は、たった1つだということです。これは強力な制約です。無意識で何千もの異なる情報を取り入れることはあっても、意識的な認識はたった1つしかできないのです。洞察は、これまでにもったことのない脳の新しい電気信号、すなわち新しい考え、そして情報をまとめる新しい方法ということになります。しかし問題は、新しい情報は、使い慣れた回路、つまりニューロンのつながりが最も強固な回路を通らないことです。最も強固な回路を使い、自覚意識を保持するのは、簡単に考えられる事柄や、すでに考え慣れた事柄なのです。周囲を見回してみると、目に入ってくるのは、意識的注意を払いやすい物です。それが、気づきを得るのが難しい理由です。
洞察を得るための条件
Josh:目指したいのは、意識的認識ができるキャパシティを増やすことです。洞察を得やすくするための条件は4つあります。まず、心を落ち着かせることです。とは言っても、外が静かな環境である必要はありません。多くの事柄が競って意識的認識の枠に入ろうとするような状態を避けるということです。2つめは、心の中に目を向けることです。人が気づきを得るときは、心の中を見つめるので、ある程度の視覚機能が働きます。これは、目から視覚情報が入ってはくるものの、視覚野で処理されないという現象です。多くの外部刺激が認識の枠を競わないようとらえるのです。
3つめは、ややポジティブな気分になることです。気持ちがポジティブなほど、新しい回路ができやすくなり、洞察的解決がなされやすくなるのです。ネガティブな気分のときは、段階的で分析的な解決方法になる傾向があります。不安や悲しみといったネガティブ感情があると視野が狭くなりがちですが、ポジティブ感情は、視野を広げる傾向があります。したがって、さほど批判的にならずに新しい考えを受け入れることができるのです。
4つめの条件は、問題のことを考えすぎないことです。以上の4つの条件を満たせば、洞察が得やすくなるでしょう。
Four Secrets to Learning Anything According to Neuroscience|Inc.com
Laura Garnett(訳:和田美樹)
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