さて、2015年もいよいよ大詰めです。
2012年8月からライフハッカー[日本版]で書評を担当している私は、今年も230冊以上の新刊をご紹介してきました。なるべくフラットに「情報」を提供したいという目的があるため、ここではなるべく主観を排除して「紹介」に徹しているのですが、とはいえこれだけの冊数を読めば、印象的なものも少なくありません。
そこで今年最後のこのコーナーでは、あえて主観的に2015年のベスト10をチョイスしてみようと思います。
10位
『最悪から学ぶ 世渡りの強化書──ネガポジ先生 仕事と人間関係が楽になる授業』(黒沢一樹著、日本経済新聞出版社)
虐待、貧乏、父親が4人、自殺未遂などなど、普通の人の10倍くらいのハードライフを送ってきた著者による処世術。シンプルな内容ながら、本人の個性と生き方、考え方が強烈でした。
9位
『日本へのラブレター』(NHKワールド・ラジオ日本編、 あさ出版)
3月11日にご紹介した本書は、東日本大震災後に50カ国を超える世界各地から送られてきたメッセージをまとめたもの。純粋な気持ちが伝わってくるだけに、特定の国の人たちへの偏見も吹き飛ぶはず。
8位
『30円のブラックサンダーで 100億円企業になった理由』(エムシー・ブー著、トランスワールドジャパン)
ビースティー・ボーイズとも交流を持つラッパーであり、コミュニケーションデザイナーとしても活躍する著者が、チョコレート菓子「ブラックサンダー」が売れる理由を紐解いたユニークな内容。発想の柔軟性と分析力が魅力。
7位
『5年後の自分を計画しよう 達成する希望術』(シェーン・J.ロペス著、森嶋マリ訳、文藝春秋)
人生を階段だとして、5年後に現在よりも高い位置にいると答えられるなら、未来に対して信念を持っていることになる――。そんな考え方を軸に、「希望を持つこと」「達成すること」の重要性を説いた作品。
6位
『池上彰に聞く どうなってるの? ニッポンの新聞』(池上彰著、東京堂出版)
新聞各紙の成り立ちや性格から、報道姿勢についての考え方までを、平易な言葉でわかりやすく解説した良書。新聞離れが叫ばれるなか、「それでも重要」な新聞の価値を理解することができます。
5位
『日本の神さまと上手に暮らす法』(中村真著、ダイヤモンド社)
コンビニよりもたくさんあるのに、どこか遠い印象のある神社。そして、もっと縁がなさそうに思える「日本の神さま」。それらを意識することで得られる精神的なメリットを、宗教的な視点とは異なる角度から検証した著作。
4位
『ぼくたちに、もうモノは必要ない。―断捨離からミニマリストへ』(佐々木典士著、ワニブックス)
「断捨離」のネクスト・ステップとして注目を集める「ミニマリスト」についての、先駆者的な一冊。個人的にはミニマリズムを全面的に肯定するわけではありませんが、時代を読み解く鍵としては、大きな意義を持つ作品であるといえるでしょう。
3位
『物欲なき世界』(菅付雅信著、平凡社)
人がモノを買わなくなり、物欲が縮小してゆく"その先"にある未来の輪郭を、緻密な取材をもとに紐解いていった秀作。来たるべき時代のあり方を、的確に、そしてポジティブに解析しているだけに、読みながら気持ちが高ぶっていくのがわかりました。年末休みに「1冊だけ」読むとしたら、選ぶべきはこれかも。
2位
『在日中国人33人の それでも私たちが日本を好きな理由』(趙海成著、小林さゆり訳、CCCメディアハウス)
大学教授から不法滞在の料理人まで、さまざまなフィールドで生きる在日中国人が語る「日本への思い」をまとめたインタビュー集。たとえ日中関係が緊張していたとしても、「人間対人間」という個人レベルではわかりあえるはずだと実感できる優れた内容。なお、ここにも登場する"歌舞伎町案内人"こと李 小牧氏の新著『元・中国人、日本で政治家をめざす』もおすすめです。
1位
『天才たちの日課 クリエイティブな人々の必ずしもクリエイティブでない日々』(メイソン・カリー著、金原瑞人・石田文子訳、フィルムアート社)
マルクス、フロイト、ヘミングウェイ、アインシュタイン、村上春樹、スティーヴ・ライヒ、アンディ・ウォーホル、ゴッホなど、161人におよぶ各界の"天才"の日常を、私情を交えることなく淡々と解説したユニークな書籍。「天才といえども生活は普通」だという当たり前の事実を確認できる一方、明らかに普通ではない日常を垣間見ることもできるだけに楽しみがいがあります。
もちろん、このほかにも印象に残った作品は数多くありまます。たとえば『これ1冊でできるわかる 小さな会社のマイナンバー制度 やるべきこと、気をつけること』(村阪浩司著、あさ出版)は、新制度への知識をつけておくために役立ちました。『日本人のためのピケティ入門:60分でわかる「21世紀の資本」のポイント』(池田信夫著、東洋経済新報社)は、ピケティの『21世紀の著作』を読破する時間がない人にも要点が理解できるという意味で便利だと感じました。『外資系OLは見た! 世界一タフな職場を生き抜く人たちの仕事の習慣』(ずんずん著、KADOKAWA)は、エリートでもなく帰国子女でもない普通の女の子が外資系OLとして活躍するさまが痛快でした。
また変わったところでは、『芸術がわからなくても美術館がすごく楽しくなる本』(藤田令伊著、秀和システム)も気に入った1冊です。アートライターである著者が、とかく「難しそう」だと敬遠されがちな美術館の楽しみ方をわかりやすく解説した作品。
来年もきっと、多くの良書が生まれてくるのでしょう。「出版不況」「活字離れ」といわれるようになってかなりの時間が経ちますが、それでも「読書好き」がいなくなるわけではありません。これからも、少しでも役に立ちそうな書籍をご紹介していきたいと考えておりますので、ぜひ来年もよろしくお願いします。
(印南敦史)