道なき道を拓き、未だ見ぬ新しい価値を世に送り出す人「起業家」。未来に向かって挑むその原動力は? 仕事における哲学は…? 時代をリードする起業家へのインタビューシリーズ『仕事論。』。

今回は、次世代ファミリーコンシェルジュサービス「Yohana(ヨハナ)」を立ち上げた松岡陽子(ヨーキー松岡)さんが登場。

アメリカの「天才賞」マッカーサー・フェローを受賞し、Nest社CTO、Google副社長などを歴任、現在はパナソニック執行役員を務める松岡さんが、Yohanaにかける熱き想いとは? 多彩な経験から得た仕事観と、リーダーとしての哲学を伺いました。

テクノロジーで「なりたい自分」になれる世界を目指す

──まずはYohanaをはじめるに至った経緯をお聞かせください。

私の人生のミッションは、『テクノロジーの力で誰もが「なりたい自分」になれるようにサポートすること』です。この想いはマサチューセッツ工科大学(MIT)の大学院でロボット工学を学んでいたころから変わりません。

かつてマッカーサー・フェローを受賞した際にはその助成金を元手に、ヨーキーワークス財団を設立。身体面で課題を抱える子どもたちのためにテクノロジーでできることを模索しました。シリコンバレーに拠点を移してからは、そのミッションを事業として実現するために、研究と実践の両面から取り組んできたのです。

Yohanaを立ち上げる前、私の中には「ハードウェア、サービス、AIを組み合わせることで、家族をより大切にできるようなソリューションを提供したい」という考えがありました。

「それをどこで・どのような形で実現するか?」ということを考えていた時、タイミング良く出会えたのが、パナソニックだったのです。

松下幸之助さんの「主婦を家事労働から解放し、人々のくらしを豊かにしたい」というビジョンを受け継ぐパナソニックの考え方、未来への想いは、まさに自分のミッションとピッタリ重なるもの。共感を覚えると同時に、「ここが求めていた場所だ」と確信し、入社を決めました。

──現在手掛けているYohanaについて教えてください。

Yohanaは、スマホのアプリやブラウザから、暮らしのタスクをコンシェルジュにどんどん依頼できるサブスクリプションサービス

現代の家族は、いわゆる名前のついている家事以外のさまざまな暮らしタスクに週約17時間(※)も費やしています。そのようなタスクをYohanaでは専属チームが整理し、解決しています。月額1万円(税込)で、依頼数の制限もなく利用可能です。

※Yohana調べ:首都圏の30-40代の子育て中の共働き世帯の男女600名を対象にした調査結果より(2023年1月実施)

スマートフォンアプリからタスクを依頼することができる
スマートフォンアプリからタスクを依頼することができる

──暮らしのタスクというと、具体的にどんなことをお願いできるのでしょうか?

本人に代わっていろいろなことを調べたり、候補をピックアップしたり。ネットショッピングの注文や予約も代行します。

たとえば毎日の献立を考えるのって大変ですよね。Yohanaに任せていただければ、1週間の献立や買い物リストを用意し、残り物のアレンジも提案できます。ネットスーパーを利用されている方には、Yohanaが代わりに食材のカゴ入れまで行なうことも可能です。

また、旅行や子どもと楽しめるお出かけプラン、パーティやプレゼントの計画も得意です。

さまざまな相談事にチャットベースで対応し、家族に寄り添うパートナーのような存在がYohana

さらに別料金で、Yohanaのスタッフやパートナー会社のプロフェッショナルが、料理や掃除代行、整理整頓、家のさまざまな修繕などを行なうプライムプロ(※)というサービスもあります。

Yohanaは2021年9月にアメリカ・シアトルでサービスを開始し、2022年9月に日本でもスタートしました。サービス開始以来、これまで日米合計で1万世帯以上の家族をサポートしてきました。日本での対象エリアは現在、東京都と埼玉県・千葉県・神奈川県ですが、6月12日から全国で利用可能になります。アメリカでは全米に展開しています。

※プライムプロは2024年5月現在、東京都、神奈川県、千葉県、埼玉県のみでの提供

──なぜYohanaというサービスをつくりたいと思われたのでしょうか。

きっかけはコロナ禍でした

私はCEOとして働きながら、4児の「母親」であると同時に「妻」でもあり、日本で暮らす高齢の親を持つ「娘」として、それぞれの役割をなんとか両立させつつ生活をこなしてきました。それがコロナ禍で、家族全員が家にいる状況になり、パートナーも私も生活をコントロールできなくなったのです。

そんななか、ふと「これは今にはじまった問題ではなく、以前からあった課題が顕在化したにすぎない」ということに気がつきました。

ひとつひとつのタスクは小さくても、積み重なることで膨大な時間とエネルギーを奪われ、自分の時間をつくることは困難に。さらに現在、共働き世帯の増加や高齢化など、家族を取り巻く環境がますます厳しくなりつつあります。

Yohanaは、そんなこれからの時代に必要不可欠な「新しいファミリーサポートの形を、テクノロジーと人の力を掛け合わせることで実現したい」という願いから生まれたのです。

──かつての松下幸之助さんの「主婦を家事労働から解放する」というビジョンと相通じるものがありますね。

そのようなパナソニックという基盤があるからこそ、Yohanaも実現できると信じています。

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テクノロジーの時代だからこそ「人間中心であれ」
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