『GDPで日本を超えた!のんびり稼ぐドイツ人の幸せな働き方』(熊谷 徹 著、ぱる出版)の著者は、NHKワシントン支局勤務中に、ベルリンの壁崩壊、米ソ首脳会談などを取材した実績の持ち主。90年からはドイツ・ミュンヘン市に在住し、34年にわたりフリージャーナリストとして活動しているのだそうです。
そんななか、ドイツ人と日本人との根本的な違いを実感しているのだといいます。とくに仕事に関して、両者の差は大きいようです。
ドイツ人は、仕事をする時に能率や効率性を我々日本人よりも重視する。無駄な会議、費用をカバーする十分な見返りが期待できない仕事を嫌う。そういう仕事には初めから時間や労力を投入しない。この結果、日本の1時間当たりの労働生産性はドイツに常に水を開けられてきた。この生産性の格差も、名目GDPの順位逆転に一役買っている。(「まえがき」より)
しかも過去30年間で平均賃金が下がった日本に対し、ドイツの平均賃金は大幅に上昇。国民の幸福度や豊かさを示す市民ひとりあたりの名目DGPでも、ドイツは日本に大きく差をつけているそうです。
ドイツ人たちは日本人よりも短く働いて、日本人よりも多く稼ぐ。私たちはドイツ人よりも必死に働いているのに、肝心な賃金が下がった他、名目GDPまで抜かれてしまった。(「まえがき」より)
だからこそ、私たち日本人も働き方を見なおすべきではないかと著者はいうのです。注目すべきは、ドイツ人の働き方のなかには、日本人でも応用できる点がいくつかあると指摘している点。それらを明かした本書の第6章「日本でもできる、時短のためのヒント」のなかから、きょうはメールについての考え方に目を向けてみたいと思います。
休暇中には会社のメールを読まない
IT技術の発達は、どこにいても仕事ができる環境を実現してくれました。出張先から自社のクラウド・システムにログインして書類を読んだり、会社のファイルに保存されたエクセルシートの内容を変更したりすることは、もはや当たり前になったわけです。
とはいえ長期のバカンス中などに、旅行先でノートPCに向かって顧客対応をしていたら、気分転換などできないはず。仕事のときは仕事に、休暇のときは休暇に集中するのが理想だということです。
したがって、職場のストレスから解放され、心の健康を保つためには、会社からのメールは読まないほうがいいと著者は主張しています。休みのあいだは会社との縁を断ち、自分がひとりの人間であることを体感すべきなのです。
事実、ドイツの大手企業のなかには、平社員については午後5時以降、メールサーバーを停止する会社もあるのだとか。つまり顧客も午後5時以降はその社員にメールを送れないため、翌日の営業時間中にメールを送りなおさなければならないのです。
労働時間が短く、休暇が長いこともあり、ドイツ人には自分を「社畜」と考える人はほとんどいないようです。大半の人は、「自分は会社で生活の糧を稼いでいるが、独立した人間だ」と考えているというのです。そもそも、「社畜」という概念やことばも存在しないでしょう。
あるドイツ人会社員は、自宅で幼い子どもとゆっくり時間を過ごすために、3カ月間のサバティカル休暇を取った。この女性は、「休みの間、一度も会社のメールを読まなかった」と語った。自分が社畜ではなく、会社から独立した個人であることを体感するには、この割り切りが重要である。(194ページより)
ちなみにこの人はサバティカルに入る前、自分がふだん担当している顧客に対し「3カ月間休むので、問い合わせのメールは自分の代理の同僚に送ってほしい」と伝えていたそう。
同僚の理解と支援を得られたから休むことができたわけであり、ここからは、長期休暇をとる際にもチームワークが必要であることがわかります。(193ページより)
社内メールはできるだけ少なく
社内のメールに関しては、もうひとつ大きな違いがあるそうです。ドイツ人のなかには、メールを受け取っても日本人のように細かく連絡してくれない人も多く、それどころかメールを無視する人すらいるというのです。
それは、彼らが社内連絡のために時間を取られるのを防ごうとしているからだ。1日に10時間しか働けないので、社内メールを書くことによって、他の重要な仕事ができなくなると困ると考えているのだ。(195ページより)
メールを1本読んで返事を書くには、少なくとも3分はかかるはず。仮にメールを1日100本受け取り、そのうち半分に対して返事を書かなければならないとすると、その処理だけで150分、2時間半かかることになります。そんなところからも、社内メールは少なければ少ないほどよいということがわかります。
読んでいないメールがたまると、重要な内容のメールを見逃してしまったり、処理が遅れたりするという弊害も考えられるでしょう。ドイツ人のなかには、不必要な社内メールを書かないようにしている人が多いそうですが、それはさまざまな負担を減らすためであるようです。
日本の会社に就職すると、「報告・連絡・相談」を略した「報・連・相(ほうれんそう)」を大事にするようにと教えられることがあるが、ドイツではそのようなことはない。
ドイツにも重要な会議の前の根回しが全くないわけではないが、日本ほど長い時間は割かない。取締役から平社員まで、「1日の勤務時間は10時間まで」という意識を持っているからだ。(195〜196ページより)
つまり仕事のプロセスではなく“限られた時間内で成果を生み出せるかどうか”が、仕事の善し悪しを判断するうえでの重要な物差しになっているということ。どれだけ社内でも連絡を密にしたとしても、成果が生まれなければ上司からは評価されないわけです。
そこで、社会全体の労働生産性を上げるため、日本でもメールの数はできるだけ減らすようにするべきだと著者は考えているそうです。顧客などに失礼のない範囲でメールを短くしたり、いちばん重要な内容だけを伝えることも大切だということ。それは、明日からでも始められる、身のまわりからの「働き方改革」のひとつだと考えることもできそうです。(194ページより)
人生は一度しかないからこそ、個人生活と仕事のバランス、つまりワークライフバランスを少しでも改善すべき。そうした考え方に基づいて書かれた本書を手にとってみれば、新たな働き方を見つけ出すことができるかもしれません。
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Source: ぱる出版