人口減少が引き起こす労働力不足、長時間労働の改善、生産性の向上など、日本が抱える喫緊の課題を解決するために、国を挙げて取り組んでいる「働き方改革」。
多くの企業がはじめていますが、なかでも注目されているのが、“働き方改革推進会社”を掲げ、働き方改革を経営戦略に位置づけている日本マイクロソフト。働き方改革を実践する企業の代表格として、多くのメディアに取り上げられています。
では、日本マイクロソフトは、どのような課題をいかにして改善し、働き方の変革を実践してきたのでしょうか。多くの企業が参考にする、その道のりをたどってみましょう。
経営課題の解決には、働き方の改革が必要だった
「当時、毎朝、出社して、夜になったら帰るという、いわゆる普通の日本企業のようでした。労働時間も長かったですね。パーテーションで区切られたデスクでしたから同僚とのコミュニケーションも不足していました。また、ITの会社なのに紙の資料も多いし、拠点が分散していたので、移動も面倒だったのを覚えています」
そう語るのは、Microsoft 365 ビジネス本部の春日井良隆(かすがい よしたか)さん。
「外資系企業ですが、決して先進的な働き方ではなかった」と2007年の入社当時を振り返ります。
当時の日本マイクロソフトは、いくつかの経営課題を抱えていたそうです。それは、冒頭に記した春日井さんの働き方にも垣間見られます。
たとえば、低い生産性、コミュニケーション不足による組織間連携の低さ、情報共有不足による意志決定の遅さ、空席率が高く非効率なオフィス環境、紙資料の多さによる資源・環境への負担、会議の多さ、長時間労働によるワークライフバランスの不均衡、女性の離職率の高さなど。
「これらの課題を整理して解決するために、“労働生産性の向上”“コスト効率の改善”“風土/文化の変革”などを本格的に目指すきっかけとなったのが、2011年2月の品川本社オフィスへの移転・統合でした」と春日井さん。
いくつかの転機を経て実現した、新しい働き方
では、日本マイクロソフトは、働き方に関してどういった取り組みを行ったのでしょうか。春日井さんの記憶に残る大きな転機は2つ。1つは、2010年ごろから全社に導入された『Microsoft Lync(以下、Lync)』です。
「Lyncは、簡単に言えばチャットツール。メールよりも気軽に話ができるし、電話会議も簡単に行えます。これにより、社員同士のコミュニケーションが一気に向上しました。『Office Communicator 』がその前身に当たりますが、当時はまだ珍しいツールだったと思いますよ。社員同士のコミュニケーションツールはその後、『Skype for Business』、そして『Microsoft Teams(以下、Teams)』へと進化。部署間を超えて、より気軽に質問や依頼ができるようになっています。本社やほかの国のスタッフとのコミュニケーションの敷居も下がりました」と春日井さん。
もう1つの大きな転機は、2011年2月のオフィス移転です。都内に複数あった拠点を1カ所に集約することで、拠点間の移動といった無駄を削減。さらに、個別デスクの高い空席率を抑えるために、フリーアドレス制を導入しました。
春日井さんは「拠点が集約され、フリーアドレスになったことで、コミュニケーションがより活発になりました。また、自分専用のスペースは、小さなロッカーしかないので、必然的に紙資料も少なくなりました」と語ります。
オフィス移転から1カ月後、東日本大震災が発生します。これが、テレワークを推進する大きなきっかけになりました。
「出社ができなくなり、全員が自宅で仕事をしました。これによってみんな、会社に集まらなくても仕事ができることに気がついたんです」と春日井さんは振り返ります。
そして、「私の場合は、入社時から現在のオフィス勤務でしたが、社内ではすでにフリーアドレスやテレワークが浸透していました」と語るのは、入社3年目でSurfaceビジネス本部に所属する森下諒(もりした りょう)さん。
「私が考える、働き方改革の大きな転機は、2014年にCEOに就任したサティア・ナデラのメッセージです。彼は「Empower every person and every organization on the planet to achieve more.(地球上のすべての個人とすべての組織が、より多くのことを達成できるようにする)」という新しい企業ミッションの浸透や、マイクロソフトのカルチャーの変革に尽力してきましたが、私がとくに印象に残っているのが、”One Microsoft”という言葉です」と森下さん。
「この言葉は、各事業部間や各国間などの壁を超えて、1つのマイクロソフトとして、みんなで大きな目標を持ってゴールを達成しよう、という意味を持っています。そのためにはすべての社員が意識的に同じ方向を向く必要があり、これを大きな組織で実現するためには、部署や役職などの垣根を超えた柔軟なコミュニケーションが欠かせません。チャットなどで気軽にコミュニケーションを取る習慣が定着しているのは、Teamsやフリーアドレスなどの環境を整備していることに加えて、会社のトップが“One Microsoft”という文化をしっかりと社員の中に浸透させていることが大きいと思います」と働き方改革の原動力となった意識改革を語ります。
Microsoft 365による、自由度の高い、フレキシブルな働き方
そして、『Microsoft 365』が浸透したことも、ここ1〜2年で、さらに働き方改革を加速させた要因です。
Microsoft 365は、Microsoft Officeのサブスクリプション版「Office 365」と、最新のWindows OS「Windows 10」、IDとデバイスの管理や情報を保護する「Enterprise Mobility+Security」を組み合わせたソリューション。
このなかに含まれている『Teams』と『Power BI』、『Microsoft MyAnalytics(以下、MyAnalytics)』は、働き方改革を推し進める3本柱だそうです。
「コミュニケーションツールは、Skype for BusinessからTeamsへと移行中です。組織情報や個人の業務プロフィールを確認できるので、なにかあれば担当者に直接チャットで連絡を取ることができます。『SharePoint』がバックグランドで動いているので、ファイルの共有が格段にやりやすくなりました。Office 365の各アプリやサービスのハブとしても機能するのも便利です」と森下さん。
経営陣が出席する会議などでも、議題で現場の意見が求められたら、その場でTeamsを使って意見を聞くこともあるそうです。それにより、意志決定が迅速になり、生産性向上にも一役買っているのだとか。
「会議では、Power BIも活用されています」と春日井さん。
Power BIは、Excelなどからデータを読み込んで簡単に図表化するツールです。
春日井さんが所属する製品マーケティング部は、データ分析が多く発生するそうですが、「レポートで使うデータの作成時間を劇的に減らせるようになりました。また、作成したデータやグラフは社内で共有されており、クラウド経由ですぐに引き出せるので、会議中でも必要になればすぐに参照して、より効率的に意志決定ができるようになりました。これも、生産性向上という意味では、大きな役割を果たしているツールです」とその利便性を語ります。
MyAnalyticsは、仕事の時間をどのように費やしたかを集計・分析してくれる、個人生産性分析ツール。
テレワークは、部下の働き方が見えづらいので、それをチェックするのかと思いきや、「進捗が共有され、ミッションを達成できれば、仕事をする場所や時間に制約はありません。上司が部下の働き方を監視するということはありませんね」と森下さん。むしろ、自分自身の働き方を可視化するツールなのだとか。
MyAnalyticsによる働き方改革のポイントを、森下さんはこう語ります。
「クラウドに上がった情報から作業内容を推測し、会議やメール、集中作業、残業の時間や内容を可視化してくれます。集中していない会議や読まれていないメールなどがわかるので、自分に必要なメールや優先度の高い会議を割り出し、仕事の効率を上げることができます」
クラウドを活用できるSurfaceが、自由な働き方を促進させた
日本マイクロソフトの働き方改革は、ある日、突然成し遂げられたわけではありません。経営課題の見直し、オフィス環境の変化、社員のマインド変革、新しいツールの導入などにより、徐々にではありますが着実に進んでいったのです。
そして、ここ数年の働き方改革に大きく貢献しているのが、デバイスの進化です。春日井さんは『Surface』の存在が、テレワークのしやすさにつながっている」と感じているそうです。
「Surfaceを使うようになったのは2013年ごろ。当時はキーボードが分離可能でタブレットにもノートPCにもなる、2-in-1のデバイスは世の中に存在しませんでした。Surface Proなら、シーンに合わせて使い方を変えられるし、コンパクトで軽いので持ち運びもしやすい。また、『Windows Hello』対応の近赤外線センサーが組み込まれているので、顔認証で簡単に、しかもセキュアにログインできる。テレワークに向いているデバイスです」と語る春日井さん。
そこに森下さんが、さらに付け加えます。「Surfaceは、Windows 10やOffice365、そのほかさまざまなマイクロソフトのソリューションを最大限活用できるように設計されたデバイスです。春日井が言ったように、軽量かつ薄型の筐体はテレワークに便利ですし、アクセサリーのSurface ペンを使って、共有されているPowerPointのスライドに書き込めば、チームのメンバーと離れた場所にいても、まるで同じ場所にいるかのような感覚で仕事をすることができます。すべての人が時間や場所を問わない多様な働き方を実現できるよう、ユーザーが最先端のクラウドテクノロジーにアクセスする入口となるデバイスの設計にも工夫を凝らしているんです」
ちなみに、森下さんはSurfaceを使ってリモート会議に参加する際、必ず『Surface Headphones』を装着するのだとか。その理由を「Teamsで会議に参加するとき、ノイズキャンセリング機能を使えば、周囲が少しくらいうるさくても音声をしっかりと聞き取れますし、会議をしていないときは集中して仕事に取り組めます。もともと法人のお客様を意識してつくられた製品なので、マイクも高品質。電話越しの相手に迷惑をかけることがありません」と教えてくれました。
働き方改革は、ビジネスソリューションへ。さらに進化を遂げる
日本マイクロソフトは、トップダウンによる社員の意識改革と全社一斉の取り組みで、働き方改革を推し進めています。そこに、Surfaceといったハードや、Microsoft 365といったソフトを組み合わせることで、働き方の質を改善し、いつでもどこでも活躍できる働き方を実現しました。
森下さんは「大きなライフイベントやライフスタイルの変化があったとき、自分にとって最適な働き方は変わるはず。そのときに、できるだけ多くの選択肢があることが重要です」と語ります。
その成果を細かい数字で挙げれば、2010年から2015年で、日本マイクロソフトのワークライフバランスの満足度は+40%、社員1人あたりの売上げ(事業生産性)は+26%、働きがいは+7%、残業時間は−5%、旅費・交通費は−20%、女性の離職率は−40%、ペーパーレスは−49%という成果を上げています。
そして、クラウドやハード、ソフトを活用した働き方改革は、ソリューションとして展開しているといいます。春日井さんは「Dog Food」という言葉を使い説明してくれました。
「マイクロソフトには、“Dog Food”と呼ばれる文化があります。自社で開発したソフトをユーザーに提供する前に、社員自らが率先して使ってみて、その有用性や品質を確かめ、必要に応じて開発陣にフィードバックすることです。働き方改革も同じ。Microsoft 365を活用した働き方改革をベースに、いろいろな企業様にソリューションとして展開しています」
自社を変えた働き方改革の取り組みは、多くの企業が採用。また、社会全体の課題を解決するために、国とも積極的に連携しています。
日本マイクロソフトが掲げる働き方改革の最終的な目標は「社員や組織が持っているポテンシャルを最大限発揮できる働き方・環境を実現すること」。
そして、その結果として「会社が最大限のインパクトをビジネスの中で発揮すること」。この目標を追い続け、日本マイクロソフトは常に働き方を進化させているのです。
Photo: 木原基行
Image: 日本マイクロソフト
Source: 日本マイクロソフト, Surface , Microsoft 365 , Microsoft Teams , Power BI , Microsoft MyAnalytics , Surface Pro 6 , Windows Hello , Surface Headphones , SharePoint