昨年末、多くの非難が集まった現役医師による「解剖実習写真」のSNS投稿。「人命を軽んじている」「倫理観が欠如している」といった声が多くあがりました。この一件に対して、『ドクター徳田安春の最新健康医学』の著者であり現役医師の徳田安春先生は、医学部入試の改革を提言。人の命と向き合う職業だからこそ、医学の知識だけではなく人間性や倫理についても学ぶべきだと、医学部入試改革の必要性について解説しています。
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医学部入試改革の必要性:医の倫理の危機に対応するために
医の倫理の危機
2024年に、解剖研修で撮影したという献体の写真がSNSに投稿され、各方面から批判が集まった。背景として、医の倫理欠如を示す事例が目立ってきていることも要因と言える。私は、前回のこのニュース記事で、医学部での倫理教育を充実させるべきとの提言をしたが、もう一つ行うべき介入がある。
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それは医学部入学での選抜の見直しである。実際、一部の医学生は医学部に入学したあと、非倫理的な言動を行っていることが問題となっている。アンプロフェッショナルな言動ということで、学部ではアンプロなどと表現されている。プロフェッショナリズム、人間性、倫理を学ぶ経験も意欲も少ない学生がいるのも事実だ。
一般的に、欧米の多くの国の医科大学や医学部では、入学試験や内申書の成績だけでなく、多面的な素因が考慮される。そのような素因の評価には、課外活動やボランティア経験、信頼できる推薦状、具体的な志望動機についての小論文、そして効果的な面接がある。学業成績だけでなく、コミュニケーション能力、リーダーシップ、倫理観、人間性などを評価しているのだ。
倫理観や人間性を重視した医学生選抜となっていない医学部入試
多面的な素因を正確に評価することは、医学生がプロフェッショナリズムや人間性、倫理を持つことを促進するために役立つ。将来の患者を相手に、適切に対応できる医師の適性を総合的に判断するために重要であり、欧米の大学での医学生採用では多面的素因の評価に基づいて採用していることが多い。しかし、日本ではどうか?
一般に、日本の医科大学や医学部への入学は難しく、最も偏差値の高い志望学部になっている。しかも、多くの医学生は数学・物理化学系のコースから来ており、人文社会科学系のコースからの学生は少数である。人文社会科学系のバックグラウンドを持つ学生も約半数を占める米国などと比べると対照的だ。
たしかに、医学を治めるためには理科や数学の十分な理解も大切だ。しかし、日本社会のニーズに応えるためには、医学生はプロフェッショナリズム、人間性、倫理などの人文社会科学的基礎も学ぶ必要がある。実際、これらの基礎学習項目は、日本の初期研修でのコアコンピテンシーにもなっている。これらのコンピテンシーから外れた言動が深刻な懸念となっているのが実情だ。
医学生選抜の改革
たしかに日本の医学部入学は厳しく、若い頃から長期間にわたる準備が必要だ。しかし現在、入学試験の成績が入学の主な決定要因であり、高校の成績や教師の推薦、課外活動、地域社会への貢献、個人の性格などはあまり重要視されない。経済的格差が広がる中で、高等教育を追求する機会の不平等も懸念されている。
大学卒業生や社会人も一部で受け入れられているものの、日本の医学生の多くは高校卒業または入試浪人の後に入学する。数学・物理化学系のコースから来ている学生には、入学までに、プロフェッショナリズム、人間性、倫理を学ぶ機会が無いことが多い。
将来の患者を非倫理的な言動から守るためには、数学・物理化学系の試験成績のみでパスする仕組みを変えるべきだろう。入学基準を改革し、優れた倫理感や人格を持つ受験者を選抜することが一つの対策となる。微分積分などの高校2〜3年の数学内容を必要とする業務は、医師には必要とされない。
もちろん、高校一年レベルの数学は大切であるので、センター試験で評価できる。一方、医学論文の多くは統計学と生物学の知識が必須だが、論文の統計学的吟味は医学部生のときに教えられることは少ない。むしろ入試でも統計学を必須とすべきだろう。
新しい入学の導入は、日本社会に大きな利益をもたらすであろう。人文社会科学系の学生も良い候補者に含むことにより、多様な背景を持ち、人間性や正しい倫理的行動を行うことができる医師が増えることになる。次回は、効果的な面接としてエビデンスの確立した方法を紹介するので、乞うご期待!
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