もひとつ、がんばっていきまっしょい ~作家・敷村良子(よしこ)さん~
- 2024年11月25日
先月(10月)全国公開された劇場版アニメーション『がんばっていきまっしょい』。
松山を舞台にボート競技に青春をかけた女子高校生たちの物語です。
作者は松山市出身で、作家の敷村良子(しきむら・よしこ/63歳)さん。
自身が在籍していた松山東高校ボート部と先輩の姿などがモデルになっています。
敷村さんは、今回の劇場版アニメ化のタイミングで、続編『もひとつ、がんばっていきまっしょい』を執筆しました。29年の時を経て続編を執筆した思いなどを伺おうと、敷村さんが暮らす新潟を訪ねました。
(NHK松山放送局 都倉悠太)
特集の内容はNHKプラスで配信中の11月25日(月)放送「ひめポン!」(NHKGTV午後6時10分~)でご覧いただけます。
新潟市内の信濃川にかかる萬代橋(ばんだいばし)のたもとで、敷村さんと待ち合わせました。
「こんにちは!都倉です、よろしくお願いします!意外と新潟暖かいですね」
「そうですね、予報だと天気は悪かったのですが、早めに天気が変わって良かったですね」
作家の敷村良子(しきむら・よしこ)さんです。
夫の仕事の関係で25年前に新潟に移り住み、小説の執筆を続けてきました。
敷村さん
「いいかげん(新潟の暮らしに)私も慣れなければいけないんですけど。もう25年以上いるんですからね。でも、やっぱりここはアウェーな感じで。松山に帰るとホームに帰った感じがしますね」
もともと敷村さんは、地元松山市内のデパートで働きながらプロの作家を目指して作品を書き続けていました。
転機となったのは29年前です。松山市の「坊っちゃん文学賞」で、自身が執筆して応募した『がんばっていきまっしょい』が、第4回の大賞を受賞し、作家への第一歩を踏み出しました。
「青天の霹靂(へきれき)ですよね。夢を見ているんじゃないかという感じで。レジとか、なかなか覚えられないし、紙包みとかも不器用でした。そういうときに突然連絡がありまして。地元初の(坊っちゃん文学賞)受賞者だと、大きく取り上げられちゃったんですね」
『がんばっていきまっしょい』は、実写映画化に続いて、テレビドラマ化されました。
そして、ことしは(2024年)劇場版アニメにもなりました。
「特に才能があるような人が、目覚ましい成果を残すという内容の物語ではないんですけど。でも、そこが長く愛される何かがやっぱりあるんですよね。これは私の力じゃないと自分でも思います」
『がんばっていきまっしょい』がヒットした後、敷村さんが地元デパートの販売員を辞めて執筆に専念した頃の写真です。本当に自分が書きたい作品が出版できない日々に、もんもんとしていたといいます。
「仕事の注文がないし、大手(出版会社)からも声がかからないし。ここまでやって『がんばっていきまっしょい』しか売れていないということが出版界の評価ですね。書ける人だったらワーッと書いて、直木賞とか芥川賞とか、ああいう登竜門にパッといくでしょうから、私はそれにいっていないんでね。でも諦めずにやるしかないと思っています」
その後も執筆を続けていた敷村さんに、5年前の2019年、大きな仕事の話が届きます。
『がんばっていきまっしょい』劇場版アニメの制作の話でした。
代表作に、敷村さんは、再び背中を押されたのです。
敷村さん
「(劇場版アニメのスタッフが)松山のロケ地に足を運んで、ボートまで漕(こ)いで、熱量がすごいんですね。私にとっては、もう最後のチャンスだと思って。その熱量に押されて(『がんばっていきまっしょい』の)続編を書いてみようというきっかけにもなりました」
執筆を決めた続編は、還暦を迎えたボート部員の「その後の人生」がテーマです。
「(主人公のモデルとなった)先輩たちの人生も、時間とともに流れていて。物語としておもしろくするには、どうしたらいいかを工夫して書くという、それが、なんだか知らないけれど出来なくて。“現実的にどうよ?”とか思って起伏を少なくすると(話が)おもしろくないんです」
続編の執筆に向けて、敷村さんが取り組んだことがあります。
「大学院の芸術史の教科書などです」
敷村さんは、独学だった小説の書き方を、大学院で学び直すことにしたのです。
オンラインでの授業に参加して、論理的なストーリーの組み立て方やキャラクターの描き方を磨きました。
「どういうふうに書けば長編小説が成立するのかを会得していくということなんですね。キャラクターの設定と、プロット(物語のあらすじ)の立て方で、ちゃんと対立構造を作っていく。主人公と対立する人を重層的に組み合わせていくことで、物語がおもしろくなっていくんです」
敷村さんが書き上げた続編『もひとつ、がんばっていきまっしょい』は、インターネット限定の電子書籍です。
10代後半の青春時代から半世紀近くの時を経た主人公たちの物語は、還暦を過ぎた敷村さん、こん身の自信作です。
「(続編は)本当に必死で書きました。60代の人から若い人に向けて、子育てか結婚か仕事かで悩んでいるような人に、“両方 諦めなくても大丈夫”というような、なんとかなるというメッセージです」
「続編の執筆にあたって、学び直すなど、チャレンジも多かったのではないでしょうか?」
「自分自身は、小説を創作する方法としても手応えがありました。つたない作品ですけれども、ひとつ形になって、世に出すという目標は達成できたので本当に良かったです」
敷村さんは、さらなる創作意欲についても語って下さいました。
「書いてみたいのは、戦前戦後のボート部の話です。愛媛を舞台にして書けたらいいなと思っていて、それがひとつですね。小説になるかエッセイになるか、とにかく書いて、みんなに読んでもらう。それをライフワークにするのが、自分はいちばん向いていると思っています。還暦を過ぎてから、すばらしい作品が急に出来た作家さんもいるので、私もとにかく体を元気に保って、楽しく書く、暗い話でも楽しく書く、それかな!」
制作後記
作家の敷村良子さんについては『がんばっていきまっしょい』の実写映画化、テレビドラマ化と事あるごとに注目されて順風満帆の作家人生を送っているものだと思っていました。ところが、続編の執筆に至るまでの話を伺うと、作家としての深い苦悩があったと知り、驚きました。
『がんばっていきまっしょい』からおよそ30年後に書き上げた続編『もひとつ、がんばっていきまっしょい』は、敷村さん自身が代表作に後押しされる形で、力を振り絞って執筆された作品です。前作も、そして続編も読みましたが、私の個人的な印象は、読みやすく、でも伏線があって、その伏線がしっかり回収されて、読み応えがある作品に仕上がっていると感じました。おそらく、大学院で学ばれたスキルが存分にいかされているのだと思います。敷村さんからは、今回の取材を通して、人生もっともっと、いえ“もひとつ、がんばっていきまっしょい”というエールをいただきました!
NHKプラス配信終了後は下の動画でご覧ください。