8時台を聴く
24/09/26まで

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ばんらふぁえるくん(中学1年生・愛知県)からの質問に、「心と体」の篠原菊紀先生が答えます。(司会・柘植恵水アナウンサー)

【出演者】
篠原先生:篠原菊紀先生(公立諏訪東京理科大学教授)
川上先生:川上和人先生(森林総合研究所鳥獣生態研究室長)
小林先生:小林快次先生(北海道大学総合博物館教授)
らふぁえるくん:質問者


――お名前を教えてください。

らふぁえるくん:
らふぁえるです。

――どんな質問ですか?

らふぁえるくん:
人はなぜ疲れたり嫌なことがあったりすると、ため息をつくのでしょうか? 人間以外の動物、サルやイヌやネコもため息をつくのでしょうか?

――らふぁえるくんは、ため息をつくことはありますか?

らふぁえるくん:
あります。

――どういうとき?

らふぁえるくん:
習い事で疲れたときや、お母さんに怒られて嫌な気分になったときにため息をつきます。

――なるほどー。では篠原先生、お願いします。

篠原先生:
はい、ばんらふぁえるくん、こんにちは。

らふぁえるくん:
こんにちは。

篠原先生:
おもしろい質問ですね。とりあえず、きょうは「鳥」の川上先生と「恐竜」の小林先生がいるから、サルとかイヌとかネコじゃなくて鳥はため息をつくのかと、恐竜は難しいかもしれないけど、ため息をつくのかどうか、ちょっと聞いてみたいと思いますが、いいですか。

らふぁえるくん:
はい、大丈夫です。

篠原先生:
いきなりのフリで申し訳ないんですけど(笑)、川上先生、お願いできますか。

川上先生:
はい、どうもこんにちは。川上でーす。

らふぁえるくん:
こんにちは。

川上先生:
僕は、鳥がため息をついているところは見たことがないですね、残念ながら。大きな口を開けているときはあるんですけれども、特に夏場はあるんですが、それはたぶん暑いから、口でたくさん呼吸して口から温度を逃しているということで、大きなため息をついているのは、残念ながら見たことがないですねぇ。

らふぁえるくん:
あぁ、そうなんですか……。

小林先生:
小林です。篠原先生のムチャぶりにあってしまいましたが(笑)。

篠原先生:
アハハハ。

小林先生:
私も恐竜のため息は見たことがないです。恐竜は証拠がないのでわからないですけど、恐らくため息はついていなかったんじゃないでしょうか。

――ということで篠原先生に戻ってまいりました。

篠原先生:
はい(笑)。人間が意味するところの「ため息」が動物の場合はどうかというのは、わからないと言えばわからないんだけど、「動物もため息をつくかどうか」ということについては、一応「つきます」という話にはなっています。ただしこの場合、人間がつくため息と同じかどうかはわからなくて、「深い呼吸をしている吐気(とき)」というふうに定義されていて、そういうときに動物の脳の中ではどんな反応が起きるのかというようなことが研究されています。

らふぁえるくん:
はい。

篠原先生:
ちょっとその前に、「なぜ疲れたり嫌なことがあったりするとため息をつくのでしょうか」ということについての研究のほうから、話していきたいと思います。

らふぁえるくん:
はい。

篠原先生:
ばんさんだけじゃなくて研究者の人たちも、なんでため息なんかつくんだろうということは結構不思議に思っていて、ため息について研究している人たちがいます。例えばベルギーに、「健康心理学」といって、心をどうやって健康にしていくか、あるいは前向きに考えていくか、そのためのいろいろなやり方を研究する人たちがいます。実験で映像を見せるんだけど、わくわくするようないい感じの映像と、見ると不愉快になるような、例えば戦争の場面だったり事件事故の場面だったり、ちょっと嫌な感じの映像を見せて、その前に、ため息をついてもらうという実験をしているんです。

らふぁえるくん:
へぇ!

篠原先生:
おもしろいよね。それで心理的な尺度というかアンケートで聞くと、ため息をつくと安心感は高まるということは起きているようです。それから、心電図といって筋肉がどんなふうに活動しているかも同時に調べているんだけど、人によってはすごく不安を感じやすい人とあまり感じない人がいるんだけど、これも事前に調べておいて、不安を感じやすい人では、筋肉の緊張、例えばいろいろなことをやっているときに体が硬くなったりするじゃない?

らふぁえるくん:
はい。

篠原先生:
そういうのが緩んだりすることが起きるそうです。

らふぁえるくん:
へぇ~。

篠原先生:
さっき話したベルギーの研究者は女性なんだけど、彼女たちは、ストレスをかけたりひたすら計算をさせて心に負荷をかけたりすると、実際にため息が増えることも確かめています。一応彼女らの解釈だと、ため息は心や体の緊張とか不安をリセットする役目があって、そういうことをリセットするために、ため息をつくと考えられています。だから、ばんさんが疲れたときとかイライラしたときにため息をつくのは、体や心がイライラとかをリセットしようとして、ある意味、体が勝手にやっていることなのかもしれないですね。

らふぁえるくん:
へぇ~~。

篠原先生:
さっきの動物の話に戻ると、深い呼吸をしたときにどんなふうになるか、実際にネズミで調べられています。去年だったと思うけどミシガン大学だったかな、そこの研究があって、マウスを、酸素が足りないような低酸素状態にするんです。そうするとやっぱりため息が増えるんだそうです。

らふぁえるくん:
えっ?

篠原先生:
それでため息をすると、酸素が足りなくなった分、酸素を増やすということが起きるようです。そのときにどこがどんなふうに活動するのかも調べられていて、ここから先は、よくわからない脳みその場所の名前とかニューロンの名前を言うけど、それは覚えないでスルーしてもらって、そういうことに関係する場所があるんだなというふうに思ってください。

らふぁえるくん:
わかりました。

篠原先生:
それで、「脳幹」ってわかります?

らふぁえるくん:
はい、聞いたことがあります。

篠原先生:
脳と背骨の間みたいなところだと思ってくれればいいんだけど、そこの一部の延髄の背中側にある「孤束核(こそくかく)」というところが、ため息とかに関わっているんです。そこに存在する、「ガストリン放出ペプチド発現ニューロン」という……いやほんとこれは覚えなくていいんだけど(笑)、それが働いてため息を生み出しているらしいです。もともとガストリンは胃から放出されるホルモンで胃酸の分泌を促すんだけど、その放出を促す神経細胞が、ため息にも関わっているということが明らかになってきているようです。

らふぁえるくん:
へぇ~。

篠原先生:
この研究では、低酸素状態、酸素が少なくなってくるとため息が増える他に、呼吸数も増えることが同時にわかっています。ちょっとストレスがかかると、心臓がドキドキしたりするじゃない?

らふぁえるくん:
はい。

篠原先生:
ああいうのも、酸素が足りなくなっているから酸素を補おうとする行動だし、同じようにため息も、低酸素状態から体が回復する手段というか、そういう方法になっているということのようです。なんとなくわかる?

らふぁえるくん:
おもしろいです!

篠原先生:
おもしろい?! わぁ、よかったー。大変ありがたいお言葉をいただきました。今、難しいことを言ったけど、ばんさんがなんとなく薄々感じているように、ため息は、疲れたり嫌なことがあったり心や体に負担・ストレスがかかったときに、体や心をリセットするために体が自然に行うことのようです。だから心や体が疲れたときに、わざと、って言うのかな、意図的に深呼吸するとかため息をつくというのは、案外いいのかもしれません。

らふぁえるくん:
へぇ……。

篠原先生:
日本では、「ため息をつくと幸せが逃げる」とかいうことわざがあって、ため息はつかないようにしようという流れもあることはあるけど、実際にため息をつくと、はく息が長くなるんです。すると交感神経という緊張する神経ではなくて、副交感神経という体や心をリラックスさせてくれる神経も働くようになるから、ため息をうまいこと使ってもらうといいのかもしれないとは思います。いいでしょうか?

らふぁえるくん:
はい。なんか、すごくおもしろかったです。

篠原先生:
おもしろかった?! それはすばらしいですねぇ。ばんさんだけでなく、そういう日常的ないろいろなことを調べてみようと思う人は研究者の中にも結構いて、それがまじめに調べられていることをわかってもらえればいいのかなと思います。なので思いついたことは、今だと生成AIを使うといろいろ調べられるよね。「生成AI」はわかりますか?

らふぁえるくん:
はい、わかります。

篠原先生:
普通に質問すると向こうがうそをつくときがあるから、「DOI(Digital Object Identifier)付きで教えて」ってやると、論文というかちゃんとしたものが出てくる確率が上がるから、それでやってみるといいです。僕らの時代だったらなかなか調べられなかったようなこともわりと簡単に出るようになってきているので、自分でも調べてみるといいかなと思います。

らふぁえるくん:
わかりました。

――先生がおっしゃった「DOI付きで」というのは?

篠原先生:
論文の番号というか、そこをクリックすると論文が出てきたりする識別番号みたいなものが付いているんですけど、(生成AIに)それを出すように言うと根拠のあるものしか出さなくなるんです。

――そうなんですね。ため息というのは、心をすっとさせる感じはしますけれども、筋肉も緩めてくれるんですか。

篠原先生:
この研究によれば不安の強い人は特にそういうことが起きやすいと報告されているし、はく息が長くなると普通に副交感神経活動が高まって、だいたいは筋肉が緩むということが起こるので、それはそう不思議なことではないと思います。

――らふぁえるくんのようにため息が出ちゃうのは自然なことで、それでちょっとリラックスもできていると?

篠原先生:
そうですね。もうちょっと凝ったやり方をするんだったら、腹式呼吸で吸うときにおなかを大きくして、はくときに縮めるようにして、それから、はく息のほうを7秒以上長くやったりすると、よけいリラックスはしやすくなると思います。

――らふぁえるくん、いかがでしょう。

らふぁえるくん:
はい。腹式呼吸も試してみます。

――質問してくれてありがとうございました。

らふぁえるくん:
はい、ありがとうございます。

篠原先生:
ありがとうございます。

――さようなら。

らふぁえるくん:
さよなら~。

篠原先生:
さよなら~。


【放送】
2024/08/01 「子ども科学電話相談」

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