WEBリポート
- 2024年12月18日
アニメ業界はブラック? 働き方改革を進めた杉並区の制作現場は 増やせ!アニメーター!
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いま、世界から人気を集めている日本のアニメ。国内外のアニメの市場規模は海外と配信で需要が拡大し、2023年は3兆3000億円を超え、過去最高となりました(日本動画協会「アニメ産業レポート2024」より)。一方で、以前から課題となってきたのが制作現場の長時間労働と人手不足です。アニメーターを取り巻く現状と、その働き方を見直そうという動きを取材しました。
(首都圏局/記者 末廣航)
アニメーターを取り巻く現状は
2024年11月に初めて開催された「アニメータースキル検定」。アニメの描き方などを問うもので、東京や大阪など全国6か所で開催され、16歳から61歳までのおよそ350人が挑みました。
全国のアニメーターらで作る日本アニメフィルム文化連盟が、人材を増やすきっかけにしようと企画したもので、連盟によりますと、近年のアニメーターを取り巻く労働環境はさらに厳しくなっているといいます。
日本動画協会によりますと、テレビや劇場のアニメの本数は、ここ20年で倍増。深夜帯や劇場アニメの制作にかかる時間はコロナ禍以降、増加傾向にあります。
納期に間に合わせるために時間に追われ、ベテランアニメーターが若手の指導にかける時間を十分に確保できない事態となっているといいます。
さらに、人手が足りないことから、一部の工程を中国など海外に外注する流れも加速し、若手が学ぶ機会はますます減少しています。中には、技術不足のアニメーターの描いた絵を修正する手間などが加わり、スケジュールに影響が出ているケースもあるといいます。
日本総研などの調べでは、2023年のアニメーターらの時給の中央値はおよそ1300円で、全産業平均の2400円に比べて低く、離職しやすい原因のひとつとされています。
日本アニメフィルム文化連盟 福井智子理事
「練習したり修行したりする場所が、日本にはもうほとんどないのが現状です。今のままだと日本のアニメーションはなくなってしまう可能性があります」
改革目指す現場は
こうした中、アニメーターが働きやすい職場を目指す制作会社が東京・杉並区にあります。
元は音楽制作会社でしたが、6年前からアニメ制作部門をスタートしました。従業員32名で平均年齢は29歳。若い社員が中心です。
事業を始めてから6年あまりで、数々の人気アニメを制作してきました。中でも、「不滅のあなたへ Season2」は、不死身の主人公が仲間と平和な世界を取り戻す姿を描き、海外でも人気を集めている作品の1つです。
この会社で実践しているのが「生産性の向上」です。きっかけは中小企業診断士の指導でした。
アニメ制作会社「ドライブ」 中村千枝社長
「コストや時間、人には決められた枠があると徹底して指導されました。人は1人分以上の仕事は絶対にできないということを、まず私が最初に意識づけされました。時間も予算も無尽蔵にあるわけではない。だからこそ、その中でどう創意工夫するかを考えるよう社員に言っています」
例えば、アニメ制作を管理する部門で取り組んでいるのが「業務の見える化」です。これまで、1つの作品ごとのカット数や作業スケジュールなどの記録がなく、仕事のノウハウが蓄積されてきませんでした。
そこで、工程をすべて記録して表にまとめることで、どんな理由で、どの作業が遅くなったのか。どれくらい予算がかかったのかなどを一目でわかるようにしました。これを元に、担当した社員と上司が振り返りを行うことで、次の仕事に生かしています。
さらに、制作部門で取り組んでいるのが、アニメーターへの1カットごとの指導です。忙しい中でも、時間をかけて一人ひとりが描くスキルを上げることで、生産スピードを上げていくことが狙いです。
結果的に、この部署の社員はほぼ定時で業務を終えているということです。
制作部門の管理職、大久保義之さん(38)です。5年前まで勤めていた前の職場では昼夜問わず働いていました。
大久保さん
「大体1日20時間ぐらい会社にいるイメージです。睡眠不足は寿命を縮めるといいますが、まさにそれを体感していました。仕事中はずっとイスに座っているので、体がガチガチに硬くなって、手先も冷たくなってくるんです」
この会社に転職してから、大久保さんの生活は変わりました。毎日18時には退社して、子どもの保育園への迎えや夕飯づくりをこなしています。家族と過ごす時間を持つことができるようになったといいます。
大久保さん
「アニメーションの仕事は好きですが、家族もいるので、好きに仕事して好きに死ねるというような人生ではなくなりました。やっぱりこの業界に携わる人がきちんと働けて、未来につながるような形になるのがいいと思います」
この会社では、こうした社内での取り組みを就職活動中の学生にも伝えていて、採用応募者数の増加につながっているといいます。
中村社長
「働き方改革を続けることで、社員だけでなく、一緒に仕事をしている外部委託のアニメーターらの労働環境も良くなっていけばうれしいです」
取材後記
今回、複数の現場のアニメーターに取材をしました。どの人もアニメが好きで、作品への熱い思いを語ってくれました。
業界として低賃金や長時間労働など、さまざまな課題がある中で、今もなおたくさんのアニメが生まれている現状に、携わる人たちの情熱を感じる一方で、現場の思いだけではいずれ立ちゆかなくなるのではと危機感を感じました。
一方で、2024年に国連人権理事会の作業部会が公表した報告書では、日本のアニメーターの労働環境について、憂慮すべきと警鐘が鳴らされています。
今後、日本のアニメ文化の行く末がどうなっていくのか、引き続き取材していきたいと思います。