研究 / Research
アーキテクチャ科学研究系
研究紹介
スパコン「富岳」の開発を経て思う リーダー育成とこれからの情報学
スーパーコンピュータ「富岳」のプロジェクトリーダーを務めてきた経験をいかし、NIIでは大きなプロジェクトを率いる次世代のリーダーが育つよう支援していきたいです。また、これまでソフトウェアと理論の研究は多くの場合別々に行われてきましたが、両者がざっくばらんに議論できる環境をつくり、それぞれの研究がさらに発展するだけでなく、理論研究とソフトウェア研究のシナジー効果によって革新的イノベーションにつながればと考えています。今までスパコン向けシステムソフトウェアの研究開発をしてきましたが、今後はさらにサイバーセキュリティに関して理論研究者とともに取り組んでいきます。
"使っていただける"スパコン「富岳」の開発
ポスト「京」の検討が始まった2010年から富岳が完成する2021年3月まで、約11年にわたり私は富岳の開発プロジェクトを率いてきました。目指したのは、「幅広い分野のアプリケーションに対応できる世界最高水準の性能をもつこと」と、「ユーザーが普段使っているコンピュータと同じような利用環境で活用できる使い勝手の良さ」です。
10年後の世界で活躍できるスパコン開発は容易ではありませんでした。しかし、すでに新型コロナウイルス対策や、ゲリラ豪雨の予測、新薬の開発など、さまざまな分野で富岳の活用が始まっています。こうして実際に富岳が使われ、みなさんに喜んでいただけることは、開発者としてもっとも嬉しいことです。
リーダーに求められること
研究の場合は、成果を論文で発表することがひとつのゴールですが、富岳のような大きなプロジェクトでは、失敗は許されず、決められた期限までに、実際に使えるものをつくらなくてはいけません。
プロジェクトの統率においては、部下に命令を与えるという「ボス」タイプのやり方もありますが、私は方向性を示しながら自らも現場でともに働く「リーダー」タイプでした。同じ釜の飯を食う仲間として現場の人たちと本音で議論し、苦労も喜びも分かち合うことが、プロジェクトや研究を進める上での醍醐味だと思います。
また、富岳プロジェクトでは、外部要因によって計画が進まなくなるという不測の事態が起こり、そのときがもっとも苦労しました。そうした状況でも粘り強く全体を調整し、チームのモチベーションを高めて一体感をつくっていくこと。長期的なプロジェクトではこうした精神的なタフさも必要です。
理論とソフトウェア開発のコラボレーション
NIIは日本で唯一、情報系を網羅している国立研究機関です。私はシステムソフトウェアの研究者ですが、この環境をいかし、若い理論の研究者と一緒に、他ではできない新しい研究をしたいと考えています。
例えば、情報漏えい、改竄、乗っ取りなどのサイバー攻撃に対するセキュリティ対策は喫緊の課題です。従来のやり方では、不具合が生じると、ログをもとに何が起きたかを調べます。理論的なアプローチを取り入れることで、ソフトウェアの設計・開発・導入時にどのような安全性が確保されているか正確に把握し、運用時にも不具合の原因を自動的に検出できるような新しい世界を目指しています。
コンピュータは日常生活の隅々まで浸透しました。それらを動かしているソフトウェアは長年の積み重ねの上に成り立ち莫大な量になってます。5Gのような通信技術の進歩により新しい応用分野の開拓が盛んになりソフトウェアは肥大化の一途です。今一度、ソフトウェア自体のあり方を学問として体系的に見直したいとも思っています。