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動き始めたスマートTV大戦争

生き残り賭ける「プラットフォーム」と「コンテンツ」

村上憲郎のグローバル羅針盤(14)

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この連載の第2回で、「『スマートTV』を目指して跳べ 日本のコンテンツ産業の未来」と題して、「スマートTV」に触れた。ここ一週間ほどの間に、その「スマートTV」大戦争の「始まりの始まり」を告げるかのような3つのニュースが、立て続けに報じられた。

競争の「始まりの始まり」を告げる3大ニュース

まず、11月中旬にトルコのシステム開発会社、ARDIC Technologyが世界最大級の65インチのAndroidタブレット画面(プロトタイプ)を開発したことを発表した。

これを受け、ネットメディアの「GIZMODO JAPAN」は、22日付で「7インチだの10インチだのチマチマしたこと言わないで……この世界最大65インチのAndroidタブレットを見よ!(動画)」と題して、ARDICが同国のハードウエア会社と提携して完成させた巨大なタブレットの迫力について報じた。

「スマートTVって、どんな物ですか?」と聞かれた時、私は、常々「大型液晶TVのようなタブレットPCですよ」と答えることにしているので、これは、まさしくそれである。

もちろん、それは「スマートTV」を特徴づける一面にすぎず、このままで「スマートTV」の構成要件を満たしているわけではない。

次いで11月23日にBloomberg Japanが、米投資会社ジェフリーズの調査として「米アップル、TV発売控えシャープに生産を移管」と題するニュースを報じた。

それによると「アップルはスマートフォン(高機能携帯電話=スマホ)『iPhone(アイフォーン)』とタブレット型コンピューター『iPad(アイパッド)』のディスプレー生産をシャープの日本工場に移管する。テレビにもシャープ製のスクリーンを採用して早ければ2012年半ばに発売する可能性がある」という。

ジェフリーズも「可能性がある」と言う表現に留めており、決定したわけではないのかもしれないが、私が注目したのは、かねて噂されていた、AppleTVの「オモチャ版(スティーブ・ジョブズ談)」でない、「本格版」の登場の時期が、明確に「2012年半ばに発売」と述べられたことと、それが、iPhoneとiPadとの関連のもとに報じられたことである。

私は、第2回でこう述べた。「iPhoneが切り拓(ひら)きAndroidが拡張するスマホの世界と、iPadが切り拓きAndroidが拡張するタブレットの世界と、そして、初回に紹介したIOT(Internet Of Things=物のインターネット)が、轟(ごう)音を立てて合流する場所が、スマートTVである」と。

スマホ、タブレットが「スマートTV」のリモコンに

私がこのように述べた理由は、「スマートTV」のリモコンには、スマホかタブレットPCが、流用されると思っているからである。

ARDICが開発した「大型液晶TVのようなタブレットPC」は、TV画面への直接タッチスクリーンとなっている。もちろんこれは、「スマートTV」となったあかつきには常時行われる操作ではなく、通常は、手元にあるスマホかタブレットPCの画面へのタッチスクリーン操作で、代行されることになる。

この操作に関連して、「スマートTV」への参入が当然予想されるマイクロソフト(MS)に関する興味深いニュースが飛び込んできた。

同社は11月22日付ブログでウィンドウズ向けにKinectの新機能を開発中であることを紹介している。TechCrunchはこの発表を受け、同日、「Microsoft、KinectにWindows向け専用デバイスを準備中――50センチで作動する近接モードをサポート」と題して報じている。

これで3つのニュースが出そろった。私は、この「Kinect」こそ、MSの提案してくる「スマートTV」の操作法だと考えている。「スマートTV」のリモコンに流用されるべきスマホとタブレットPCで出遅れ、その出遅れを取り戻せないかもしれないMSの当然なアプローチである。

多種多様なコンテンツが「スマート」の必須条件

さて、「スマートTV」の構成要件としては、まずは、TV受像機でなければならない。つまり、ケーブルTVのセットボックス経由であろうと、直接受像機に内蔵されているか、または接続してある録画機に内蔵されているかにかかわらず、TV放送の受信機能が必要だ。

そして、次に「スマート」であるということだ。それはこれまで述べたように、スマホやタブレットPCのようにインターネットに接続されて、多種多様なコンテンツ(特に動画)が入手可能でなければならない、ということを意味する。

逆に「スマートTV」そのものは単なるハードウエアにすぎず、そのハードにインターネット経由でコンテンツを供給するプラットフォームの確立こそが、この大戦争の死命を制する。

それはまた、コンテンツ産業とのWin-Win(ウィン・ウィン、両者両得)の関係を保証するエコ・システム(生態系)でなければならない。これまでの「広告モデル」に加えて「コンテンツ課金システム」が要請されることになる。

一方、コンテンツ産業側も、多種多様なコンテンツを相互に色々なメディアを経由してクロスメディア配信する要求に対応すべく、視聴者や読者が求める特定の情報を断片的に供給する体制を構築しなければならない。

もちろん、プラットフォーム側は、コンテンツの「断片供給」に対応する小口課金・回収の手段を用意するであろう。

真の大戦争はコンテンツとプラットフォームが合流するとき

いずれにせよ、3年以内に決着がつくと思われる「スマートTV」のプラットフォームを先取りした形で、現行のPC、スマホ、タブレットPC上で、「多種多様なコンテンツ相互のクロスメディア配信」、「それに対応するコンテンツの断片供給体制」、「コンテンツ課金システム」、「コンテンツの断片供給に対応する小口課金・回収」が、積極的に試されていくであろう。

少なくとも3つの「スマートTV」プラットフォーム提案者と多種多様な「コンテンツ事業者」が、それぞれの「生き残り」と、得るべき「最大利得」を賭けた大戦争が始まる。

私は、今回紹介した3つのニュースは、その「大戦争の『始まりの始まり』を告げる」と最初に述べた。なぜ『始まり』そのものではないかというと、この3つのニュースは、3つの「スマートTV」プラットフォーム提案者に関するものに限られているからである。

もちろん最近のニュースには、多種多様な「コンテンツ事業者」側の動きを報じたものがある。それも、当事者すらいまだ自覚していない「スマートTV」大戦争の「始まりの始まり」を告げるものであると思われる。

いつか、この2つの領域が合流する、誰の眼にも明らかなニュースが報じられるだろう。その時、私は、「スマートTV」大戦争の「真の始まり」としてご紹介することをお約束して、今回は、終わらせていただくことにしたい。

(「村上憲郎のグローバル羅針盤」は原則、火曜日に掲載します)

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