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米朝・マツコ…人間型ロボット、ここまで人くさく

接客や介護に応用

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 「人間らしさ」とは何か。この課題に挑むロボット技術開発が広がっている。表情やしぐさの1つまで人間らしいロボットが登場。人間の「常識」を理解したり空気を読んだりするコンピューターの研究も進んでいる。目的は人間とコンピューターの自然な共存。力仕事や危険な仕事の担い手だけでなく、人間の友人やパートナーになることを目指す。進化するロボット開発の最前線を追う。

「米朝ロボ」に表情・しぐさ

「しゃべりが上手になるコツ?そんなもん、ワシが聞きたいわ」「まずは、ええ師匠を見つけることやな。それと、落語を聞きなはれ(笑)」

11月初旬、大阪・ミナミにある高島屋大阪店。店頭で客を出迎えたのは人間国宝の落語家・桂米朝――ではなく、米朝をモデルにしたアンドロイド(人間型ロボット)だ。同店で11月に開催した大阪物産展に展示した。

「米朝アンドロイド」が話すのは、人生相談、落語の歴史、米朝自身の人生の3種類。客がタッチパネルで質問を選ぶと、対応した内容を話す。話すときにはちゃんと相手と目を合わせ、手ぶりを交える。「本当に米朝さんがいるみたい」。客の女性は、こう感想を漏らした。

「目的は人間を理解すること。より人間らしく改良して、人間の存在は永遠になれるのかという課題に挑戦したい」。こう語るのは、米朝アンドロイドを開発した大阪大学の石黒浩教授だ。石黒教授は自分そっくりのアンドロイドを開発するなど、アンドロイド研究の第一人者として知られる。実在の女性をモデルにした「ミナミちゃん」も石黒教授の作。ミナミちゃんは高島屋大阪店で店員として「勤務」した経験の持ち主。昨年10月には、1枚1万円ほどのカシミヤセーターを30枚ほど売った実績を持つ。

石黒教授がロボットの人間らしさにこだわるのは、対話や接客、介護といった人間とのコミュニケーションという役割を担わせようとしているからだ。人間にそっくりな外見を持ち、笑ったり眉をひそめたりと表情を変える。こんなアンドロイドの実現を目指す。

「人間にとって理想的なインターフェースは人間だ」(石黒教授)。例えば商業施設の案内役を、人間が務めるのとタッチパネル式の自動応答システムとでは、どちらが利用者に安心感を与えるか。例えコンピューターであっても、人間と見まがう外観と振る舞いをすれば人間側も自然にコンピューターとつきあえるはず、というわけだ。

「不気味の谷」越え、親しみ探る

工業分野で先行した日本のロボット産業。ここへ来てコミュニケーションや娯楽といった分野への応用を目的に、ヒト型ロボットであるアンドロイドを研究したり事業化したりする動きが相次いでいる。

石黒教授が技術顧問を務めるエーラボ(東京・千代田、三田武志社長)が開発したのが、少女型アンドロイド「アスナ」だ。15歳という設定で、まばたきをしたりほほ笑んだり、首をひねったりといったしぐさが可能だ。遠隔操作で会話させることも可能で、声に合わせて口も動く。

電通は11月、娯楽やマーケティング分野でのロボット活用を目指す専門組織「電通ロボット推進センター」を設立した。「人間の感情に訴えかける新たな広告媒体として、ロボットを提案したい」。同センターの西嶋賴親氏は狙いを語る。

具体的な活動の第1弾として、これもエーラボなどと共同で芸能人のマツコ・デラックスさんのアンドロイドである「マツコロイド」を開発した。マツコさん本人の頭からつま先までの全身を型取り。内部の動作機構を工夫し、表情やしぐさ、癖なども再現したという。今後、本人とともにテレビ番組やCMに出演する予定という。

ソフトバンクが「感情認識ロボ」と呼び、来年2月に発売するのが「ペッパー」だ。人工知能(AI)や画像認識機能を備え、人間の表情を読み取って対話する。

ペッパーの特徴の1つが、スマートフォン(スマホ)のようにアプリで機能を追加できることだ。ソフトバンクは11月、認知症予防を目的としたアプリを開発した。クイズなどでペッパーと利用者が対話。介護施設への導入を見込む。一般の開発者にも広くアプリ開発を呼びかける。

ロボットはどこまで人間らしくなれるのか。人間そっくりのロボットを作る開発者たちに立ちはだかるのが「不気味の谷」と呼ばれる壁だ。機械がだんだんと人間に似てくる最後に近い段階で、人間に与える印象はもっとも不気味になるというパラドックスだ。その谷を越えたとき、何が見えるのか。石黒教授は「外見に関しては、ほぼ人間と言える水準に達したのではないか」と自信を見せる。

「90年代構想 ようやく実現」

クラウドコンピューティングの普及も、ロボットの人間らしさを後押しする。大量データの蓄積と高速処理が容易になったことで、ディープラーニング(深層学習)と呼ぶ技術が台頭。人間の脳の構造を模したシステムに大量のデータを投入。人間の思考パターンをコンピューターで再現したり音声を高い精度で認識したりといった、「1990年代の構想が20年たってようやく実現しつつある」(石黒浩教授)。

もちろん人間らしさ実現への課題は多い。はにかむ、苦笑いするといった「微妙な表情を再現するのは、現時点では難しい」(石黒研究室の小川浩平助教)。

反対に、激怒する、大笑いするといった表情も難しいという。人間の表情を動かす筋肉は約100種類。石黒研のアンドロイドは空気圧で伸縮する「アクチュエーター」と呼ぶ駆動装置で、表情や手ぶりを制御する。あまり激しい表情を作ろうとすると、アクチュエーターがうまく動かなかったり皮膚代わりのシリコン膜が破れてしまったりするおそれがあるという。

現時点ではアンドロイドを制御するのに大がかりなコンピューターシステムが必要になるのも課題の1つといえる。米朝アンドロイドを動かすためには、パソコンが6~7台必要になる。

人間とロボットが自然に共存する未来に向け、両者の旅は始まったばかりだ。

(玉置亮太)

[日経産業新聞2014年12月9日付]

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