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「楽天、就活繰り下げで採用有利」はホント?

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 初めての就職活動は分からないことだらけ。直接企業に質問しづらいことも多いし、口コミ情報がどこまで信用できるかも不安だ。そんな悩みを解決する「就活探偵団」。就活生の疑問に答えるべく、あなたに代わって日経記者が企業に突撃取材します。

今回の相談は「経団連に加盟していない企業の採用スケジュールを教えてください」。

経団連の指針(3月説明会、8月面接解禁)とは無関係に、すでに採用活動を始めている企業も少なくない。楽天など新経済連盟(新経連)傘下の企業や外資系など経団連に加盟していない企業だ。「非経団連」企業の採用スケジュールはどうなっているのか、経団連系より圧倒的有利なのだろうか。調査した。

3月には内定

まずは新経連の会長会社である楽天の採用スケジュールを調べてみる。楽天の採用サイトを見ると、12月1日にエントリー受付を始め、1月6日にはすでに締め切られていた。楽天広報部に聞くと、2月下旬に2回目となるエントリー受付を始めるという。まだ経団連系企業は説明会すら開けないのに、すでに2回目の選考とは……。

新経連の三木谷浩史代表理事(楽天社長)は、政府が就活繰り下げを要請した2013年春の段階で「外資系企業に優秀な人材をとられる恐れがある」「統一ルール自体が前近代的な感じがする」など新経連としては政府要請に応じない意向を表明していたが、その方針はぶれていないようだ。

内定を出す時期は「12月受付で3~4月、2月受付で5~6月です」(広報部)。ほかの新経連傘下企業などに聞いてみると、「うちは2~3月に選考して4月1日に出す」(フリービット)。「すでに選考を開始し、内定も出している」(DeNA)。経団連系企業は最も早く内定を出しても8月1日なので、新経連系企業は4~6カ月、先行していることになる。

2011年に経団連を脱退して新経連を立ち上げ、社内の英語公用語化をぶち上げるなど我が道を行く楽天としては、足並みをそろえた新卒採用など「論外」と考えても不思議ではない。そして、経団連企業が動き出せない状況で新卒採用の先陣を切るのは、ふつうに考えれば有利であり、楽天の判断は間違っていないように見える。

経団連加盟の主要企業は採用戦線で先行する楽天をどう見ているのか。「うちはターゲットとする学生が重ならないので、楽天は別に気にしない」(鉄鋼メーカー)、「競合しないのであまり心配していない」(大手建設)。求める人材が重ならない企業はあまり気にならないようだ。

しかし、楽天と競合しそうな情報システム大手の採用担当者は気が気ではない。「楽天で内定をとった学生は、よほど興味ある経団連系の企業しか受けに来ないだろう。苦戦するかもしれない」。人材研究所社長の曽和利光さんは「就活後ろ倒しで最も恩恵がありそうなのは、(楽天やDeNAなど)経団連に属さない『メガベンチャー』系企業」と、楽天有利の判定だ。

「押さえ」にちょうどいい

今シーズンの採用戦線で楽天は文句なしの勝者なのだろうか。ところが、取材を進めると「そんな単純な話ではない」という異論も随所から聞こえてくる。まずは、ある採用代行会社の話。

「楽天やソフトバンクは大量内定・大量辞退で有名です。うちで登録する学生も楽天に早く内定をもらって本命を目指すパターンが大半で、『押さえ』にちょうど良いと思われている。採用枠の2倍くらい内定を出しているといわれ、むしろ楽天は採用で苦労している印象が強い」

採用代行会社の話を裏付けるような学生を見つけた。国公立大を今春4月に卒業予定の山本雄一くん(仮名)は楽天やソフトバンク、外資系企業など数多くの内定を手にしたが、最終的にある大手IT企業を選んだ。大学OBの楽天社員から「ノルマがきつい」「三木谷さんの完全なトップダウン」などの社内情報を耳にしていた山本くんは不安の中で楽天の選考に臨んだ。

「それだけ不安なのになぜ楽天の選考を進んだか、ですか?選考時期が早い楽天で早めに内定をもらって安心したいからに尽きます。本命は別です。皆が知っている大手で、そこそこ給料も良い楽天を途中で切るのは惜しい。内定が出そろってから考えればいいと思っていました」

もくろみ通り本命の内定を手にした山本くんは昨年4月、楽天に内定辞退の連絡を入れた。

まるでドラクエ

現在就活中の有名私大3年生の佐川明くん(仮名)は近く楽天の1次選考に臨む予定だが、「内定が出ても行く気はない」という。

「楽天にエントリーしたのは選考が早く始まるので、ちょうどいい練習になるから。特にグループディスカッションとグループワークの経験値をあげたいと考えています」。まるでドラクエをするかのようなゲーム感覚だ。

受験生が雰囲気に慣れるため、合格しても行くつもりがない学校を受ける「お試し受験」というのがある。就活生の話を聞いていると、楽天はそれに近い感じがする。

楽天も内定辞退が多いことは織り込み済みかもしれない。しかし、採用担当者は大変だろう。財閥系総合商社の担当者は楽天に「同情」を寄せる。

「楽天は15年卒採用でも内定辞退者が続出し、人事が泣いていましたよ。今年は計画の3倍くらい内定を出さないと必要な人数を確保できないんじゃないかな……」

本当に同情しているのかもしれないが、「採用戦線で最強」と呼ばれ、苦労知らずの総合商社担当者の言葉はどこかしらじらしい。

楽天は「人事のグリップが弱い」

いずれにせよ、楽天で内定辞退者が多いのは、採用で先行する以上はやむを得ないのかもしれない。一方で、急成長してきた楽天の「構造的問題」を指摘する関係者もいる。

楽天と採用戦線で競合する中堅IT系企業の担当者の話だ。「うちは楽天ほど知名度はないのですが、楽天とうちと両方の内定を持っている学生はうちに来させる自信がある。というのも、楽天は採用人数が増えてきて、人事のグリップが明らかに弱くなっている。つまり内定だしたら出しっ放しなんです。同じようなのがソフトバンクですね」

楽天が新卒採用を増やし始めたのは09年ごろ。以前は新卒採用数人という時期もあったというが、最近は毎年400人前後を大量採用している。急に採用人数が増えると、人事がすべての内定者をこまめにフォローするのはなかなか難しいだろう。

就活繰り下げの今シーズン、楽天の内定者は例年に増して横取りされる可能性が高い。「今シーズンは楽天など新経連系企業のインターンに行った、面接受けたという学生は選考で優遇する。すでに新経連系企業がスクリーニングしてくれているから安心です」(中堅広告代理店採用担当)。「面接受けた」で優遇するのだから、内定持ちの学生は狙い撃ちされるだろう。

新経連系のフリービットの担当者は「4月に内定を出すが、NTTデータなど経団連系に後から内定者を奪われる恐れはある。逃げないように徹底的に内定者をフォローするが、10月の内定式まで採用は終わらないかもしれない」と話す。採用で先行し有利な新経連企業だが、後から採用を始めた経団連系企業にごっそり持って行かれる不安に駆られているのだ。楽天も内定者を引き留める備えをしっかりしないと、採用で先行したアドバンテージを失ってしまうかもしれない。

楽天内定者を探して取材を続けていると、ある有名企業と楽天で最後まで悩んだ末、楽天を選び、今年4月に入社する学生を見つけた。立川豊くん(仮名)も「お試し」で楽天を受けた。

「仕事がきついほうが成長できる」と楽天へ

「正直、楽天のノルマがきついことは先輩を通じて知っていたので、事前の印象は良くありませんでした。しかし内定者アルバイトで営業成績を追いかけるうちに意外と大変とは思わず、営業ならノルマは当たり前と思うようになりました。仕事がきついほうが自分も早く成長できるし、転職の道も開けると考えて、楽天に決めました」

 確かに営業の仕事にはノルマがつきものだ。TOEIC高得点を要求されるのも(ある内定者は入社までに800点以上のスコアを求められた)、考えようによっては英語力を短期間で身につける絶好のチャンスといえる。見方を変えれば楽天は「若いうちに仕事力がつく会社」「ビシバシ鍛えてくれる会社」といえるのかもしれない。

楽天に「経団連加盟企業より採用で有利と思いますか」「経団連加盟企業が動けないうちに採用活動をするのは不公平という声がありますが、どうお思いですか」と質問したが、「回答を控えさせていただきます」という返答だった。

今度は外資系企業の採用スケジュールも調べてみる。就職人気ランキング上位企業のプロクター・アンド・ギャンブル(P&G)ジャパン。

採用終盤のP&G

「16年卒は夏採用(14年9~11月)と冬採用(14年12~15年4月)の2つがあり、すでに夏採用は終わりました。今は冬採用のさなかです。これと別に夏には2つのコースでインターンを実施し、インターンを通じて採用しています。なお、インターン、夏採用、冬採用は同じ選考基準で実施しているので、チャンスは1回きりです」(採用担当)

いろいろ考えられた選考方法のようだが、早期採用にしてもインターン採用にしても、経団連が自粛を求めていることを、P&Gはやっているということだ。採用人数は例年と同じ40人規模という。

縛りがない外資系だから当然か、とも思うが、念のため経団連加盟企業リストをあたってみると、なんと「プロクター・アンド・ギャンブル・ジャパン」とある。どういうことなのか。問いたださねばなるまい。

「弊社も経団連加盟企業であり、指針の趣旨には賛同しています。ただ弊社は採用プロセスが特殊で面接が多く、期間も長いので今年は様子見ということもあり、昨年と同じスケジュールです」

多くの経団連系企業が不安に駆られて裏ではこそこそやりながらも、表向きは「3月解禁」を必死で守ろうとしている。なのに、「様子見」の一言で片付けてしまうとは……。経団連指針は明らかに軽く見られている。これでいいのか、経団連。

調査結果

採用で先行する楽天は有利に見えるが、草刈り場になる可能性も。

 次回は2月26日(木)に掲載予定です。
今回の探偵
岡田真知子(おかだ・まちこ) 2004年上智大法学部卒。リクルートスーツを着るのが嫌で、就職活動をしないまま、1年留年した後、派遣社員として百貨店に勤務。半年後に一念発起し、カジュアルなスーツで秋採用に挑戦、日本経済新聞に拾われる。もっと大きな新聞社は最終面接の直前で辞退した。自称、社会派記者。おととし出産、昨年職場復帰した1児の母。
松浦龍夫(まつうら・たつお) 2002年同志社大商学部卒。大学時代に唯一まじめに読んだ書籍の作者が面接官という偶然に恵まれ日経BPに入社。12年から日本経済新聞社編集局に出向。相槌をうつ隙さえ与えない熱いマシンガントークが売りだが、肝心の取材相手をも沈黙させる弊害も…。
齋藤勇紀(さいとう・ゆうき) 2006年早稲田大学政治経済学部卒。営業職志望で就活するも、ことごとく失敗。挫折しかけたが、周りの学生が見落としがちな「新聞社の営業採用」を目ざとく見つけ、日経にすべり込む。13年春、編集局に異動。「営業もできる記者」として取材をしながら読者を増やそうと奮闘中。
 「お悩み解決!就活探偵団」では読者の皆様からのご意見、ご感想を募集しております。こちらの投稿フォームからお寄せください。就活探偵への就活生からの疑問は日経就職ナビのホームページから受け付けています。これまで寄せられた主な疑問もご覧になれます。
読者からのコメント
20歳代女性
昨年就職活動を経験しましたが、3月からの就活解禁は本当に的外れだと思います。勉学の時間を増やすためと伺いましたが、一つ下の学生たちを見ていると実際には卒業論文に費やせる時間が削られているだけに思えてなりません。
30歳代男性
私、エンジニアですが、中途採用のページも見ましたが、エンジニアの採用人数が異常に多いです。英語を公用語にしているせいで、エンジニアが集まりにくい印象があります。エンジニアは技術の勉強をしないといけないのであって、英語の勉強ばかりするような暇はありません。
60歳代男性
経済関係団体に加盟していない企業規模にあたる企業に率先して就職しようとしてくれる学生は貴重な存在であり、学生とともに中小企業も生き残ってもらえるよう応援したい。
なぜ不公平なのか、経団連入会企業が不公平と考えるのであれば、入会希望の企業がすべて加入できるようにすべき、そのうえで公平性を考えるべきとおもう
60歳代男性
中小企業は早期採用でよい。外資を含めそれ以外は統一すべきである。出来ない場合は、即座に自由にするべきである。人を生かすも殺すも銃を持っているマスコミ次第。
経団連に加盟しているということは、中・大手企業と思うので、知名度は無いが優良会社が学生に知ってもらえるチャンスだと感じるため
50歳代男性(コンサル・会計・法律関連)
若者に有利ならばなんでもOK
「早期採用」ではなく「早期内定」、内定は辞退できる。誰にとって不公平なのでしょうか。
内定辞退を大目に見ることや、他社への就職活動を邪魔するようなことをしなければ、と言う条件付きですが。

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