これまでにもマリナーズのイチロー選手や佐々木選手、ドジャースの石井選手といった日本人大リーガーや、プロサッカーの欧州リーグに移った中田英寿選手なども大きく報じられてきたが、実力、人気ともにトップだった松井選手に関する報道量は、イチローや中田をはるかにしのぐことになるだろう。
松井選手を追っているのは、スポーツ情報や娯楽の提供を中心とするスポーツ紙に限らず、一般紙も同様で、多くの新聞社が松井選手の専属記者を現地に派遣、また、現地で契約社員を採用する社もある。
ただし、海外スポーツの取材、報道には時差の問題がつきまとう。例えば松井選手のヤンキース入団会見は、日本時間の1月15日午前2時15分(現地時間14日午後零時15分)だった。通常ならば朝刊の印刷が終わるろうとする時間だ。
現在新聞協会に加盟するスポーツ紙の多くは朝刊紙だが、一部のスポーツ紙は印刷、輸送ともに特別態勢をとり、同日付の朝刊紙面でヤンキースのユニフォームに袖を通した松井選手の写真を掲載した。
掲載した新聞社の編集幹部は「今後も大きなイベントの際には、こうした態勢で臨む」と話す。また、「いかにぎりぎりまでニュースを載せられるかで内容に差が出る」という編集幹部もいる。
さらに、松井選手のニューヨーク行きは、米東海岸との時差への対応という新たな課題をもたらした。
イチロー選手や石井選手が所属するマリナーズやドジャースは、西部地区のチームでナイター終了時刻が日本時間の午後2時ごろ。それまでに印刷が終わる夕刊に、試合結果を掲載することは無理だった。
しかし、松井選手が移ったヤンキースは東海岸のチーム。ナイターでも日本時間の正午前には終了する。試合結果の夕刊への掲載が可能になり、「松井報道」を夕刊改革の一つすると意気込む一般紙も多い。すでにオープン戦段階から松井選手のその日の結果を夕刊で報じるほか、大リーグ関連の報道も増やしている。公式戦が始まれば、報道の量、質ともにますます増えることは間違いないだろう。
半面、多くが朝刊紙のスポーツ紙には不利な条件となる。松井選手の試合結果の掲載が翌日の朝刊になってしまうからだ。
このため朝刊紙のスポーツ紙の大リーグ報道は、必然的にフィーチャー記事などに力点が置かれるようになるだろう。各紙の編集幹部も「結果を報じるだけのメディアは読者から排除される」、「試合結果をメーンにはできない。深い取材と筆の立つ人材が必要になる」などと述べている。