自民党の世耕弘成前参院幹事長の求心力が急降下している。14日の参院政治倫理審査会(政倫審)では、安倍派(清和政策研究会)の参院側のトップとして同派のパーティー収入不記載事件の経緯を尋ねられたが「記憶にない」を連発し、身内からも不審の目を向けられた。露出の多い衣装の女性ダンサーを招いた党和歌山県連主催の会合を巡っては、出席した自身の秘書を厳重注意したことも明かした。衆院に転出して首相を目指すという目標にも黄信号がともっている。
西田氏「調べて報告する責任がある」
「私自身は参院への連絡役の立場との認識から、派閥全体のお金に関わることに口をはさむのは良くないと思った。積極的に(確認を)しなかったことを大変後悔し、反省している」
世耕氏は政倫審で、安倍派のパーティー券の販売ノルマの超過額を還流した経緯について、立憲民主党の蓮舫氏にこう釈明した。
安倍派の還流を巡っては、令和4年4月に同派会長だった安倍晋三元首相が中止を指示。しかし、7月に安倍氏が死去し、翌月に世耕氏ら同派の幹部5人が会合を開いて、還流の再開を議論した経緯がある。
蓮舫氏は還流の再開を提案した出席者を再三尋ねたが、世耕氏は「記憶にない」と繰り返し「誰がこんなことを決めたのか私自身も知りたい」とも語った。蓮舫氏は「肝心なことの記憶はなくし、それ以外を雄弁に語るのはそれだけで信用できない」と皮肉った。
世耕氏は、参院安倍派を中心とした「清風会」(約40人)の会長も務める。同派では参院選の年に改選を迎える同派議員にパーティー券の販売額全額を還流する仕組みもあったが、世耕氏はこの日、清風会の解散を口にしつつ、全額還流は「何の相談も報告もないまま決まっていた」と述べるにとどめた。
こうした姿勢は、身内からも批判を呼んだ。この日政倫審に出席した安倍派の西田昌司氏は、「知らない」と繰り返す世耕氏は「正直に話したと思う」と語りつつも、「(世耕氏は)なぜそうなったのかを調べ、われわれ会員に報告する責任がある」と不快感をあらわにした。
秘書や元秘書が過激ダンスショーに
世耕氏は、安倍氏の側近として第2次安倍政権で官房副長官や経済産業相を歴任し、令和元年9月には参院幹事長に就任した。安倍派の実力者「5人衆」に数えられ、危機管理とコミュニケーション能力は「誰にも負けない」と自負をのぞかせたこともある。周囲には首相を目指す意向を語り、そのステップとして和歌山県内の衆院選挙区へのくら替えも模索してきた。
しかし、今回の収入不記載事件は、順風だった世耕氏の評価を大きく傷つけた。世耕氏自身も、個人として還流を受けた金額は平成30年からの5年間で約1500万円に達した。加えて、今回の事件で政治資金規正法違反(虚偽記入)罪で在宅起訴された安倍派の会計責任者、松本淳一郎被告は、世耕氏が同じNTT出身として、同派に紹介したとされる。
同日の政倫審では、問題となった党和歌山県連主催の会合に「懇親会にはうちの秘書も参加していた」と認めた。女性ダンサーが登場する企画は、世耕氏の秘書を務めた川畑哲哉和歌山県議が考案。会合には別の現役秘書も出席しており、一連の模様は写真付きで大きく報じられた。
世耕氏は「ああいう写真が撮られるということは極めて不適切だった。秘書の監督責任として厳しく注意し、今、謹慎を申し付けている」と釈明した。
自民中堅は世耕氏の苦境をみて「権勢をふるってきだけに、周囲から人が離れるのも早いだろう」と突き放すように語った。(奥原慎平)