Location via proxy:   [ UP ]  
[Report a bug]   [Manage cookies]                

将棋は中学受験に役立つのか? 将棋連盟とSAPIX、東急が検証開始

将棋が中学受験に役立つかを検証する「将棋教室ラボ」の初回授業。将棋と学習は思考のプロセスが似ているのだという=横浜市青葉区(斉藤佳憲撮影)
将棋が中学受験に役立つかを検証する「将棋教室ラボ」の初回授業。将棋と学習は思考のプロセスが似ているのだという=横浜市青葉区(斉藤佳憲撮影)

将棋は中学受験に役立つのか-。こんな命題の検証に、日本将棋連盟や大手進学塾のSAPIX(サピックス)、東急の3者が連携して取り組み始めた。受験勉強に入る前の小学3年生を対象に、3カ月間将棋の授業を行い、腕を磨く。狙いは「正解のない問いを考える力」を養うこと。深い思考力が学力向上に資する効果を実証しようという取り組みだ。

「ネット時代に得難い経験」

検証の舞台は、中学受験率が高い横浜市青葉区に東急が開設した「将棋教室ラボ」。女流棋士の北尾まどかさん(44)や中学受験を経験した現役棋士を講師に、将棋の腕(棋力)を上げることで論理的思考力を鍛え、試行錯誤を繰り返す集中力や応用力を身に付けることを目指す。

10~12月に授業などを計11回実施。小学3年生12人が参加する。通塾経験や中学受験の希望の有無などは問われなかった。

10月9日に行われた初回授業では、将棋を簡略化したゲーム「どうぶつしょうぎ」で駒の動かし方を覚えるところから。北尾さんは「相手の駒を取ったら自分のものにできるし、自分の駒が相手の陣地に入ったらパワーアップするんだよ」と説明。子供たちはすぐにルールを頭に入れると、身を乗り出しながら対戦し、将棋のイロハを学んでいた。

将棋は中学受験に役立つのか。仮設検証に向けて開設された「将棋教室ラボ」で「どうぶつしょうぎ」に夢中になる子供たち=横浜市青葉区(斉藤佳憲撮影)
将棋は中学受験に役立つのか。仮設検証に向けて開設された「将棋教室ラボ」で「どうぶつしょうぎ」に夢中になる子供たち=横浜市青葉区(斉藤佳憲撮影)

見学した母親(45)は「自分の力で深く考えることは、何でもインターネットで検索できる時代には得難い経験。子供にとって将棋が、じっくり考える機会になればと思う」と目を細めていた。

仮説を可視化へ

「中学受験」と「将棋」を結び付けたのは、沿線の家庭の受験熱が高く、タイトル戦に協力するなど将棋界とも関係が深い東急だった。

新規事業に学習教室を検討する同社文化・エンターテインメント事業部の本田孝一副事業部長(58)らが「棋力を上げることは、正解のない問いを解決する力を身に付けることであり、学力向上につながるのではないか」との仮説を構築。

「難関校の受験では論理的思考力が求められる。その力を育む方法の一つとして、将棋的な思考や試行錯誤の繰り返しによる能力開発に期待している」というサピックス小学部と、将棋を教育分野で活用する可能性を探っていた日本将棋連盟が協力した。

将棋は一手ごとに大局観を持って形勢を判断し、読みを入れ、決断して指す。これは学習における、設問から解答パターンを推測し、公式や過去に解いた問題を当てはめ、先の展開を考え、解答するというプロセスと酷似する。

つまり、棋力が上がれば先を読む力、論理的思考力、試行錯誤を重ねる集中力などが向上するのだという。本田さんは「将棋の頭の使い方は、国語・算数・理科・社会の学習に応用できる。将棋は学校の勉強、ひいては中学受験に役立つことを実証し、可視化したい」と意気込む。

思考力テストで比較

将棋が強い人は頭がいい、棋士は勉強が得意-。古今東西、漠然と言われていることではあるが、学力と棋力の関連性を明確に示すデータはない。

仮説検証に活用するのは、サピックスが実施する小3対象のテスト。計算力や暗記力よりも思考力を重視する問題の成績を、将棋経験のない児童らと比較し「将棋の効能」を計るという。尺度はテストの成績だけでなく、授業中の子供の変化をつぶさに観察して肉付けし、「正解のない問いを考える力」がどれほど養われたかを検証する。

日本将棋連盟の西尾明常務理事は「将棋が論理的思考の育成につながるのか、子供たちの教育にどういう形で効果があるのか、検証することは有意義だ」と、かつてない取り組みに期待を寄せている。

棋士と学力

「兄たちは頭が悪いから東大へ行った。自分は頭が良いから棋士になった」

かつて米長邦雄永世棋聖(故人)が発言したと伝わる言葉に代表されるように、棋士はおしなべて学力が高いとされる。

棋士になるには小中学生のうちに養成機関「奨励会」に入るのが王道だが、中学受験と両立した棋士は少なくない。今をときめく藤井聡太七冠(22)も、中学受験の経験者だ。

A級棋士の中村太地八段(36)は早稲田実業中等部、チェス日本一に輝いたこともある青嶋未来六段(29)は麻布中学の出身で、いずれも奨励会在籍中に難関校に合格している。(田中万紀)

会員限定記事

会員サービス詳細