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不義理を重ねても「信じてる」 200万円を持ち逃げされたときに父親が語った言葉

話の肖像画 夢グループ創業者・石田重廣<29>

「シーデー(CD)」と記されたカプセルトイの景品を手に(酒巻俊介撮影)
「シーデー(CD)」と記されたカプセルトイの景品を手に(酒巻俊介撮影)

《先月、母校の福島大学付属中学校に呼ばれて講演した》


先月は3日連続で講演があったんです。母校である中学校と東北高校、そして群馬の真言宗の関係者の方々が呼んでくれました。で、一番苦戦したのが中学校です。勉強ができなかった小中学校時代に授業で先生に指名を飛ばされた話、プロ野球選手を目指したが挫折した東北高校での話、友達に受験料を盗まれて大学進学を諦めた話、バイトを次々とクビになり、訪問販売の会社でも上司と意見が合わずに退社した話、空き瓶の回収で生計を立てていた話、とここまではよかったんです。

それが町内会名簿での広告事業や個人輸入の通販で成功した話になったころから、生徒さんたちはあくびのオンパレード。約410人の中で4分の1くらいが睡眠寸前のほぼ沈没状態です。開始から30分が経過したころで、講演は2時間の予定。さすがにマズいぞ、と話題を切り替えました。


《友達について質問した》


僕は勉強ができなくて、中学校時代には父兄から「あの子と遊んだらダメよ」と言われて友達がいなかった。そんな経験から、「みんな、友達っているの? 他の中学校の生徒さんとケンカになって呼び出されたとき、一緒に来てくれるような真の友達が40人以上いる人は?」って聞いたんです。そうしたら3分の1の手が挙がった。これにはびっくりでしたね。

「じゃあ、友達がいない人は?」と聞いたら、こちらは3人。ここからはこの3人との対話です。で、「初めから友達なんて要らないという人は?」と聞いた。まさか先生や両親がいる前で手は挙がらないだろうと思っていたら、なんと1人が手を挙げた。「面倒くさいからだ」という。

友達がいなかった僕も、厳しい場面で必死に働いているうちに、周りにいた人たちに救ってもらうことが多かった。で、その生徒さんには「どんなことでも夢中になってやれば周りは『あいつはすごい』となって友達は自然に寄ってくるぞ」と話したんです。こうして講演では生徒さんたちや父兄、先生たちとの質疑応答が続き、感心するような意見も多数いただきました。母校で久しぶりに学んだというところでしょうか。


《数々の仕事に体当たりして突っ走ってきたが、その土台には友人をはじめ、さまざまな人たちとのつながりがあった。そして一番支えてくれたのは…》


実は若いころ、大金を持ち逃げされたことがあるんです。22歳のときに埼玉の方で仕事をする機会があって、ある飲食店に頼まれてフィリピンからアーティストを呼ぶことになった。その飲食店のご主人から200万円を預かったのですが、間に入ってフィリピンからアーティストを連れてくるはずの人に、そのお金を持ち逃げされたんです。あのころはそんな大金をすぐ工面することはできません。どうやってお金を返そうかと思っていたら、そのご主人は僕の父親の勤務先である福島県庁に乗り込んだのです。

その後、父親から連絡があった。叱られるのかなと思ったら、「まあ、大学に行ったと思って支払ったよ」と言う。で、ご主人は僕に、「お前は幸せだぞ。お前のおやじに『とんでもない息子だ!』と言ったのに、お前のおやじは『息子を信じている』と言っていたぞ」と話してくれました。

浪人時代に受験料を盗まれて大学受験を諦め、学生ローンでお金を借りて行方不明になったとき、どう調べたのかその半年後、母親が僕のアパートを訪ねてきたんです。「やっぱり大学には行かない」と僕が告げると、母親は否定することはなく、「しっかりやれ」と言ってくれた。後押ししてくれた両親は大きな存在でしたね。そしてこんな僕をいつもサポートしてくれる妻にも感謝しております。(聞き手 大野正利)=明日から元プロ野球選手、張本勲さん

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