日本人の国内旅行が伸び悩んでいる。昨年は新型コロナウイルス禍からの回復に伴う「リベンジ消費」が見られたもののすでに一服。物価高に加え、インバウンド(訪日客)の増加で宿泊費が高騰し、希望の日時、価格での宿泊が難しくなっている。訪日客によるオーバーツーリズム(観光公害)も客足を遠ざける一因となっている。
「通行も一苦労」
「5、6年前から圧倒的に多くなった」。外国人観光客について話すのは、京都市中京区にある錦市場の老舗精肉店「鳥豊」4代目店主、長谷川孝さん(63)だ。
長年、地元の食を支え、人気観光地として平日もにぎわう錦市場だが、道行く人々から日本語はほとんど聞こえてこない。通りには増加するインバウンド需要を狙い串焼きや天ぷらなどの食べ歩きグルメを用意した店舗が並ぶ。長谷川さんの店でも数年前から食べ歩きを想定したスモークハムの串などを店頭に並べ、英語表記のラベルも添えるようになった。
長谷川さんは昔ながらの個人店が姿を消していく錦市場に「さみしい気もする」とこぼした。
京都市南区の無職男性(65)は「錦市場は昔から好きな場所だが、こうした状況が続けば、行く気もうせてしまう。あまりにインバウンドが増え、通行するのも一苦労だ」と話した。
日帰りシフトも
観光庁の宿泊旅行統計調査によると、今年の日本人宿泊者数が昨年を上回ったのは4月と10月のみ。リベンジ消費で宿泊需要の高かった昨年を軒並み下回った。全ての月で昨年を上回る訪日客とは対象的だ。
主な要因は物価高だ。消費者物価指数を見ると宿泊料は2020年を100とした場合に、23年時点で134・3と大幅に増加。今年も同様の傾向が続いている。明治安田総合研究所のエコノミスト、木村彩月氏は「消費者が毎日目にする食料品のコストが上がっていることで節約志向が強まっている」と指摘。今後、日帰り旅行へのシフトが進むと予測する。
観光地側も円安を追い風に、高い宿泊費でもやってくる訪日客を重視し、日本人客が取り残されているという指摘もある。木村氏は「日銀の利上げ、米国の利下げが長期トレンドになれば円安は緩和されるかもしれないが、日本人の賃金が上がる環境整備が重要ではないか」と話している。
宿泊費高騰や過剰観光の問題は、訪日客が三大都市圏に集中していることが原因のひとつとされ、政府は地方に訪日客を誘導する「地方誘客」を進める考えだ。(織田淳嗣、荻野好古)