「米カリフォルニア州ナパのインターナショナル・エアライン・トレーニングアカデミー(国際航空トレーニングアカデミー=IATA)と提携、ボーイング社の支援によりパイロット養成講座を開講することになりました」
6月18日、創立125周年を迎えた日本体育大学の祝賀会で、同大の新事業が発表された。
今秋に渡米し、訓練を受ける2人の学生が、司会者に促されてIATAとボーイングの関係者らとともに登壇。学生は訓練服を着用し、出席者の大きな拍手を浴びた。6つの私立大がすでに行っているパイロット養成に、日体大も参入したのだ。
6私大は専門の学科を設け、4年間かけて養成していく。これに対し日体大は「講座」にした。約1年間の集中訓練で資格を取れるようにしたことと、付属高校や提携大学も含めた18歳以上で一定の英語を身につけた学生・生徒を受講資格者にしたことが、他大学と大きく異なる。
日体大は戦時中の「日本体育専門学校」のときに航空体育学科が置かれていたことがあり、パイロット養成の下地が全くないわけではなかった。もっとも、航空体育学科は国策を前提につくられ、当時の学生はゼロ戦などの操縦士として戦地にかり出された。
今回は、民間航空向けパイロットの養成である。日体大は、体育専門の大学から脱皮していく「ステップ」(松浪健四郎理事長)と位置付けている。
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パイロット不足という問題も講座開設の背景の一つにある。
新興国や途上国を中心に就航が拡大し、格安航空会社(LCC)の参入もあって、パイロットの獲得競争が世界的に激しくなっている。ボーイングは7月25日、今後20年間に必要とされるパイロットは61万7000人と発表した。中でも、アジア太平洋地域だけで24万8000人が必要になるとしている。国土交通省によると、日本国内では22(平成34)年に約6700~7300人のパイロットが必要とされ、年間200~300人を新規採用しなければならない。30年ごろには大量の定年退職者が発生し、400人規模の新規採用が必要になるという「操縦士の2030年問題」が到来する。
国民の期待を集める初の国産ジェット旅客機「MRJ(三菱リージョナルジェット)」が来年にも本格就航する。ただ、MRJ1機を運用するには10人のパイロットが必要になるという。日体大の今村裕常務理事は「大型機から、MRJのような定員100人未満への期待もあり、ますますパイロットの需要が増えるのは間違いない」と語る。
国内でのパイロット養成は、日本航空や全日本空輸が独自に行っているほか、独立行政法人航空大学校が担ってきた。ただ、自社養成は経営状況によって規模が左右される。航空大の定員は1学年72人でしかない。ほかに、24時間勤務が厳しい年齢を過ぎた自衛隊員を対象にした再就職や、外国人パイロットもいる。もっとも、自衛隊は組織を維持する必要があるため、OBが民間に再就職できるのは年間10人程度となっている。
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民主党政権ではこのような事態があった。
鳩山由紀夫内閣は平成21年9月の発足直後、中央省庁による公務員の再就職の斡旋(あっせん)を禁止すると決めた。このため、自衛隊操縦士の民間パイロットへの転職が不可能になった。その後、安倍晋三政権で見直され、26年3月に再就職が解禁された。