「エヴァンゲリオン」シリーズなどを製作する会社「カラー」が10周年を迎え、同社代表の庵野秀明監督(56)がインタビューに応じた。総監督を務めた「シン・ゴジラ」や「エヴァンゲリオン」シリーズへの思い、日本アニメ界の展望を聞いた。
《今夏に公開された「シン・ゴジラ」は、シンプルな物語と徹底したリアリズムで大きな話題を呼んだ》
手がけてみて、意外にゴジラを現実社会に持ち込みやすいことに気づきました。作品の中の嘘がゴジラの存在だけなので、シンプルなんです。
ストレスだったのは、「主人公の恋人や家族の問題などの人間ドラマを入れてほしい」という、プロデューサーの要求でした。ゴジラ映画はそんなものがなくても成立するんですよ。僕はスポンサーの意見をむげに否定はしません。でも、作品にとって、それは違うというときはなるべく排さないといけない。
後は、リアリティーを強めるために取材を重ねていくのは大変でしたね。
《製作費は10数億円といわれており、ハリウッド映画の10分の1にも満たない》
現場は無理に無理を重ねました。本来ならこの予算では作れません。
零戦が設計された際に徹底して軽量化が図られたのと同じく、脚本の段階から無駄を削ぎ落としました。
まず、民間人側のドラマをあきらめた。東宝は反対しましたが、とても無理。今回は、首相官邸周りしか描いていませんが、それもセットの数を制限したから。官僚たちを描くのに食堂の場面なども入れたかったけど、それも捨てました。まあ、監督の仕事は妥協することですから。トータルでコントロールすることが大事なんです。
《結果は興行収入約80億円の大ヒットを記録。多くの人が作品について議論を交わした》
(怪獣映画ではなく)一般映画になればいい、と思っていましたが、ここまでの反響は想像しなかった。でも、興行は時の運です。個々の反応は、一切見ていません。精神衛生上良くないですから。
これを機に特撮やSF作品が作りやすい環境になるといった期待は持っていません。邦画界は相当膠着(こうちゃく)していると思います。劇的には変わらないでしょう。
ゴジラ続編については、東宝さんが決めることです。僕は興味ありません。
《庵野監督の名を広く世に知らしめたのは、1995年に始まる「新世紀エヴァンゲリオン」(エヴァ)シリーズだ。斬新な映像と登場人物の精神世界に深く入り込んだ内容で熱狂的に支持された》
製作中から、かなりの手応えを感じていました。
当時は、まだ大人がアニメを見ることに抵抗があった。だから、本当は閉じた世界であるエヴァを、開いているようにも見せる工夫をしました。閉じた世界に見えれば、コアなファンが付く。同時に開いているようにも見えれば、周辺の人にも作品が届くと思ったのです。