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エルヴェ(élevé)/麻布十番

六本木の名店「ル・ブルギニオン (Le Bourguignon)」で長く活躍した松田慧ソムリエが独立し、ワインバーとして「エルヴェ(élevé)」を開業。麻布十番は一の橋交差点から東へ数分の落ち着いたエリアです。
店内はカウンターが7席にテーブルが1卓。2022年夏にオープンしたばかりなのに随分と落ち着いた客筋であり、もう何年も前からここで営業しているかのような居心地の良さです。不思議と割烹料理店や鮨屋に通じるものがある。

お料理はオーナーソムリエと同じく「ル・ブルギニオン (Le Bourguignon)」で研鑽を重ねた川面貴昭シェフが担当。ワインバーとは思えないほどアラカルトメニューが充実しており、せっかくなので我々はコース仕立てでお願いしました。
「エルヴェのワインの値付けは大変良心的」という噂は聞いていましたが、なるほどこれは大変にお値打ち(画像は公式ウェブサイトより)。恐らくは東京で最もリーズナブルにブルゴーニュワインを楽しめるお店と言えるでしょう。
お楽しみの一口はパリ・ソワール。ヴィシソワーズとコンソメのジュレを折り重ねた料理であり、キリっとした温度に背筋が伸びます。コンソメの旨味も芯が通っており、さあ今からフランス料理を食べるぞという意識を高めてくれます。ホタテのタルタルもトッピングされており、何とも贅沢なアミューズです。
タブレ。成形されたクスクスの上に脂たっぷりのイワシが並べられ、何とも可愛らしいひと皿です。レモン風味のクリームやキャビアの塩味などワインを誘う効用も豊かです。
パンは素朴ながら密度があり、穀物の風味が強く感じられます。ソースがしっかりした料理が続くので、それらを拭って食べるに大活躍。エシレバターのリッチな味わいも見逃せない美味しさです。
おや、春巻きだ。中にはたっぷりのエスカルゴとセップ茸が詰まっており、トロットロでジューシー。エスカルゴは直視するとグロ系に感じる場面がありますが、パリっとした皮で包んで親しみやすい料理に仕上げるのはナイスアイデアでしょう。
エビのタルタル。エビ特有の豊潤な甘味はまさに甲殻機動隊。加えて根セロリとレーズンバターでセッシュウしており、これはフランス料理としてかなり面白い試みかもしれません。特許を取っても良いくらいです。
お魚料理はマハタ。フランス料理のお魚料理はタイやヒラメ、スズキを用いる料理人が殆どですが、敢えてマハタで臨むあたりシェフのしなやかな自信が感じられます。コッテリとしたバターのソース(スープ?)が何ともリッチで、フランス料理とはつまりこうであると説得力のあるひと皿でした。
何とウナギも出て来ました。ネギとワサビとワイン(マディラ?)のソースにちょっとしたカレー風味と意欲的な味覚の組み合わせ。下地にはロワイヤル(茶碗蒸し)が敷かれており、薄切りのジャガイモもビルトイン。複雑ながら調和の取れた美味しさです。
メインはシャラン鴨のローストをチョイス。ドーンとでっかいポーションにたっぷりのソース。やっぱフランス料理はこう来なくっちゃ。ロゼ色の火の通りも実にエロティックであり、これはもうフレンチではなくハレンチかもしれません。紅茶の香りもお洒落である。
デザートにはキャラメリゼしたバナナにチョコレートのムースをチョイス。程よく焦げたビターな味わいが大人の美味しさ。チョコレートのムースも実に濃厚。
ハーブティーでフィニッシュ。ごちそうさまでした。

13,200円のコース料理に、ワインは上限を決めてソムリエにお任せし、ひとりあたり2.5万円に収まりました。真っ当なフランス料理とブルゴーニュワインを楽しんでこの支払金額はリーズナブル。もちろんこれはかなりしっかり飲み食いした結果であり、アラカルトメニューとグラスワインをからピックアップすればより控えめな価格に落ち着くでしょう。
何よりお店全体の落ち着いた雰囲気が良いですね。今どきの派手な演出は一切なく、奇をてらわず、全てにおいて凡事徹底がなされています。若き獅子たちからは謎の安定感と妙な貫禄が感じられ、10年後も20年後もここで静かに営業を続けているのが自然にイメージできるお店です。名古屋の「ル マルタン ペシュール(LE MARTIN PECHEUR)」に似た空気を想起したのですが、なるほど彼のお店もオーナーソムリエのレストランであったか。

「誠に勝手ながら、まったくワインを飲めない方のみでのご来店はお断りしております」との毅然とした姿勢に従って、大人のワインラヴァーと共に訪れましょう。

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