◆事業者が樹木を生きものとみていない
国立競技場(東京都新宿区)の建て替えに伴い移植された樹木の多くで、葉の変色などの生育不良が生じていることが分かった。専門家は「ひどい健康状態で事業者側が樹木を生きものとして十分に認識していない」と指摘する。明治神宮外苑地区の再開発でも今後、多くの樹木が移植される可能性があるが、難しさが鮮明となった。
外苑地区では2019年に国立が完成。36年までに神宮球場や秩父宮ラグビー場の建て替えを中心に大規模開発が行われる。それに伴い900~1000本程度の樹木が伐採される予定。事業者側は「樹木は極力保存、移植する」などと説明するが、国立周辺で移植を行った日本スポーツ振興センター(JSC)は今回の4事業者のうちの1者だ。
JSCによると、国立周辺には約130の樹木が移植された。その多くがある東側一帯の植え込みについて、本紙は13日、樹木の生態に詳しい東京農大の浜野周泰客員教授に現地確認を依頼した。
◆常緑樹が黄色く変色
このエリアでは移植木と新たに購入した木で植え込みを作っているが、常緑樹の多くは葉が黄色っぽくなり、中には枯れている葉もあった。移植ではないもともとある樹木は濃い緑色で違いは明らかだった。落葉樹にも枝先の枯死がみられた。葉の変色は購入木でも確認できた。
浜野氏によると、移植の際は、根や枝、場合によっては幹を切断するため、樹木は大きなダメージを負う。このため「移植前よりも良い環境の場所へ移すのが基本」という。だが、新たな植え込み場所は土壌が痩せている上、乾燥に弱い樹木を日当たりの良い場所に植えるなど設計自体に問題がありそうな例もあった。
◆森の生態系が再生されず
中央大研究開発機構の石川幹子教授が浜野氏の指摘を踏まえて国立周辺の樹木を調査した結果、「移植前の美しい樹形を生かした移植樹」と判断したのは、新宿区の天然記念物のスダジイを含む3本ほどだった。「狭い空間にところ狭しと詰め込まれており、森の生態系が再生されていない」と指摘した。
浜野氏は「樹木の生態的な特性を理解しているとは言い難い。少なくとも移植木に関しては負のレガシーだ」と批判する。
本紙は15日、JSCにコメントを求めたが、29日段階で「事実関係を調査中」としている。
浜野氏は造園樹木学の第一人者。鎮座100年を記念して13年に公表された明治神宮...
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