グーグルマップで太平洋のミッドウェー諸島にある明治時代の「櫻井又五郎」の墓を見つけたので調べてみた、と軽い気持ちで記事にしたら、意外にも多くの方が読んでくださった。実際に数件の情報提供も…。まずはお礼を申し上げます。
その記事でも書いたように、櫻井さんのミッドウェー行きに関わったと見られるのが、水谷新六さんという探検家だ。日本最東端の南鳥島(東京都小笠原村)の発見という大仕事をやってのけた人物だが、功績の割に資料が乏しく、生涯は謎が多い。さらに調査を続けると、そんな水谷さんについて新たな事実が判明した。(デジタル編集部・谷岡聖史)
前回のあらすじ グーグルマップで遊んでいたら偶然、ミッドウェー諸島に1899(明治32)年の「東京府下 櫻井又五郎」という墓を発見。普段の取材の合間に、米国政府の担当機関に問い合わせたり、公文書を読みあさったりと調査を進めるうち、同時期のミッドウェー諸島で、水谷新六さんがアホウドリの密猟に関わっていたらしいと知った。櫻井さんも密猟者の1人だったのか…?
◆水谷新六さんの「空白の期間」
唐突だが、水谷新六さんの出身地は焼きハマグリで知られる三重県桑名市だ。
なんたる偶然か、私と同郷なのである。「水谷」は、桑名ではよく見る名前だ。前の市長は水谷姓だし、中学校の3年間ずっと一緒に登校していたのも卓球部の水谷君だった(元気にしていますか)。
だからなのか、最初に「水谷新六」の名を見た時から妙に親近感があったのは…。
新六先輩と私の地元、桑名市博物館に問い合わせると、すぐに2012年の紀要論文「南鳥島の発見者『水谷新六』に関する考察」(著者・大塚由良美)を送ってくれた。現時点で最も詳しい年譜が載っている、水谷新六研究の必読文献だ。
この論文によると、水谷さんは1850(嘉永3)年3月、桑名の農家の生まれ。江戸の呉服商に奉公した後、1883(明治16)年に小笠原の父島で雑貨商を営み、南洋探検に乗り出した。探検家になる前や晩年には不明点が多く、何年に何歳で亡くなったのかさえ定かではない。
南洋探検に乗り出した1887年から1903年あたりは、公文書などの記録が充実し、各年の動向もかなり分かっているという。いくつかの貿易会社に参加しつつ、船乗りの間で存在が噂された(が実在しない)グランパス島の探索やミクロネシアへの交易のため、毎年のように航海に出ていた。そして、南鳥島の発見という偉業を成し遂げたのが1896年12月3日、46歳の時だ。
しかし、これだけ詳細な年譜にも「空白の期間」がある。
1894~95年は所属先の情報だけで、どこにいたのかは分からない。また1898年12月から1900年9月までの1年半余りは、一切の記録がない。ミッドウェー諸島で櫻井さんが死んだとみられる1899年12月は、ちょうどこの空白の期間に当たる。
水谷さんはこの時期、どこで何をしていたのだろう。確証はないが、やはり、櫻井さんのミッドウェー行きに関わっていたのではないか…。
そんな思いを確信に変えてくれたのが、前回の記事を読んだ読者からの情報提供だった。
◆意外な新聞に…水谷さんのインタビュー記事
「水谷新六さんの連載インタビュー記事を発見した。(中略)記事は、『邦字新聞デジタル・コレクション』に掲載されている」
前回の記事が載った2日後、こんな情報が届いた。送ってくれたのは、東京都台東区の荒勝陽子さん(67)。図書館に長年勤務された方だといい、さすがは資料の探索が的確である。
邦字新聞デジタル・コレクションとは、米スタンフォード大フーバー研究所が運営している、海外で発行された日本語新聞の電子アーカイブズだ。
荒勝さんの指摘は、私にとっては盲点だった。邦字新聞デジタル・コレクションはすでに閲覧していたが、水谷さんの活動拠点は東京だという先入観があり、「水谷新六」では検索していなかったのだ。
などと自分に言い訳しながら早速、邦字新聞デジタル・コレクションを調べると、「日布 時事」の記事が出てきた。紙名は、日本と布哇 の頭文字で、ハワイの日系人の新聞だ。
◆やっぱり! 水谷さんの船がミッドウェーに
見つかったのは、1908年11月9日から12月26日に「冒険孤嶋の悲劇 水谷新六氏の談」などのタイトルで連載された、談話形式の記事だ。
この連載記事によると、水谷さんは1899年6月10日、自身は乗船しなかったが、的矢丸という船を品川港から北西ハワイ諸島のリシアンスキー島に向かって出港させた。アホウドリ猟の労働者25人を乗せており、ミッドウェーにも寄ったという。
やはり1899年に、水谷さんの船はミッドウェーに行っていたのだ!
この船に櫻井又五郎さんも乗っていたのだろうか…? 期待しながらインタビューを読み進めた。
▶次のページ 水谷新六さんに息子がいた!
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