発がん性の疑いがある有機フッ素化合物(PFAS=ピーファス)が全国の米軍施設や工場の周辺で検出されている問題で、環境省が自治体向けに示している対応手引の修正案を、東京新聞が独自に入手した。住民の血液検査について「かえって不安が増す可能性がある」と、自治体による検査に否定的な考えが新たに盛り込まれている。人体への影響を調べる血液検査は汚染地域特定にも役立つとされ、住民の要望も強い。環境省の方針は批判を招きそうだ。(松島京太、宮尾幹成)
◆「健康被害が生じたという事例は確認されていない」
手引は2020年に環境省が全国の自治体向けに通知。5項目からなり、PFASの摂取対策や排出源の特定、水道水の暫定目標値(1L当たり50ng=ナノグラム、ナノは10億分の1)を超えた際の対応などを示している。昨年から開かれている環境省の「PFAS総合戦略検討専門家会議」で、修正に向けた議論が進められてきた。
東京新聞が入手した手引の修正案では、「地域住民の健康不安への対応」の項目を追加。自治体が住民に説明する内容として、「どの程度の量が身体に入ると影響が出るかについての十分な知見はない」「摂取が主たる要因とみられる健康被害が生じたという事例は確認されていない」などを挙げている。
◆「精神的なフォローの手法が確立されていない」
修正案はPFASの影響を調べる追加の健康診断についての考え方も明示しているが、特に血液検査には消極的な姿勢だ。
「血液検査の結果のみで健康影響を把握することは困難だ」と指摘。「検査を受けた人の精神的な面を含めたフォローの手法が確立されていない」などとして、「かえって不安が増す可能性がある」と懸念を示している。
その上で、住民の健康調査については、特定健診やがん罹患(りかん)情報などの既存統計を用いて地域的な健康影響の傾向を把握する方法が望ましいとしている。
さらに、ドイツの公的機関や米国の学術機関が、健康影響のリスクが上がるとされているPFASの血中濃度指標を上回った場合でも「必ずしも健康障害が起こるとも限らない」「将来、健康影響が発生することを意味しない」と否定的な見解を示していることを紹介している。
PFASの血中濃度基準 米国の学術機関「全米アカデミーズ」では血中で7種のPFAS濃度が1mL中20ng(ナノグラム)を超えると、健康被害の恐れがあるとして腎臓がんや脂質異常症などの検査を推奨している。ドイツ環境庁の諮問機関「ヒトバイオモニタリング委員会」はPFOSで1mL中20ng、PFOAで1mL中10ng以上と設定。日本国内では血中基準は定められていない。
伊藤信太郎環境相も6月14日の閣議後記者会見で、公費による血液検査には慎重な姿勢を示していた。
◆公費で検査実施の自治体「知ることで不安解消」
自治体による血液検査を巡っては、水道水から高濃度のPFASが検出された岡山県吉備...
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