「情報通信業」の倒産 11年ぶり400件超 競合過多と収益悪化で中小・零細の淘汰が鮮明
~2024年「情報通信業」倒産動向~
小・零細規模のソフトウェア開発企業を中心に、情報通信関連企業の淘汰が続いている。2024年の「情報通信業」の倒産は425件(前年比21.7%増)で、2013年の450件以来、11年ぶりに400件を超えた。
業種別では、ソフトウェア業が223件(同12.0%増)で全体の半数(52.4%)を占めた。増加率では、映像情報制作・配給業(同41.0%増)、出版業(同39.1%増)などが高い。
情報通信業の倒産は、資本金1千万円未満(個人企業を含む)が258件(前年比30.9%増)で、6割を占める。2023年度の企業規模別の営業利益率も、大企業と中堅企業が11%台に対し、中小企業は5.7%にとどまり、規模による収益格差が鮮明に出ている。このため、赤字企業率も大企業が4.8%、中堅企業が12.7%、中小企業が22.0%で、中小企業は唯一、赤字企業率が上昇した。
情報通信業は参入障壁が低く、スタートアップ支援などで小資本での参入も容易な業界である。だが、下請けも多い産業構造から価格転嫁は難しく、業績改善が遅れた企業は少なくない。DXやAIなど、情報関連の将来需要は拡大が期待されるが、技術の進歩が速い業界で将来を見据えた戦略を立てられない中小・零細企業の淘汰が、今後さらに進むことが危惧される。
※本調査は、日本産業分類の「情報通信業」の倒産(負債1,000万円以上)を集計、分析した。
※財務分析では、東京商工リサーチが保有する財務データベースから、2023年4月期-2024年3月期を最新期とし、5期連続で売上高・営業利益が判明した企業(変則決算を除く)を抽出、分析した。中小企業は「中小企業基本法」に基づいて分類。中小企業以外で、従業員数2,000人超を大企業、従業員数2,000人以下を中堅企業と分類した。従業員数は正社員数を採用。
情報通信業の倒産が425件 過去10年で最多
2024年の情報通信業の倒産は425件(前年比21.7%増)で、2013年(450件)以来、11年ぶりに年間400件を超えた。
業種別では、ソフトウェア業が223件(前年比12.0%増)で最多だった。ソフトウェア業はエンジニア不足が深刻だ。複雑化・老朽化したシステム刷新が遅れ、経済的損失が生じるとされる「2025年の崖」も現実味を帯びる。次いで、映像情報制作・配給業が55件(同41.0%増)、情報処理・提供サービス業が38件(同26.6%増)と続く。この3業種は2015年以降の10年で最多件数を更新した。
倒産形態は、「破産」が401件(同21.1%増)で、全体の9割超を占めた。
原因別では、「販売不振」が最多の293件(同26.2%増)で約7割を占めた。次いで、「既往のシワ寄せ」(赤字累積)が43件(同30.3%増)、「事業上の失敗」が41件(同2.5%増)で続く。
資本金別では、個人企業などを含む1千万円未満が258件(同30.9%増)で、前年から1.3倍に増加し、小・零細規模の企業が件数を押し上げていることがわかる。
売上高はコロナ禍でも伸長
2023年度(2023年4月期-2024年3月期)を最新期とし、5期連続で財務データを比較可能な情報通信業1,932社を抽出した。
売上高は26兆1,771億8,900万円(前期比3.3%増)で、毎期伸びている。
2023年度の規模別の売上高は、大企業41社が70.8%(18兆5,437億5,400万円)と、圧倒的な市場シェアを占める。
次いで、中堅企業409社が21.6% (5兆6,705億1,000万円) 、中小企業1,482社が7.4%(1兆9,629億2,400万円)だった。
営業利益率は規模格差が鮮明
最新期の営業利益率は平均10.9%で、前期(10.5%)から0.4ポイント上昇した。ただ、5期推移では2019年度から2021年度まで11%台を維持したが、2022年度は10.5%に低下し、2年連続で10%台となった。
売上高は上昇を持続するが、物価高や人件費などのコストアップの影響で利益率は低調になっている。
規模別では、大企業が11.4%、中堅企業が11.1%に対し、中小企業は5.7%と半分にとどまり、二極化している。
競合が多く、中堅、大手の下請け受注に依存する企業も多い中小・零細企業では利益率の低迷が顕著になっている。
中小企業の赤字企業率22.0%
最新期の赤字企業率は、全体で19.7%(1,932社中、381社)だった。規模別では、中小企業が22.0%(前年度21.3%)で突出。中堅企業が12.7%(同13.4%)、大企業が4.8%(同4.8%)で、規模別で明確に格差が表れた。最新期に赤字企業率が上昇したのは中小企業のみ。
中小企業の赤字企業率は、コロナ禍の2020年度に22.4%(2019年度18.1%)と大きく上昇した。だが、在宅勤務の普及に伴うシステム導入や開発の特需で、2021年度は20.3%に下降した。その後、物価高や深刻な人手不足と人件費の高騰などで収益が悪化し、2022年度から2年連続で赤字企業率が上昇、4年連続で20%以上で推移している。