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トヨタGR86 RZ(FR/6AT)

いいセン突いてる 2024.11.27 試乗記 佐野 弘宗 プロドライバーからのフィードバックを生かし、走りと内外装に磨きをかけたという「トヨタGR86」の一部改良モデルが登場。6段ATを搭載するトップグレード「RZ」のステアリングを握り、姉妹車「スバルBRZ」との違いや、アップデートポイントをチェックした。
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「D型」での変更ポイントは?

この2024年7月12日、86としては2代目にあたるGR86と同世代のスバルBRZは、ともに3度目の年次改良を受けて、通称「D型」に進化した。

GR86とBRZ共通の変更点としては、上級グレードのヘッドランプに常時点灯のデイタイムライニングランプが内蔵されたことと、常に中立位置を保つモーメンタリ式から操作に合わせてカチャッと固定されるロック式に変更されたウインカーレバーがある。また、6段AT車ではダウンシフトの許容回転数が引き上げられて、よりギリギリの変速が可能になった。

続いて、GR86独自の変更メニューとしては、上級グレードに追加されたタイヤ空気圧警報システムがある。さらに走りに関わるものとしては、標準のダンパーやパワーステアリングの特性が変更されたほか、6段MT車では、「C型」に続いて今回もスロットル特性の制御マップに手が入った。

そんなGR86のD型を今回は試乗に連れ出したわけだが、用意された試乗車は、カタログモデルとしてはこれ以上の内容はほぼ不可能か? ……というくらいのお大尽仕様だった。

グレードはもちろん最上級のRZで、変速機はAT。その361万6000円という本体価格は、GR86の最新カタログモデルでは最高額となる。今回の試乗車にはさらに「ザックス(ZF)アブソーバー」と「ブレンボ製ベンチレーテッドディスクブレーキ」という2大メーカーオプションもトッピングされて、外板色の「クリスタルホワイトパール」も3万3000円のオプションである。今のGR86をこれより高額に仕立てるには、オプション外板色を5万5000円の「スパークレッド」に変更する(か、メーカーオプションのスペアタイヤを追加搭載する)くらいしか残されていない。

2024年7月12日に発表された「トヨタGR86」の一部改良モデル。今回は最上級グレード「RZ」の6段ATモデルを郊外に連れ出し、その進化を探った。車両本体価格は361万6000円。
2024年7月12日に発表された「トヨタGR86」の一部改良モデル。今回は最上級グレード「RZ」の6段ATモデルを郊外に連れ出し、その進化を探った。車両本体価格は361万6000円。拡大
2代目に移行してから3度目の年次改良を受けた最新の「GR86」は、通称「D型」と類別される。トヨタはレースという極限の環境でクルマを鍛えるプロドライバーからのフィードバックを生かし、「GRらしい走りの味」に磨きをかけたと最新モデルを紹介している。
2代目に移行してから3度目の年次改良を受けた最新の「GR86」は、通称「D型」と類別される。トヨタはレースという極限の環境でクルマを鍛えるプロドライバーからのフィードバックを生かし、「GRらしい走りの味」に磨きをかけたと最新モデルを紹介している。拡大
「D型」のフロントまわりのデザインに従来型からの変更はないが、最上級グレードの「RZ」では、新たにデイタイムランニングランプ機能付きの「Bi-Beam LEDヘッドランプ」が標準装備とされた。
「D型」のフロントまわりのデザインに従来型からの変更はないが、最上級グレードの「RZ」では、新たにデイタイムランニングランプ機能付きの「Bi-Beam LEDヘッドランプ」が標準装備とされた。拡大
今回試乗した「GR86 RZ」のボディーカラーは「クリスタルホワイトパール」で、3万3000円の有償オプションとなる。「リッジグリーン」と呼ばれるボディーカラーが新設定されたのも「D型」のトピックだ。
今回試乗した「GR86 RZ」のボディーカラーは「クリスタルホワイトパール」で、3万3000円の有償オプションとなる。「リッジグリーン」と呼ばれるボディーカラーが新設定されたのも「D型」のトピックだ。拡大
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納得できるブレンボのタッチ

D型で標準のダンパー減衰特性も変更されたのは前記のとおりだが、オプションのザックスについては、そのかぎりではない。また、スロットルマップの再変更もMT車だけの措置。……ということは、前回webCGで試乗させていただいたC型(参照)と、今回の試乗車における走りにまつわる差異点は、ATのマニュアルダウンシフト時の許容回転数と、パワーステアリングの特性のみということになる。

標準ダンパーの設定やMT車のスロットル特性では、いまだ試行錯誤が続いている感があるGR86だが、ザックスとATについては、完成度は低くないとの判断ということか。

走りだして、最初に気づくのはウインカーレバーの使い勝手だ。BRZの試乗記でも書かせていただいたが、従来のモーメンタリ式はそれ自体はめずらしい機構ではない。ただ、BRZ/GR86のウインカーレバーは、その操作性が繊細にすぎるのが問題だった。今回のロック式化は先祖がえりのイメージもなきにしもあらずだが、誤操作は確実に減るだろう。実のある変更だ。

続いて気がつくのが乗り心地だが、GR86のザックスは、あらためて悪くないデキと思った。それ以前の標準ダンパーと比較しても、86伝統の尻軽で軽快な身のこなしはキープしつつ、低速でもアシがスムーズに動いている。しっかりとトラクションがかかり、FRのキモである後輪のグリップ状況も鮮明に伝わってくるから、多少は滑りそうな路面状況でも、安心してアクセルペダルが踏めるのだ。

オプションのブレンボも、フロントキャリパーが対向4ピストンになるだけでなく、リアのそれも対向2ピストンになり、ディスク径も前後17インチに格上げされる。標準のブレーキはフロント16インチ、リア15インチで、前後スライディングキャリパーである。

標準ブレーキでも制動力やタッチは悪くないだけに、20万3500円というオプション価格にはちょっとちゅうちょする。ただ、剛性感が高く、蹴り飛ばすような操作でもジワッといい感じのブレンボのタッチは、一度味わうと納得だ。

最新型「GR86」のインテリア。内装に大きな手は加わっていないが、ウインカーレバーが操作した先でカチャッと固定されるロック式に変更されている。「RZ」グレードは、内装色が写真の「ブラック×レッド」または「ブラック」から選択できる。
最新型「GR86」のインテリア。内装に大きな手は加わっていないが、ウインカーレバーが操作した先でカチャッと固定されるロック式に変更されている。「RZ」グレードは、内装色が写真の「ブラック×レッド」または「ブラック」から選択できる。拡大
水平対向エンジンをイメージしたというデザインの液晶メーター。姉妹車の「スバルBRZ」では採用が見送られたが、「GR86」の「RZ」と「SZ」グレードにはタイヤの空気圧モニターが搭載される。
水平対向エンジンをイメージしたというデザインの液晶メーター。姉妹車の「スバルBRZ」では採用が見送られたが、「GR86」の「RZ」と「SZ」グレードにはタイヤの空気圧モニターが搭載される。拡大
2.4リッター水平対向4気筒自然吸気エンジンは、従来型と同じく最高出力235PS/7000rpm、最大トルク250N・m/3700rpmを発生。6段AT車ではダウンシフトの許容回転数が引き上げられ、より広いトルクバンドを活用できるようになった。
2.4リッター水平対向4気筒自然吸気エンジンは、従来型と同じく最高出力235PS/7000rpm、最大トルク250N・m/3700rpmを発生。6段AT車ではダウンシフトの許容回転数が引き上げられ、より広いトルクバンドを活用できるようになった。拡大
レッドのキャリパーが目を引く「ブレンボ製ベンチレーテッドディスクブレーキ」は、20万3500円の有償オプションアイテム。フロントに4ピストン対向キャリパー、リアに2ピストン対向キャリパーが備わる。タイヤサイズは215/40R18で、試乗車には「ミシュラン・パイロットスポーツ4」が装着されていた。
レッドのキャリパーが目を引く「ブレンボ製ベンチレーテッドディスクブレーキ」は、20万3500円の有償オプションアイテム。フロントに4ピストン対向キャリパー、リアに2ピストン対向キャリパーが備わる。タイヤサイズは215/40R18で、試乗車には「ミシュラン・パイロットスポーツ4」が装着されていた。拡大

AT車のセッティングに自信あり

GR86ではC型で変更されたスロットルマップに、このD型でふたたび手が入った。C型では初期反応を少しマイルド化したのに、D型では揺り戻し的に、ダイレクト感を重視したセッティングになっているという。ただ、それもMT車にかぎられる。つまり、ATを積む今回の試乗車のスロットルはC型のまま。このあたりにも開発陣の迷い、というか、いまだ試行錯誤中の苦労がうかがえる。

AT車ではスロットルマップに変更がないかわりに、冒頭にも書いたように、マニュアルダウンシフト時の許容回転数が拡大された。最大で従来型より1460rpmの引き上げらしい。つまり、ターンインなどで、より回転数ぎりぎりのダウンシフトが可能になった。その主目的はワンメイクレースや本格的なサーキット走行などでの戦闘力をアップさせるためだそうだが、たとえば、ブラインドコーナーの手前でもちゅうちょなくシフトパドルに指が伸ばせるなど、今回のような一般道でもメリットはある。

高平さんのサーキット試乗リポート(参照)によれば、その新しいMT車のスロットルはかなり鋭敏化されているらしい。C型と共通のAT車のスロットル特性はそれよりマイルドとはいえ、体感的にはBRZのD型(のMT車のスポーツモード)よりは活発だ。少なくともザックスダンパーのシャシーとのマッチングは、俊敏なコントロール性と、運転技術の差ぐらいまでを寛容する安心感をうまく両立しているという意味で、個人的には、かなりいいセンを突いていると思う。これをAT車限定であえて残しているということは、開発陣も自信のあるセッティングではあるのだろう。

今回の試乗車には、5万5000円の有償オプションとなる「ザックス(ZF)アブソーバー」が装着されていた。ザックスダンパーとシャシーとのマッチングは良好で、リニアなコントロール性と路面追従性、そして快適性をバランスさせている。
今回の試乗車には、5万5000円の有償オプションとなる「ザックス(ZF)アブソーバー」が装着されていた。ザックスダンパーとシャシーとのマッチングは良好で、リニアなコントロール性と路面追従性、そして快適性をバランスさせている。拡大
「ブラック×レッド」のカラーが選択された「RZ」グレードのインテリア。フロントシートは、座面や背もたれなど主に体が触れるパートがウルトラスエード、そのほかが本革のコンビネーション仕立てになっている。
「ブラック×レッド」のカラーが選択された「RZ」グレードのインテリア。フロントシートは、座面や背もたれなど主に体が触れるパートがウルトラスエード、そのほかが本革のコンビネーション仕立てになっている。拡大
「GR86」は乗車定員が4人。後席は2人掛けとなる。リアシート表皮はフロント同じくウルトラスエードと本革のコンビネーションだが、レッドのステッチは施されていない。
「GR86」は乗車定員が4人。後席は2人掛けとなる。リアシート表皮はフロント同じくウルトラスエードと本革のコンビネーションだが、レッドのステッチは施されていない。拡大
「RZ」グレードには、ゴムのすべり止めが組み込まれたアルミ製ペダルが標準で装備される。AT車(写真)では、MT車よりも大型のフットレストが備わる。
「RZ」グレードには、ゴムのすべり止めが組み込まれたアルミ製ペダルが標準で装備される。AT車(写真)では、MT車よりも大型のフットレストが備わる。拡大

文句なしの回答を出すのは難しい

このようにGR86はグレードやオプション、変速機によって味つけも細かく差別化されており、少しばかりややこしいのだが、D型のGR86全車に共通して変わったのが、パワーステアリングの制御である。トヨタが用意した資料には「さまざまな路面からのインフォメーション、対話性のこだわり……操舵初期の剛性を増すことで高速域での安定性を高め、そこから切り込んでいった先には路面からのインフォメーションをダイレクトに感じられるクリアなステアリングフィール……」とあるが、簡単にいうと、操舵力は明らかに軽くなった。BRZのD型のパワステも軽くなったが、GR86のそれはさらに軽い。

正確性やフィードバックさえ犠牲になっていなければ、ステアリングは基本的に軽いほうがいい。今回のGR86もその条件はクリアしているといってよく、指先での繊細な操作にも応えてくれるD型のパワステは、素直な改善ととらえたい。軽いステアリングは、百害あって……ならぬ、百利あって一害なしだ。

ただ、敏感なクルマでは表向きの安定感を演出するために、パワステを重くしているケースもあるが、それは基本的に邪道。もしパワステが軽くなって神経質になった、あるいは乗りにくくなった……と感じたことがあるなら、自身のドライビングポジションを見直してみるといいかもしれない。操舵時に手や腕の力以外の荷重=肩や上半身の動きが加わっている可能性もあるからだ。

いずれにしても、現代のクルマに求められる安全性や安定性、安心感を確保しながらも、ドリフトコントロール性も追求するというGR86のテーマに文句なしの回答を出すのは簡単ではないのだろう。

今回もモデルライフ折り返しと思われるタイミングにもかかわらず、デザインにまったく手が入らなかったのも、そこにかけるコストすら厳しいという理由もあったと思われる。こんな少量生産のスポーツカーで採算をとるのは至難のわざ。今どきこんなクルマをつくって売ってくれているだけで、クルマ好きは、細かいデキうんぬんは抜きにして感謝だ。

(文=佐野弘宗/写真=花村英典/編集=櫻井健一/車両協力=トヨタ自動車)

「GR86 RZ」のサイドビュー。ボディーサイズは全長×全幅×全高=4265×1775×1310mm、ホイールベースは2575mm。「ブレンボ製ベンチレーテッドディスクブレーキ」をオプション装着した6段AT車の車重は、標準仕様車よりも10kg重い1300kgと発表されている。
「GR86 RZ」のサイドビュー。ボディーサイズは全長×全幅×全高=4265×1775×1310mm、ホイールベースは2575mm。「ブレンボ製ベンチレーテッドディスクブレーキ」をオプション装着した6段AT車の車重は、標準仕様車よりも10kg重い1300kgと発表されている。拡大
ATシフトセレクターの後方にVSCのオフスイッチと走行制御モード(スポーツ/スノー)の切り替えスイッチ、サーキット走行向けの「TRACKモード」選択スイッチが並ぶ。スノーモードは、AT車にのみ設定されている。
ATシフトセレクターの後方にVSCのオフスイッチと走行制御モード(スポーツ/スノー)の切り替えスイッチ、サーキット走行向けの「TRACKモード」選択スイッチが並ぶ。スノーモードは、AT車にのみ設定されている。拡大
通常使用時の荷室容量は、床下のサブトランク(6リッター)と合わせて237リッター。リアシートの背もたれは可倒式で、車内/荷室内のどちらからでも前方に倒すことができる。背もたれを前方に倒すとフラットで余裕ある空間が出現。純正装着サイズのタイヤ4本と工具類が積み込める。
通常使用時の荷室容量は、床下のサブトランク(6リッター)と合わせて237リッター。リアシートの背もたれは可倒式で、車内/荷室内のどちらからでも前方に倒すことができる。背もたれを前方に倒すとフラットで余裕ある空間が出現。純正装着サイズのタイヤ4本と工具類が積み込める。拡大
「D型」ではパワーステアリングの特性を変更。限界域におけるステアリングフィールの向上を図ったといい、操舵力は明らかに軽くなった。「スバルBRZ」の「D型」でもパワステは軽くなったが、比較すると「GR86」のほうが明らかに軽いタッチにチューニングされている。
「D型」ではパワーステアリングの特性を変更。限界域におけるステアリングフィールの向上を図ったといい、操舵力は明らかに軽くなった。「スバルBRZ」の「D型」でもパワステは軽くなったが、比較すると「GR86」のほうが明らかに軽いタッチにチューニングされている。拡大

テスト車のデータ

トヨタGR86 RZ

ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4265×1775×1310mm
ホイールベース:2575mm
車重:1300kg
駆動方式:FR
エンジン:2.4リッター水平対向4 DOHC 16バルブ
トランスミッション:6段AT
最高出力:235PS(173kW)/7000rpm
最大トルク:250N・m(25.5kgf・m)/3700rpm
タイヤ:(前)215/40R18 85Y/(後)215/40R18 92W(ミシュラン・パイロットスポーツ4)
燃費:11.7km/リッター(WLTCモード)
価格:361万6000円/テスト車=427万0280円
オプション装備:ボディーカラー<クリスタルホワイトパール>(3万3000円)/brembo製ベンチレーテッドディスクブレーキ<フロント:17インチ 4ピストン対向キャリパー/リア17インチ 2ピストン対向キャリパー>(20万3500円)/SACHS(ZF)アブソーバー(5万5000円) ※以下、販売店オプション 9インチベーシックナビ<NMZN-Y73D>(24万4310円)/カメラ別体型ドライブレコーダー ベーシックナビ連動タイプ<バックカメラ利用タイプ>(4万3450円)/ETC2.0ユニット ナビ連動タイプ<光ビーコン機能付き>(3万1020円)/バックモニター(1万7600円)/GRフロアマット(2万6400円)

テスト車の年式:2024年型
テスト開始時の走行距離:1048km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(1)/高速道路(6)/山岳路(3)
テスト距離:263.3km
使用燃料:--リッター(ハイオクガソリン)
参考燃費:9.5km/リッター(車載燃費計計測値)

トヨタGR86 RZ
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佐野 弘宗

佐野 弘宗

自動車ライター。自動車専門誌の編集を経て独立。新型車の試乗はもちろん、自動車エンジニアや商品企画担当者への取材経験の豊富さにも定評がある。国内外を問わず多様なジャンルのクルマに精通するが、個人的な嗜好は完全にフランス車偏重。

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