その1「2歳の頃には自分で音読」 (1/7)
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- 『学校の怪談(1) (講談社KK文庫)』
- 常光徹,楢喜八
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――いちばん古い読書の記憶を教えてください。
辻堂:家に「ノンタン」のシリーズが全部あったんですよね。母いわく、私は1歳になる前くらいからひらがなを認識しはじめ、2歳の時にはそれを音読していたそうです。
――はやい! 0歳児の頃からお母さんが文字を教えていたそうですね。
辻堂:そうなんですよ。ひらがなカードとかあいうえお表を見せられて、ひらがなを指差せるようになったのが1歳前くらいだったようです。それで2歳くらいには「ノンタン」を一人で声に出して読んでいたとは聞いているんですが、自分では憶えていないです(笑)。
――自然と本好きの子どもになったのですか。
辻堂:そうですね。家に本がありましたし、母が図書館のヘビーユーザーだったんです。弟が2人いるんですが、3週間ごとに家族全員分の貸し出しカードで絵本を50冊くらい借りていて、家が図書館のような状態になっていました。その時は水戸に住んでいて車社会だったので、図書館にも車で行っていたんです。
――あ、水戸なんですね。辻堂さんのペンネームの"辻堂"は、出身地の神奈川県藤沢市の辻堂からつけたそうですが。
辻堂:両親ともに神奈川の人間で、実家は藤沢市ですが、小学4年生の頃までは、父の転勤で一時的に水戸に住んでいたんです。
――そうでしたか。3週間ごとに50冊だと、名作から新しいものまで網羅されたとは思いますが、どんな本が好きだったんですか。
辻堂:小学校に上がる前でいうと『きんぎょが にげた』とか。ああいう特徴的な絵の本は憶えていますね。あとは「こどものとも」という絵本のシリーズは沢山読んでいました。そんな感じで、小学校に上がる前は選り好みせず、なんでも読んでいた気がします。
小学校に上がってからは文字が多くて挿絵も多い児童書も読むようになって、『はれときどきぶた』のシリーズや『わたしのママは魔女』のシリーズ、『エルマーのぼうけん』のシリーズを読みました。『学校の怪談』系の本も図書館にあったので読んでいましたね。
――図鑑だったり学習漫画などは読みましたか。
辻堂:低学年の頃は児童書しか読んでいなかったんですが、漫画だとおそらく小学校3年生以降に『まんが里見八犬伝』や『まんが東海道中膝栗毛』とかを読んでいましたね。親が子どもに読ませたい漫画本、みたいなのは与えらえれていたので。あと、もうちょっと先になると『はだしのゲン』とか。
――今振り返って、どんな子どもだったと思いますか。まわりと比べても本が好きだった子どもだったのか、外で遊ぶのが好きだったのか......。
辻堂:それはどっちもでした。水戸の郊外に住んでいて、新興住宅地が近かったのでそこの子たちと毎日日が暮れるまで外で遊んで、雨の日など外で遊べない日は家でずっと本を読んでいたと思います。
――その頃、自分でお話を作ったり、読んだ本の続きを想像したりということはありましたか。
辻堂:あ、たまにしてました。それこそ小学校に上がる前に、弟が描いた絵の裏にお話を書いて勝手に紙芝居にしたりとか。弟のとりとめのない絵のキャラクターに名前をつけたて「まるお君がさんかくこちゃんのところに遊びに行きました」みたいな、すごく変なお話でした。あと、絵とお話をコピー用紙に書いてホッチキスで綴じて母に読ませたりとか。
当時、公文式に通っていたんですけれど、そこの教室の大きな本棚に竹下龍之介さんの『天才えりちゃん金魚を食べた』という本があったんです。それは竹下さんが6歳で書いた本なんですね。絵と字を自分で書いている。それを読んで「なんでこの子は6歳で本が出せるんだろう」って嫉妬しました(笑)。「私もこういうのを書きたいのにな」って思った記憶があります。
――じゃあ、その頃から「作家になりたい」みたいな気持ちがあったんですね。
辻堂:はい。お話が好きだったので、自然と自分でも書きたいと思っていたような気がします。
――では、学校の国語の授業とか、作文を書くのは好きでしたか。
辻堂:好きでした。国語はたぶん、授業のなかでいちばん好きでした。作文は「3枚が上限」って言われると3枚書くし、「5枚が上限」と言われると5枚書く、みたいな子どもでした。きっと「上限がない」がないと言われたらすごく書いていたと思います(笑)。書くことに抵抗を感じたことはたぶん一度もなくて、むしろ短くまとめるほうが大変だっていうくらい、書くことが好きでした。
一時期詩を書くのにはまっていました。小学校3、4年生の頃に詩を取り扱う授業があって。まどみちおさんとか、いろんな方の詩を読んで自分でも書いてみよう、という授業が何回かあったんですね。それが面白くて家でもノートに書いていた時期がありました。
――読書生活はその後、どのようなものを?
辻堂:小学校3年生で転機があったんです。ハリー・ポッターのシリーズ3作目となる『ハリー・ポッターとアズカバンの囚人』が出たんです。なにかに翻訳者の松岡佑子さんの子ども向けのインタビュー記事が載っていて、読んでいたら「抽選で5名様に『ハリー・ポッターとアズカバンの囚人』が当たります」とあって。ハガキにインタビュー記事の感想を書いて送ればよかったので、ハリー・ポッターを読んだこともないのに書いて送ったら、いきなり分厚い封筒が家に送られてきて。母がびっくりして開けたら「アズカバンの囚人」が入っていたので、「しょうがないから1巻と2巻も買ってくるわ」と言って買ってきてくれました。最初は寝る前に母が分割して読み聞かせてくれて、きょうだい3人でそれを聞いていたんです。でも2巻に入ったくらいから待ちきれなくなって、私一人で読み始めて、そこから分厚くて文字ばかりの本も読めるようになりました。
――そこからどんな本を読みましたか。
辻堂:子ども向けのルパンやホームズのシリーズ、江戸川乱歩の「怪人二十面相」のシリーズや、世界の名作系、日本の名作系の全集みたいなものを読む、というのが始まりました。憶えているのは『シートン動物記』、『ああ無情』、『若草物語』、『にんじん』、『赤毛のアン』、『アラビアン・ナイト』、『次郎物語』...。ひととおり家にそろっていたので、家にあった全集はほば全部読みました。
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