その1「ハリポタに夢中」 (1/6)
――新川さんはプロフィールに「アメリカ合衆国テキサス州ダラス出身、宮崎県宮崎市育ち」とありますね。幼い頃のアメリカの記憶はあるのでしょうか。
新川:生後半年で日本に帰ってきて宮崎市で育ったので、アメリカの記憶はないんです。私は自分は宮崎県出身だと思っています。
――なるほど。では、いちばん古い読書の記憶といいますと。
新川:自発的に読んだ本でいうと、小学校2年生の時に刊行された『ハリー・ポッターと賢者の石』です。発売後すぐに母が「面白いよ」と言うので読みました。その前も本はいろいろ読んではいましたが、はじめて夢中になったんです。
――それまで読んでいた本と、何がそこまで違ったと思いますか。
新川:私、「毎日つまらないなー」と思っていた小学生だったんです。刺激がなくて退屈でした。でもハリポタは、マグル(魔力を持たない人間)の世界からもっともっと面白い世界に連れていってくれて。11歳の時にホグワーツから入学案内が届かなくて絶望しました。自分はここから出ていけないんだ、って。
――日常に倦んでいたんですか。
新川:鬱々とした日々を過ごしていました。友達と遊んだりもしていましたが、「あまり面白くないな」という気持ちがありました。そんな時にハリー・ポッターに出合ったんですが、毎年1冊ずつしかシリーズ新刊が出ないので、次の刊行を待つ間に10回くらい読み返したり、その周辺を深めていくしかなくて。それで、図書館で同じようなファンタジー小説を探して読むようになりました。男の子がバンパイアになる『ダレン・シャン』シリーズや、弱虫の男の子が冒険する『ローワンと魔法の地図』シリーズとか。『ゲド戦記』もハマりましたね。冒険系の小説が好きで、『宝島』や『十五少年漂流記』も読みました。
――学校の国語の授業はいかがでしたか。
新川:全然面白くなかったです。私、国語の成績がすごく悪かったんですよ。「作者がいいたいことは何か」という質問はだいたい外してました。先の話になりますが、センター試験でも理系科目は全部満点なのに、国語だけが200点満点中120点で、ほとんど現代文で点を失っていました。
国語の教科書に載っているお話も面白いと思えませんでした。小学生が主人公の、身近なことを題材にしたほっこりしたいい話が多くないですか。私は日常に飽きて自分より遠い話を読みたいから海外文学を読んでいるのに、教科書には魔法使いも宝石をめぐる冒険も出てこなくて。
――作文など、文章を書くのは好きでしたか。
新川:文章を書くのは嫌いじゃないけれど、読書感想文の課題図書ってだいたい「こういう人間に育ってほしい」という大人の願いが透けてみえる話が多い気がして、素直に受け取れませんでした。面倒くさい子どもだったと思います。『ごんぎつね』の読書感想文で何かに入賞した憶えがありますが、それも「こういうふうに書けば大人は喜ぶんでしょう」と狙って書いたものでした。『ごんぎつね』は名作だし当時も好きでしたが、本の中身とは関係なく、「これを子どもに読ませて感想を書かせよう」という大人の意図が嫌だなって思っていました。
――教室の中で、どんな子どもだったと思います?
新川:ぼーっとしていました。成績はいいけれどあまり運動ができなくて、宇宙人的ポジションだったと思います。友達もいたし、いじめられたりはしないけれど、「ちょっと違う」という目で見られていた気がします。とにかく大人が嫌いだったんです。先生が、勉強ができる子は生意気だという態度で接してくるので。普通に平手で叩かれたりしていました。
――えっ。
新川:「目が生意気」って理由でバシッと叩かれたことがあって、それはさすがに親に言ったんです。それで親が出ていったら、「いやー、優秀すぎて態度くらいしか指導するところがなくて」って、私を褒めながら言い訳するんですよ。大人って汚いなと思いました。そういう大人に『ごんぎつね』を読めと言われると腹が立つというか。道徳の授業も嫌いだったし、国語の授業はほぼ道徳になりがちなのでそれも嫌いでした。文学が嫌いなのではなく、文学を使って何かしようとする人たちが嫌いだったんです。
――ごきょうだいはいますか? 本を回し読みしたり何かを共有したりとかされたのかなと思って。
新川:姉と弟がいます。弟が結構ゲームをしていたので、私も「NINTENDO64」で遊んでいました。弟がよく読んでいたので少年漫画も読みました。少女漫画雑誌はまったく読まず、「ジャンプ」系の漫画はほぼ読んでいたと思います。『シャーマンキング』が流行っていて私も好きでしたし、『ONE PIECE』や『NARUTO』や『BLEACH』も連載が始まったくらいの頃で、それからずっと追っています。でも姉も弟もそこまで読書が好きという感じではなかったです。ふたりとも「ハリー・ポッター」は読んでいましたが、私がいちばんハマってました。
――読書以外に好きだったことはありますか。
新川:ミニチュアを作るのが好きでした。ビーズで小さなものを作ったりと、よく手芸をしていました。それと、自分の中でファンタジーブームの後にシャーロック・ホームズとアガサ・クリスティーがブームがきたんですけれど、特にホームズが好きで、そこからロンドンにハマりました。ロンドンの古い地図や当時の写真を集めて現在のものと照らし合わせて、ホームズはどこを歩いたのか研究していました。ロンドンのシャーロック・ホームズ博物館宛てで出せばいいと聞いて、ホームズに手紙も書きました。返事はこなかったんですけれど。
その頃はイギリスと名がつくものは全部履修するという感じで、宮崎で唯一アフタヌーンティーができる「倫敦」という喫茶店にも連れていったもらったし、地元のデパートに期間限定でハロッズが来る時は必ず行っていました。それでタータンチェック柄のものをゲットしたりして。
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