STARTTLS
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2020/11/28 03:00 UTC 版)
ナビゲーションに移動 検索に移動TCP/IP群 |
---|
アプリケーション層 |
|
トランスポート層 |
カテゴリ |
インターネット層 |
カテゴリ |
リンク層 |
カテゴリ |
STARTTLS(スタート・ティーエルエス)は、平文の通信プロトコルを暗号化通信に拡張する方法のひとつ。
特徴
暗黙のTLS(またはSSL。以下単にTLS)では、暗号化通信のために専用のポートを割り当てなければならない。STARTTLSを利用すれば、専用のポート番号を割り当てずに、途中から平文の通信を暗号化通信に切り替えることができる。
TLSはアプリケーション中立である。例えば、TLS 1.2の仕様書である RFC 5246 では以下のように述べられている。
TLSの利点の一つは、アプリケーションプロトコルから独立していることである。上位層のプロトコルから見てTLSは透過的である。しかしTLSは、標準では、セキュリティをどのように実装するかまでは規定していない。ハンドシェイクをどう始めるか、交換された電子証明書をどう解釈するかは、TLSより上位のレイヤの設計と実装に委ねられている[1]。
プロトコルのSTARTTLS対応を規定するRFC
IMAP, POP3, ACAP | RFC 2595 |
SMTP | RFC 3207 |
FTP | RFC 4217 |
XMPP | RFC 6120 (5節) |
LDAP | RFC 4511 (4.14節) |
NNTP | RFC 4642 |
このうち、POP3、IMAP、SMTPについては、RFC 8314 でSTARTTLSよりも暗黙のTLS接続の使用が推奨となっている。
SMTPにおけるSTARTTLS
TLSを使う方法は、TLSと同レイヤで動作するその他のプロトコルと同様であり、複数のTLSライブラリ実装でサポートされている。 TLSのSMTP拡張 (RFC 3207) で、クライアント(以下ではCとする)とサーバ(以下ではSとする)がセキュアなセッションを開始するまでのやりとりは、例えば次のようになる[2]。
S: <TCPポート25番で接続要求を待つ> C: <接続をオープンする> S: 220 mail.example.org ESMTP service ready C: EHLO client.example.org S: 250-mail.example.org offers a warm hug of welcome S: 250 STARTTLS C: STARTTLS S: 220 Go ahead C: <TLSネゴシエーションを開始> C & S: <TLSのネゴシエーション> C & S: <ネゴシエーションの結果を確認> C: EHLO client.example.org[注釈 1] …
最後のEHLOコマンドはセキュアチャネルを通じて送られる。SMTP認証を利用する場合[注釈 2]は、セキュアチャネルが開かれた後であれば、サーバからの応答をAUTH PLAINで送信しても問題ない。
2011年10月現在、STARTTLSをメール送信のために提供しているフリーメールサービスにはGmail[3]とiCloud[4]がある。
限界
両エンドが1対1でセッションを構築するTLSをメールの通信に利用しても、間欠的な通信や他のサーバによる中継を前提とした電子メール[5]では、ホップ間のセキュリティは確保することができるものの、
- メール側でTLS経由を指示するような情報はなく、すべての中継でTLSが使われる保証をする方法がない[6]
- 公開されるメールサーバの場合、TLS接続によって受信することを強制することはできず[7]、平文で行われるSTARTTLSの部分を改竄してしまえば、あとの通信も平文で行われてしまう[6]。2014年には、インターネットサービスプロバイダによるSTARTTLSの妨害も報告されている[8]。
- DNS偽装が行われた場合、全ホップのTLS接続を保ったまま中間者攻撃を成立させられる[9]。
など、電子メールの完全性や機密性の担保、送信者認証などはいずれも実現することができない[10]。電子メールに対してこれらの保護を適用するには、S/MIMEなど、上位層で行うことが必要となる[11]。
脚注
注釈
- ^ この時点から暗号化通信が開始される(理解しやすいようにこの行を補った)。詳細はPaul Smithによる次のメーリングリストへの投稿を参照されたい(英文)。Paul Smith (2009年1月26日). “STARTTLS & EHLO”. ietf-smtp mailing list. Internet Mail Consortium. 2015年10月14日閲覧。
- ^ SMTPでは、認証は必須ではないことに注意。
出典
- ^ Tim Dierks; Eric Rescorla (2008年8月). “The Transport Layer Security (TLS) Protocol”. RFC Editor. 2012年5月13日閲覧。
- ^ Paul Hoffman (2002年2月). “SMTP Service Extension for Secure SMTP over Transport Layer Security”. RFC Editor. 2012年5月13日閲覧。
- ^ Per Thorsheim (2011年10月). “More STARTTLS support!”. 2012年5月13日閲覧。
- ^ Postbox (2011年11月). “Using Postbox with iCloud Accounts : Postbox Support”. 2011年11月13日閲覧。
- ^ 『マスタリングTCP/IP SSL/TLS編』、pp.408-409。
- ^ a b 『マスタリングTCP/IP SSL/TLS編』、p.406。
- ^ 『マスタリングTCP/IP SSL/TLS編』、p.400。
- ^ Jacob Hoffman-Andrews (2014年11月11日). “ISPs Removing Their Customers' Email Encryption”. 電子フロンティア財団. 2014年11月21日閲覧。
- ^ 『マスタリングTCP/IP SSL/TLS編』、p.407。
- ^ 『マスタリングTCP/IP SSL/TLS編』、p.409。
- ^ 『マスタリングTCP/IP SSL/TLS編』、p.451。
参考文献
Eric Rescorla、齋藤孝道、古森貞、鬼頭利之(訳)、2003、『マスタリングTCP/IP SSL/TLS編』、オーム社 ISBN 978-4274065422
関連項目
- TCP/IP
- Transport Layer Security(Secure Sockets Layer)
- 暗号
- インターネット標準
外部リンク
- SMTP TLS Tests and Tools(TLS接続が可能かテストできるウェブサイト。"Receiver Test"をクリックしてメールアドレスを入力すると、メールアドレスをホストしているメールサーバで、本項で述べたSTARTTLSコマンド発行の様子を確認できる。英文)
|
- STARTTLSのページへのリンク