活発な兄弟への劣等感、就職してもうつ病になり…こっちのけんとを救った「歌」と「はいよろこんで」に込められた思い
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「ギリギリダンス ギリギリダンス (踊れ)」
今年、この中毒性の高い歌を口ずさみ、キレキレのダンスをマネした人も多いのでは?
こっちのけんとさんは、5月にリリースした「はいよろこんで」が大ヒット。ミュージックビデオの再生回数は1億3000万回を超え、大みそかにはNHK紅白歌合戦の出場が決まった。「(紅白への出場を)ずっと目指して頑張ってきたので、家族やチーム、自分にも恩返しができた」と話す。
「はいよろこんで」は、居酒屋などで客の注文を受けた店員が反射的に口にする決まり文句。「人の役に立ちたい」という前向きな意味とともに、「自分のこと(気持ち)を無視しちゃっていることにも気付いてほしい」という思いが込められたタイトルだという。
明るい曲調の中に「SOS」を意味するモールス信号が織り込まれているのも、「誰かに頼っていい」というひそかなメッセージだ。随所にみえるこうしたやさしさが、生きづらさを感じる多くの人の心に響き、世代を問わず共感を得ている。
生きづらさを抱えて
何を隠そう、自分も生きづらさを抱えてきた一人だ。
3人兄弟の真ん中に生まれ、小学生の頃は、活発な兄や弟に比べ、ぜんそく持ちでインドアな自分に劣等感を抱いていた。大学時代にはアカペラサークルで出場した全国大会で優勝し、歌手になりたいという思いを持ちながらも、卒業後は就職。ところが、無理がたたってうつ病を発症し、1年で倒れた。
背伸びをして頑張ってしまうのは、ちょっと離れた「あっち」の自分。大好きな音楽活動をするのは、本来の姿である「こっち」の自分。そんなふうに考えたら、気持ちが少しラクになった。それが、一風変わった芸名の由来でもある。
「努力してもうまくいかない時は、少し休んでもいい。続けながらうまくいくタイミングを待つのがベスト。僕にとっての歌もそうだったから」
言葉の意味を考えながら、その歌を何度でも聴き直したい。悩んできた人だからこそ、伝えられるメッセージがある。
(文・飯田真優子 写真・隅谷真)
プロフィル
1996年6月13日生まれ。大阪府