「もう二度と、あんな失礼なことは言われたくない」…プライド傷つけられた「技術の日産」
完了しました
[破談 ホンダ・日産]<中>
ホンダとの経営統合協議の撤回が発表された13日、日産自動車の幹部が語気を強めた。「もう二度と、あんな失礼なことは言われたくない」
一連の協議で、ホンダが日産に求めたのは、破談のきっかけとなった、ホンダによる日産の完全子会社化だけではない。日産がリストラを断行すること。さらに、日産独自のハイブリッド車(HV)システム「eパワー」を捨て、ホンダのHVシステムに一本化することが提案されていた。
ホンダの提案は、かつて、「技術の日産」を
ホンダからすれば、自社システムの販路が拡大できれば量産効果が高まり、結果的には日産の調達コストの削減にもつながるとの思惑があった。子会社化するつもりだった日産の選択と集中にも効果があるとの目算だった。
電気自動車(EV)の量産化では世界に先駆けた日産だが、HVの導入にはトヨタ自動車やホンダに大きく遅れた。ホンダ幹部は13日、「HVは、我々に一日の長があるのは自明」と語った。
日産が13日発表した2025年3月期の業績予想では、最終利益が800億円の赤字に転落する見通しとなった。自動車事業に限れば、24年4~12月期の営業利益は2000億円弱の赤字に陥る。
主因は、主戦場の米国で人気の高まるHVを投入できていないことだ。米国のHV販売が好調なホンダは、日産の北米市場のテコ入れが急務とみていた。統合協議では、カギとなるHV戦略も「火種」となっていた。
日産「eパワー」海渡れず 苦戦続き 800億赤字見通し

1月中旬、米ロサンゼルス近郊。トヨタ自動車やホンダなどの新車販売店がにぎわいを見せるなか、日産自動車の店舗は閑散としていた。
「日産車は売れていないね。新味のない、安いブランドというイメージが定着している」。日系販売店のオーナーが打ち明けた。

コロナ禍後、米国で生産量の回復に伴い在庫がかさみ、値引き競争が激化した。各社とも値引きの原資となる販売奨励金の積み増しを迫られたが、ハイブリッド車(HV)が投入できない日産はひときわ苦戦を強いられた。関係者によると、日産の昨年12月末の1台あたり奨励金は4500ドル弱で、市場平均より10%ほど高かった。
「売れる車がない」(日産幹部)ために値引きを重ねた結果、ブランドが劣化。さらに売れなくなるという悪循環だ。
米国でHVを投入できない理由は、ホンダが開発放棄を求めた「eパワー」にある。エンジンは発電のみに使い、静粛性や加速性に優れているが、トヨタやホンダのHVと比べると、高速道路での燃費性能が劣っている。国土が広く、長時間、高速で運転することが一般的な米国には不向きで、今なお販売できていない。
HVがあるかないかの差は、数字に表れている。2024年、ホンダが米国で142万台を販売したのに対し、日産は92万台にとどまった。24年4~12月期連結決算で、北米でのホンダの営業利益が約4700億円だったのに対し、日産は62億円の赤字。25年3月期の業績予想で、日産の最終利益が800億円の赤字見通しに陥った要因だ。
周回遅れ
両社に生じた力関係の差を探るには、30年近く遡る必要がある。日本のお家芸であるHVは、トヨタが1997年に世界初の量産型HV「プリウス」を発売したのが始まりだ。エンジンと電動モーターを併用することでガソリン車の約2倍の燃費性能を実現し、世界を驚かせた。
すかさずホンダも追随した。99年に初代のHV「インサイト」を発売した。
日産は周回遅れだった。トヨタからシステムを購入する方式でHVの販売をようやく始めたのは2007年。独自の量産型を投じたのは10年になってからだ。当時、社長だったカルロス・ゴーンの方針で電気自動車(EV)開発に注力したのが、分かれ道となった。
別々の戦略
「長距離移動が多い海外で重視される高速燃費でも優れた性能を発揮できる」。13日の記者会見。日産社長の内田誠は、破談理由を説明した後、次世代eパワーの投入に言及した。高速域での燃費は、従来比15%向上したという。25年に欧州で、26年度から北米に投入する計画だ。ある役員は「会見直前になって発表に押し込んだ。これでホンダとも戦える」と話す。
ホンダは昨年12月、現行型と比べて生産費用を3割以上削減できる新システムを披露した。執行役の林克人は「HVと言えばプリウスの名前が浮かびやすいが、ゲームチェンジできる」と強調。トヨタへの対抗姿勢をむきだしにするホンダの視野に、「技術の日産」の姿はない。
もっともHVの24年世界販売では、ホンダは86万台、日産は39万台。両社を足しても、414万台を販売したトヨタの背中はあまりにも遠い。早稲田大ビジネススクール教授の長内厚は「日産は、思い切ってeパワーをやめて、ホンダに乗るくらいの大胆な意思決定が必要だった」と指摘する。
ホンダが提案したHVシステムの統合は理にかなうものだったのか。破談となった今、両社の判断に対する審判は、市場に委ねられることになる。(敬称略)