【ラーメンは芸術だ!】大阪・北新地のカレーラーメン「旬彩堂」、ネオン街で光る「勝負の一杯」

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北新地の夜は更けていく

 夜のとばりが落ちて街に灯がともる――〽 武田鉄矢&芦川よしみの昭和歌謡「男と女のはしご酒」を歌いたくなるような夜だった。クラブやバーがひしめく高級歓楽街の大阪・北新地。ネオンの灯がまぶしい。カレーラーメンの専門店「旬彩堂」は、そんな街の一角にたたずみ、家路につく前に締めの一杯を求める酔客でにぎわう。午後6時から午前3時や5時にかけて営業する深夜ラーメン店は、今年1月から新たにランチタイム営業も始めた。コートの襟を立て、師走のキタを訪ねた。

ビルの奧にある黄色い提灯が目印

 スマホの地図アプリを見ながら店を目指したが、通り過ぎてしまった。表通りには看板も出ていない。よく見ると、ビルの1階部分に奥へと延びる細長い通路がある。その行き当たりに黄色いちょうちんにラーメンと書かれた旬彩堂を見つけた。
この細長い通路の一番奥に店はある
旬彩堂の入り口

 店内に入ると、経営者の谷本昌哉さん(38)、唯さん(30)夫妻が笑顔で迎えてくれた。さっそく一番人気の定番メニュー「ポークカレーラーメン」(900円)を注文した。昌哉さんが、カウンター越しのちゅうぼうで調理を始める。「ここでスープを作っています」。昌哉さんがそう言って、厨房奥のずんどう鍋を見せてくれた。カレースープが、グツグツと音を立てながら煮込まれていた。スパイスのいい香りが漂っている。提供する際は、ここから直接使うのではなく、いったん冷やして休ませたスープを片手鍋に入れて温めるそうだ。冷蔵庫から取り出した豚の肩ロース肉も入れて煮込んでいく。「宮崎の無菌もち豚です」と昌哉さん。完成したラーメンは、カレーをイメージした金色の丼で出てきた。
寸胴鍋で煮込まれるカレーのスープ
宮崎産の豚肩ロース肉

一番人気のポークカレーラーメン(900円)

さらっとしたスパイススープに卵麺がからむ

あっさり目でスパイスの刺激を抑えたカレースープ
スープによく合う卵麺

 スープからいただくと、カレーの風味が広がり、おいしい。ただ、一般的なカレーとは異なる印象だ。さらっとしていて、スパイスの刺激も強烈ではない。食べやすい。昌哉さんが「食べ合わせがいい」と説明した麺は、国産小麦の卵麺で、普通の麺より短い。確かにカレーのスープと相性がいい。そして、短い方がすすった時に汁が飛ばず、ワイシャツやネクタイも汚れない。スープもあっさりしている方が翌日、胃もたれがないだろう。それでも、食べ進んでいくと、スパイスがじわじわといてきて、体が温まってきた。

 理由はやはり、手間と時間をかけたスープにある。「スープのベースは7種類の野菜です。ハクサイ、タマネギ、ニンジン、カボチャ、サツマイモ、ショウガ、ニンニクを煮込んでいます」と昌哉さん。店名にあるように、旬を彩る野菜を多く使うようにしていて、冬はハクサイ、春はタマネギ、夏はカボチャ、秋はサツマイモといった具合に、季節に応じて個々の野菜の割合を変えているそうだ。そして、カレーのスパイスは、ターメリック、クミン、コリアンダー、カルダモン、シナモンなど16種類。これを毎日、店の厨房で仕込んでいる。

トッピングは「ドラクエ」、梅つけ麺もおすすめ

ドラクエゲームを意識したノリの言葉

 トッピングで目を引くのは、大量のネギと、「コマンド」「どうぐ」といった言葉の入ったノリだ。ゲームのドラクエを意識したものだといい、「ゲーム好きの人はすぐにわかりますね」と唯さん。たくさんのネギは、その方がうれしいでしょうという理由からだが、これも酔った客には罪悪感を和らげてくれる効果があるに違いない。昌哉さんは「隠し味に、白を使っています。言ってしまったら、隠し味でもないんですけど」と話した。トッピングにコーンがあるのは、北海道の味噌ラーメンをイメージしたからだという。
梅の香りと酸味が絶妙な「梅カレーつけめん」(1000円)

 「せっかくだから、おすすめのつけ麺も食べてください」と、昌哉さんが「梅カレーつけめん」(1000円)も作ってくれた。こちらは、つけ汁に紀州南高梅が使われている人気メニューだ。カレースープと魚介スープを合わせたつけ汁に、全粒粉入りの太麺をつけて食べると、梅の何とも言えないいい香りと酸味が広がった。こちらも非常にお薦めだ。

ウコンに商機、2大国民食の合体で勝負

 昌哉さんは和歌山県田辺市出身で、実家は梅農家。紀州南高梅を使ったラーメンがあるのはそのためだ。大学進学で大阪に出てきた昌哉さんは、20代で北新地にバーを開業した。今も経営している。旬彩堂をオープンしたのは10年前。きっかけは、バー時代、ウコンが二日酔いに効くと宣伝され、ドリンクや錠剤の商品が続々と発売されたことだった。

 カレーに欠かせないターメリックはウコンであり、夜の繁華街では最後に汁物を求める客も多い。大阪ではカレーうどんは人気があり、カレー専門店も多い。そこから、「カレーラーメンの専門店を始めよう」と考えたそうだ。もともとラーメンが好きで、バー時代にラーメン店で修業したこともあった。

 ところが、開店当初は「もっと普通のラーメンはないの?」と言われることが多かった。カレーの主張が強すぎたのだ。「できるだけ万人受けする味を作ろう」と、ラーメンらしさとカレーらしさのバランスを試行錯誤し、5年ほど前に現在の「普段着の味」にたどりついた。

子連れもOK、ランチタイムスタート

二人三脚でがんばっている谷本昌哉さん、唯さん夫妻。特注のネオンサインは店内にある

 唯さんは、大学生の時に旬彩堂でアルバイトを始め、7年前に結婚。「うちのランチタイムは夜中の12時から始まり、満席になります。私たちは昼夜逆転生活ですね」と言って笑顔を見せた。昼と違うのは、客の多くは酒を飲んだあとにやってくることだ。常連客も多い。中には、自分の子どもを連れてくるようになった人もいるそうだ。そうした中で、「昼間も営業して若い人や、家族連れにも食べに来てほしい」と考えるようになり、今年に入ってランチタイムの営業も始めた。
カウンターとテーブル席二つの店内

 「カレーラーメンというジャンルを確立したい」という昌哉さん。「カレーとラーメンという最強の一杯をぜひ味わってほしい」という唯さん。2人が力を合わせて営む旬彩堂は、開店10周年を迎える今年、もう1店舗オープンさせるそうだ。
■旬彩堂
 大阪市北区曽根崎新地1-3-30。昼は、午前11時半から午後2時半。夜は、午後6時から午前3時(金曜と祝前日の夜は午前5時まで、土曜の夜は午前2時まで)。詳しくは、店の公式インスタグラム(@shunsaido)へ。

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Profile プロフィル


森太さん


森 太(もり・ふとし)


 読売新聞編集委員。ロンドン駐在中に日本のラーメンの魅力を再発見。アフリカ、欧州、社会部、国際部、運動部を遍歴し、読売新聞の英字新聞「The Japan News」デスク。The Japan NewsでRAMEN OF JAPAN を連載しているほか、Delicious Beautiful Spectacular JAPANを担当している。







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