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13日に92歳で亡くなった詩人の谷川俊太郎さんが愛した喫茶店が県内にある。長野市戸隠の「喫茶ランプ」で、40年以上交流を続けてきた店主の高橋博文さん(77)は、谷川さんの在りし日の思い出を振り返り、「寂しいです」と言葉を詰まらせた。 (浅賀さくら)
高橋さんは「山の話をすると『それで、それで』と谷川さんは楽しそうに聞いてくれた。また山の話がしたかった」としのんだ。
谷川さんと交流が始まったのは45年前、1979年の秋だった。私生活で悩み、筆が進まない状態だった谷川さんを、当時の岩波書店の担当編集者の山田馨さんが「気分転換に」と自然豊かな戸隠に連れ出し、なじみの同店を訪ねたことがきっかけ。それ以来、谷川さんは多い時で年に4回訪ね、カウンター席でコーヒーを飲みながら高橋さんと談笑した。しばしば店のインテリアについて助言され、直すと「そうそう」と穏やかな笑顔を見せたという。
約10年前に谷川さんが高齢のため運転を控えるようになり、電話でやりとりするようになった。今年の正月も「元気ですか。戸隠の雪はどうですか」と電話があった。これが最後のやりとりになったという。
店内には谷川さんの詩集の数々や、同店に寄せられた直筆の詩が飾られ、どれも高橋さんの宝物だ。最初に贈られた「ランプに寄す」と題した詩は「きょうここにいるから あすをゆめみることができる」(一部抜粋)と記されており、高橋さんは「こういう喫茶店でありたいです」と目を細める。
高橋さんの次女三貴子さん(48)は98年の結婚式に際し、詩を贈ってもらった。「どんな贈物も ふたりを祝うには小さすぎる ふたりは互いに自らを贈りあっている」(一部抜粋)。詩はいつも結婚生活と共にあり「ダメなところも含めて、相手を受け入れることの大切さを学んだ」という。谷川さんが旅立ち「心にぽっかり穴が開いたが、その穴は今、感謝の思いでいっぱいです」と涙を浮かべた。