まとめサイトに「NATO軍、日本に駐屯を検討」の偽情報…ネット掲示板から転載 

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[情報偏食 ゆがむ認知]第5部 操られる民意<3>

 <NATO軍、日本に駐屯を検討>。5月、こんなタイトルの情報がネット掲示板に投稿され、瞬く間に10を超える「まとめサイト」に転載された。

ネット情報の真偽、どう見極める?…「ファクトチェック」学ぶ取り組み広がる
二つのまとめサイトを運営する男性が送ってきた写真。ネット掲示板の記事を集めて転載する様子を撮影した(11月16日)
二つのまとめサイトを運営する男性が送ってきた写真。ネット掲示板の記事を集めて転載する様子を撮影した(11月16日)

 しかし、タイトルと本文の中身は全く違っていた。

 タイトルだけを読めば、ロシアと 対峙たいじ するNATO(北大西洋条約機構)が日本に部隊を配備するように見える。だが、日本の通信社の記事を引用した本文は、「NATOが連絡事務所を開設する方向で検討を進めている」という内容にとどまる。

 まとめサイトを見た東京都内の40歳代男性は、「中国がイライラしそうなタイトル。面白そうなので拡散した」と話した。ネットでは<着々と戦争の準備だね><日本も戦場にする気なのか>などと投稿が相次いだ。

ワークショップの準備を進める藤代裕之教授(中央)とゼミ生(11月17日、東京都町田市の法政大学多摩キャンパスで)
ワークショップの準備を進める藤代裕之教授(中央)とゼミ生(11月17日、東京都町田市の法政大学多摩キャンパスで)

 ネット掲示板やSNSなどの情報を拾い集め、紹介するまとめサイトは、「ソーシャルメディア」と「マスメディア」の間にあるものとして「ミドルメディア」と呼ばれる。「NATO軍」のケースのように、偽情報を拡散する「装置」となることも多い。

 まとめサイトは、どれほどの閲覧数があるのか。

 この偽情報を発信したサイトの分析を民間調査会社「シミラーウェブ」(東京)に依頼すると、5月の1か月間に318万アクセスを超えるサイトもあることが判明した。

 さらに、セキュリティー専門家「レトロ」氏とともに、運営者を捜した。ネット上の住所に当たるドメイン取得者の特定は難航したが、約3週間かけて運営者の一人を突き止めた。

 運営者は関西在住の20歳代の男性だった。月間計約80万アクセスがある二つのまとめサイトを運営。1日5~6時間、ネット掲示板の話題を集め、自分のまとめサイトに載せている。話題を選ぶ基準は「面白いと思ったもの」と言う。

 目的は広告収入だ。月に6万~7万円を得ている。「NATO軍」の偽情報をネット掲示板から転載した経緯を聞くと、「タイトルは『そのままでも大丈夫』と軽く考えていた。迷惑をかけて申し訳ない」と反省し、記事を削除した。

偽情報がメディア循環

 一部のマスメディアが、偽情報の増幅に加担してしまったケースもある。

 <米国がウクライナで『日本の731部隊似』の研究 露通信社報じる>

 昨年3月、中日スポーツはこんな記事を国内最大級のポータルサイト「ヤフーニュース」に配信した。情報源はロシア国営通信社「スプートニク」。同国のプロパガンダを広めているとして、欧州連合(EU)が配信禁止措置を取っているメディアだ。

 SNSで話題になっていたスプートニク日本語版の記事について、中日スポーツは、取材で確認せず転載していた。すぐに社内から「不適切だ」と指摘され、記事を削除した。

 同紙は2019年からヤフーニュースに記事を配信している。同紙幹部は「スポーツ紙の主戦場となっている」と明かす。トップ記事「トピックス」(ヤフトピ)に掲載されれば、閲覧数が増えて広告収入につながる。求められるのは、記事配信のスピードと量だ。

 「ヤフトピ掲載を巡る競争は激しく、様々な問題が起きている」。同紙幹部は記事の確認がおろそかになった背景をこう語る。

 同紙はその後、記者に対し、不確かな情報は、複数の情報源に当たることなどを改めて徹底した。

 「ソーシャル」「ミドル」「マス」の間で情報が循環していく仕組みは「フィードバックループ」と呼ばれる。その輪の中では、確認が不十分なまま偽情報が転載され、人々の注目を引くために誇張された情報が増幅されることがある。

 法政大の藤代裕之教授の研究室は、若者向けの啓発活動に取り組む。記事の閲覧数を稼ぐために、ミドルメディアではどのようにタイトルが付けられているか考えてもらうワークショップを企画している。

 研究室に所属する社会学部4年生(21)は「注目を集めるために、いかに事実と無関係で扇情的なタイトルがつけられているか。あえて体験することで、そのことを知ってほしい」と話す。

 藤代教授は「ソーシャルメディアなどで出回るウソが、『事実』であるかのように扱われ、独り歩きしてしまう。それを防ぐ仕組み作りが重要だ」と警鐘を鳴らす。

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