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富山市の旅行・貸し切りバス業「新富観光サービス」は、コロナ禍で売り上げが激減する苦境にあって、キャンピングカーのレンタル事業に活路を見いだした。
観光地などをバスで巡るオリジナル商品「トミーズツアー」を企画し販売。利用の多い年配女性のニーズに合わせ、四季折々のツアーを展開してきた。
しかし、新型コロナウイルスが猛威を振るい始めた2020年2~4月、キャンセルが相次ぎ、その後、仕事は皆無に。「事務所の電話が鳴らないなんて初めて。一番つらかった時期だった」と社長の寺崎聡(63)は振り返る。同年の売り上げは前年比8割減だった。
増員なしで挑戦
「社員の『首切り』だけはしない」。心に誓った。21年に年が改まり、社員の生活を守るべく、新事業のアイデアを練り始めた。目を付けたのは、キャンピングカー。コロナ禍の悩みだった「密」を避けて移動や寝泊まりができる利点があり、堅調に生産や販売台数を伸ばしていた。
「うちは旅行屋。観光バスに加えて、キャンピングカーを旅行の一つのジャンルとして提供するのもありではないか」。自社ならば、ただ車両を貸し出すだけではなく、キャンピングカーで楽しめる旅行プランを提案したり、旅館や食事施設を手配したりできる。車両管理ができる人材もおり、増員なしで挑戦できることに一筋の光明を見た。
社員からは「多額の費用をかけて大丈夫なのか」と不安視する声も上がった。しかし「新たな収入源がないと皆の生活が守れない」と説得し、レンタカー業認可の取得にこぎ着けた。
キャンピングカーの人気車種には、トラックなどの後部に居住部を取り付けた大型の「キャブコン」と、バンタイプの商用車などを改造した「バンコン」がある。30~50歳代のサラリーマンをターゲットに定め、個人での所有が難しいキャブコンを寺崎は選んだ。
キャンピングカーを約1000万円で購入し準備を進めた。県の補助金の活用などで初期投資は当初予想より抑えることができた。
2年半で目標達成
21年9月、レンタルを開始。ホームページでキャンピングカー旅行のモデルコースを掲載し、新たな旅の形としてPRした。「旅行販売と車両管理のスペシャリストの両方がいるのがうちの強み。想定よりも売り上げが伸びた」と手応えを語る。年間1000万円の売り上げ目標を開始2年半で達成し、減給や人員削減もせずにコロナ禍を切り抜けた。
現在、キャンピングカーは3台あり、料金は1日2万7500円から。今後は新車種導入も視野に入れる。ペット同行が可能な車両や、運転が苦手な人も運転しやすい軽キャンピングカーなどをそろえ、多様なニーズに応えていく構えだ。
「富山の一番の売りである自然と食を楽しめるキャンピングカーを生かして、県内への誘客数を増やしていきたい」と意気込んでいる。(敬称略)(富山支局 上田津希乃)
新富観光サービス(富山市)
1972年創業。富山市の本社のほか高岡、魚津両市に事業所を構える。従業員53人。オリジナルの旅行商品を販売するほか、貸し切りバス事業も行う。バスは大型から小型まで計22台を保有。資本金6600万円。2024年3月期の売上高は約8億8000万円。
車両売り上げ 過去最高
日本RV協会(横浜市)によると、会員企業の昨年のキャンピングカーの売上総額は新車と中古車を合わせて約1054億円で、2012年の調査開始以降過去最高となった。国内の保有台数も、同協会が調査を開始した05年から約3倍となる約15万台(昨年)に増えるなど右肩上がりだ。
キャンピングカーは災害時の住居やテレワークができるオフィスなどにも活用できるとして関心が高まっている。同協会の担当者は「新車は1年ほど待つ必要があるが中古車はすぐ入手できるため、中古車の販売額が増加している。今後もこの傾向が続く」と予想している。