完了しました
立山黒部アルペンルートの立山トンネル(全長3・7キロ)内を走る日本唯一のトロリーバスが11月30日、ラストランを迎えた。日本初のトロバスが1928年に兵庫県で開業して以来、約1世紀にわたる国内のトロバス史に幕が下りた。立山では96年4月の運行開始以来、無事故で1992万人を運び続け、来季以降は電気バスに切り替わる。(吉武幸一郎、岸本健太郎)
トロバスは、トロリー線と呼ばれる架線から、トロリーポールを介して電気の供給を受けて走る。見た目はバスだが、鉄道の一種「無軌条電車」に分類される。路面電車より整備費が安く、戦後には東京や大阪などの都市部で相次いで導入されたが、72年に横浜市で廃業したのを最後に、都市部では姿を消した。
アルペンルートでは、排ガスを出さない環境負荷の小ささが注目され、64年に扇沢(長野県大町市)―黒部ダム(富山県立山町)駅間を結ぶ関電トンネルで導入された(2019年から電気バスへ転換)。「立山トンネルトロリーバス」は立山黒部貫光(富山市)が室堂(立山町)―大観峰(同)駅間で導入し、最高時速40キロ、所要時間10分で結んだ。
ただ、老朽化で車両更新の時期を迎える中、部品調達が難しくなり、廃止が決まった。
アルペンルートにはこの日、最終運行を見守ろうと、多くの客が訪れた。名古屋市の会社員男性(32)は「見た目とは裏腹に電車の音がするのが魅力的だった。厳しい環境の中、最後までよく頑張ってくれたトロバスに、『お疲れさま』と言いたい」とほほえんだ。
日本で最も標高の高い鉄道駅・室堂駅(標高2450メートル)では午後3時、920人の中から抽選で選ばれた乗客200人が4台の最終便に乗り込んだ。ホームでは感謝を伝える横断幕が掲げられ、発車メロディーの「銀河鉄道999」が鳴り響くと、多くの職員が涙を流した。
4台は警笛を鳴らし、独特のモーター音を響かせてトンネル内に消えていった。その間、職員は姿がなくなるまで手を振り、最後の雄姿を見送った。
最終便に乗り込んだ埼玉県鴻巣市の地方公務員男性(33)は「トロバスの技術が途絶え、さみしい思いもあるが、長い歴史に感謝できる感慨深い一日になった」とかみしめるように語った。
立山黒部貫光室堂運輸区の堀田淳一区長(56)は「29年間安全運行を貫けてホッとしている。トロバスに関われたことは人生の誇り。この誇りを胸に、電気バスの新たな時代に歩みを進めたい」と話していた。