いつか赤ちゃんに会いたいあなたへII
医療・健康・介護のコラム
「避妊は習ったけれど、望んでもできないことがあるとは」 不妊の経験者が高校で「いのちの授業」…生徒たちに感じてほしいこと
日本の学校教育の現場では、性について学ぶ機会が多くありません。2015年に、高校の保健体育の副読本に「不妊」のことが初めて記載されましたが、その後、約10年にわたって生じた、妊活や不妊を巡る状況の変化については、情報が更新されていません。こうした状況も踏まえ、不妊治療を経験した当事者が集まる私たち、NPO法人「Fine」では、2024年夏から東京都立高校で「いのちの授業」を実施しています。
妊娠できても…
6~7月、3校の1~3年生の男女計約320人の生徒に対し、講義をしてきました。
パートナーと子どもを望んだ場合、精子と卵子で受精卵(胚)をつくり、それが子宮で着床することで妊娠という状態になります。ただ、必ず妊娠できるわけではないこと、その場合に不妊治療という生殖補助医療があることをお話ししました。
不妊治療では、人工的に精子と卵子で受精卵をつくるのですが、それができないことは少なくありません。運良くできた受精卵を子宮に戻しても、着床できるとは限りません。
着床後は、多くの場合、妊娠6~7週を過ぎた頃におなかの赤ちゃんの心拍を確認できるのですが、なかなか確認できなかったり、突然聞こえなくなったりします。不妊治療を受ける当事者たちは、これを「9週の壁」と呼んでいます。それを過ぎても、流産や死産、早産など、無事に出産できるまでには、数多くのハードルがあります。それをすべて乗り越えて、ようやく赤ちゃんが誕生するのです。
こうした話を通じて、この世に誕生できない命がたくさんあることを知ってもらい、自分の命は当たり前ではなく、今、ここにいることは奇跡なのだと感じてもらいます。
みな、精子や卵子、妊娠、出産という言葉を、恥ずかしいと思うことなく、私の話に、真剣に耳を傾けてくれている姿に感銘を受けました。同時に、このようないのちの授業はとても大切で、必要だという思いも強くしました。
きょうだいが3人 お金かかって大変
前半の講義に続き、後半はグループワークをしました。調べるテーマは(1)妊活・不妊(2)妊娠(3)出産(4)産後・子育て――の中から一つを選択し、それぞれのテーマにまつわるニュースや、テーマごとにかかる時間や費用をスマートフォンやタブレットで調べてもらいました。
生徒たちからは、
・赤ちゃんポストって何ですか?
・きょうだいが3人いるから親はお金かかって大変なんだなー。
・不妊治療をしたら、みんな妊娠、出産できると思っていたけど、違うと分かった。
・避妊は習ったけれど、望んでもできないことがあるとは知らなかった。
・自分の命がいろいろなプロセスを経てようやく生まれてきたと思うと、自分のことが 愛 おしく感じる。
・保健体育で習ったことよりも、実際体験した人の声は具体的で分かりやすかった。
などの感想が寄せられました。
授業を企画してくださった先生からも、「自分もまだ出産や不妊治療の経験はなく、妊娠に至るまでについて知らないことが多くて驚きました」、「自分が高校生だった頃、性や妊娠について、もっと詳しく教えてほしかったなと感じています」、「今は様々な情報がネット上にあって、好きな情報のみを受け取れてしまう環境です。それでも、性や命について恥ずかしいと思わず、命という存在の尊さを感じてほしいと思っていました」といった意見が上がりました。
生まれない命があることを体験した不妊当事者の実体験をもとに命の奇跡と尊さを届けることで、高校生が大人になってから、「知らなかった」「教えてもらえなかった」と後悔することがないようにしていければと思います。(野曽原誉枝 NPO法人Fine理事長)
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