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賃貸相談

月刊不動産2008年1月号掲載

定期借家契約の再契約

弁護士 江口 正夫(海谷・江口法律事務所)


Q

賃貸アパートを定期借家で賃貸しましたが、初めての再契約の時期を迎えています。定期借家契約の再契約はどのように行えばよいのでしょうか。

A※記事の内容は、掲載当時の法令・情報に基づいているため、最新法令・情報のご確認をお願いいたします。

  • 1. 定期借家契約の再契約の手続

    (1) 定期建物賃貸借契約

     定期借家権は、賃貸借契約において定めた期間が満了すると借家契約が終了するものとされており、従来の普通借家契約とは異なり、契約期間の満了により賃借人に対して立ち退きを要求する際に立退料が不要とされている借家権です。定期借家契約は借地借家法(以下「法」といいます)38条に「定期建物賃貸借」として規定されています。

     既に成立した定期借家契約を再契約するための手続ですが、再契約するためには、まず従前の定期借家契約を終了させる必要があります。再契約とは従前の契約を終了させた上で、新たに契約を締結することを意味するからです。

    (2) 定期借家契約終了の通知

     上記のとおり、定期借家契約は期間の満了により終了することからすれば、定期借家契約の終了には格別の手続は不要であると思われるかもしれませんが、法 38条4項は賃貸期間が1年以上の場合には期間の満了の1年前から6か月前までの間(これを「通知期間」といいます)に、期間の満了により賃貸借が終了する旨の通知を賃借人にしなければ、定期借家契約の終了を賃借人に対抗することができないと定めています。したがって定期借家契約の終了を賃借人に主張するためには、上記の通知期間内に通知することが必要です。賃貸人が通知期間内に通知をしなかった場合でも,その後に上記の通知をすれば通知の日から6か月を経過した後は終了を対抗することが可能になります。

    (3) 再契約の場合の定期借家契約終了の通知

     再契約をする意向がある場合には、この通知は不要と考える方も少なくないのですが、再契約の条件を折衝した結果、再契約の締結に至らない等の場合に契約の終了を主張するためには上記の通知をしていない限り、期間終了と同時に定期借家契約の終了を賃借人には主張できないことになってしまいます。

     そこで、上記通知についての国土交通省のひな型では、再契約の意向がある場合も上記の通知を行うことを前提として、通知の際に賃貸人において再契約の意向がある旨を付記することとしています。

    2. 再契約における定期借家権の成立要件

     普通契約の更新の際には、更新後の賃料額と期間を定める以外は原契約のとおりとして口頭のみで更新を合意することがあります。しかし、定期借家契約の再契約とは、新たに定期借家契約を締結することですから、再契約自体が定期借家権の成立要件を満たしていなければなりません。

    (1) 定期借家権の要件

     定期借家権が有効に成立するには、以下の3つの要件を満たすことが必要とされています。

     ①公正証書による等書面で契約すること
     ②契約の更新がないことを定めること
     ③賃貸人が、あらかじめ賃借人に対し、契約の更新がなく、期間の満了により賃貸借が終了することについて、その旨を記載した書面を交付して説明すること

    (2) 再契約と定期借家権の成立要件の充足

     再契約は更新とは異なり、新たな定期借家契約の締結ですから、再契約の時点でも定期借家権の成立要件を満たす必要があります。

     具体的には、再契約の締結は口頭ではなく、必ず公正証書等の書面で行うことが必要です。

     また、再契約に先駆け、あらかじめ賃借人に対して書面で上記③の通知を行うことが必要です。

     賃貸人が書面を交付して上記③の説明を怠った場合には、「契約の更新がないこととする旨の定めは、無効とする。」(法38条3項)と定められていますので、再契約の際にこの説明を省略したときにもこの規定が適用されることになります。

     したがって、賃貸人が再契約の際に上記③の書面を交付して説明することを怠った場合には、定期借家契約としては無効となりますが、借家契約全体が無効となるわけではなく、普通借家契約としては有効となるものと定められていますので注意が必要です。

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