時速194キロ死亡事故“危険運転致死罪が成立”懲役8年判決

3年前、大分市の県道で、時速194キロで車を運転したことによる死亡事故が危険運転致死の罪にあたるかどうかが争われた裁判で大分地方裁判所は「ハンドルやブレーキ操作のわずかなミスで進路を逸脱する危険性がある」として、危険運転の罪が成立すると判断し、当時19歳の被告に懲役8年の判決を言い渡しました。

3年前の2021年2月、大分市の当時19歳の被告は法定速度が時速60キロの市内の県道で、車を時速194キロで運転し、交差点を右折してきた車と衝突して、運転していた小柳憲さん(当時50)を死亡させたとして、危険運転致死の罪に問われました。

裁判では危険運転致死罪にあたるかどうかが主な争点になりました。

検察が、「車の制御は困難だった」と主張して懲役12年を求刑したのに対し、弁護側は、「道路に沿って直進走行できていた」としてより刑の軽い過失運転致死罪が適用されると主張していました。

28日の判決で大分地方裁判所の辛島靖崇裁判長は「現場は一般道で路面状況などを考えると直線道路であっても、車体に大きな揺れや見落としが生じることは否定できない」などと指摘しました。

その上で「時速194キロで車を走らせて交差点に進入した場合、ハンドルやブレーキ操作のわずかなミスで進路を逸脱する危険性がある」などとして今回の事故は「制御困難な高速度」にあたると認め、危険運転致死の罪が成立すると判断しました。

そして、「法定速度の3倍以上もの常軌を逸した高速度で交差点に進入した行為は危険極まりない。身勝手かつ自己中心的で厳しい非難に値する」として懲役8年を言い渡しました。

一方、検察による「人または車の通行を妨害する目的があった」という主張については認めませんでした。

事故で亡くなった小柳さんの遺族は、判決の言い渡しが始まる前の午後2時45分、ゆっくりとした足取りで互いに手を取り合いながら、弁護士などとともに裁判所に入っていきました。

判決のあと、事故で亡くなった小柳憲さんの遺族らが会見を開き、この中で姉の長文恵さん(58)は、「危険運転致死罪が認められたことは大きいことだと思う。ただ量刑については『8年』と聞いて、頭が真っ白になり、その後の裁判長の話は全く耳に入りませんでした。よい判決だったと思うのか悩ましい量刑だと思う。このような速度を出し過ぎての死亡事故がなくなってほしいと思うが、抑止にならなければならないという面では量刑がこれでいいのかなと思うので、今後についてはゆっくり考えたい」と述べました。

その上で事故発生から28日までを振り返り、「当初、過失運転の罪で起訴されて、怒りが爆発した中でいろんな人と出会い、支えられ、やり残したことはなく裁判を迎えることができた。弟はずっと私のことを見てくれていたと思う。今後、交通事故の被害者や遺族のことをもっと考えてもらえる世の中になってくれればいい。これまでとは違った形になるかもしれないが、闘いは終わらないので、これからもやっていきたい」と話していました。

被告側の松田健太郎弁護士は、判決の後、報道陣の取材に対して「控訴についてはコメントを差し控えるが今後、判決の内容を精査する」と述べました。

判決について、大分地方検察庁の小山陽一郎次席検事は「検察官の主張が一部受け入れられなかったことは遺憾であり、判決内容を詳細に検討し、上級庁とも協議のうえ、適切に対応したい」とするコメントを発表しました。

今回の裁判に参加した2人の裁判員が判決後、取材に応じました。

このうち50代の男性は、「法律の解釈が難しく、法律としてはあいまいなところもあると感じた」と述べました。

その上で、「事件がこういうかたちでクローズアップされることで、若い人が自分ごととして考えるきっかけにしてほしい」と話していました。

40代の男性は、「争点については裁判官から法解釈についての説明もあり、わかりにくいとは感じなかった。また、法改正の動きがあることも知っており、それに対して裁判員としてきちんと向き合って意見を言えたらいいという気持ちでいました。交通事故をなくしていく動きが少しでも進んでほしい」と話していました。

元検事で危険運転致死傷罪について研究している昭和大学医学部の城祐一郎教授は「危険運転が認められたことは非常に評価できる。従来の解釈では、道路外への逸脱がなく、まっすぐ走っているだけでは危険運転の罪の要件にあたる『制御困難な高速度』は認められなかった。今回、時速194キロという特殊性はあるにせよ、直進で走行するなかで発生した事故でありながら、制御困難な高速度と認定されたことは、画期的なことである」と判決を評価しました。

また、猛スピードの車による死亡事故をめぐり、各地の裁判で「『制御が困難な高速度』という法律の要件を満たしていない」などとして、危険運転致死罪が適用されない事例が相次ぐなか、今回、危険運転の罪が適用されたことについて、城教授は「道路外への逸脱やわん曲した道路でなくとも、高速度であることで『制御していない』と認定されることは、先例として価値が高く、ほかの裁判に与える影響も大きい」と述べました。

一方、猛スピードの車による死亡事故をめぐっては、危険運転致死罪が適用されない事例が相次ぎ、法務省の検討会で適用要件のあり方などの議論が行われていて、これについては「高速度についても数値基準を含むかどうかということで、議論されている。194キロという速度は、そもそも大幅に法定速度を超えていて、今回の判決で危険運転が認められたから、数値基準が必要だというような、ストレートな因果関係は認められない」と述べました。

一方、「今回の判決を受け、検討会の委員らは法改正の必要性をより実感することになるだろうし、遺族の方々に対する配慮がより必要になるという認識が強まるだろう」と指摘しました。

去年、宇都宮市の国道で高速度の運転による事故で夫を亡くし、自身も裁判員裁判での審理を待ちながら今回の裁判を一緒に傍聴するなど長さんを支えてきた佐々木多恵子さんは、きょうの判決について「制御困難な高速度での走行が認められたことはすごくうれしくて画期的な判決だと思いますし、私たちの裁判を後押ししてくれる判例になったと思います。ただ、量刑については1人亡くなっているのに軽いなと思いました」と話していました。

大分地方裁判所では判決の言い渡しを傍聴しようと、多くの人が列を作って傍聴券の抽せんに参加しました。

裁判所によりますと、用意された一般の傍聴席69席に対して、392人が傍聴を希望したということで、倍率は5.68倍でした。

判決の日を迎え、3年前に事故が起きた大分市の県道では、静かに朝を迎えました。

午前7時ごろにゆっくり朝日が昇り、事故が起きた交差点を静かに照らしました。

現場には今も花が添えられていて早朝から多くの車が行き交っていました。

28日の判決で、大分地方裁判所は時速194キロで車を運転したことによる死亡事故について、危険運転致死の罪にあたると判断しました。

裁判では、危険運転致死罪の処罰対象になっている『進行を制御することが困難な高速度』にあたるかどうかと、相手の車の通行を妨害する目的で著しく接近させたかどうかの2つが争点となりました。

【争点1:制御困難な高速度か】

1つめの「制御困難な高速度」だったかどうかについて判決は「道路の状況や夜間に法定速度の3倍以上の高速度で走行したことなどを考えると、直線道路であっても車体に大きな揺れが生じ得る」と指摘。

その上で、「時速194キロで交差点に進入した行為は、ハンドルやブレーキのわずかなミスで進路から外れて事故が発生する危険性がある」として、今回の事故は「制御困難な高速度」にあたると認め、危険運転致死の罪が成立すると判断しました。

【争点2:妨害目的だったか】

2つめの「相手の車の通行を妨害する目的だったかどうか」については、裁判所はまず、「通行を妨害する目的」の前提として「急な回避措置をとらせるなど、相手の自由で安全な通行を妨げることを積極的に意図することだ」としました。

その上で「被告が通行の妨害を確実に認識していたのであれば、自身の生命を危険にさらすことも十分認識していたことになるが、そのような危険を冒してまで意思を持って高速度の走行をしたとは認められない」として、妨害の目的については、成立しないと判断しました。

【量刑の理由は】

最後に、求刑12年に対して、懲役8年とした量刑の理由については「落ち度のない被害者の命が奪われた結果の重大性を前提にすると、遺族が厳重処罰を求めることは理解できる。常習的に高速度走行をする中、加速の高まりを体感して楽しむために犯行に及んだ身勝手な意思決定は、厳しい非難に値する」と指摘しました。

一方、この事故では、おととし7月の在宅起訴から、今月5日に裁判が始まるまでの間に、起訴の内容が変更されるなどして2年3か月余りの期間が経過しました。

これについて、大分地方裁判所は「被告に責任がない事情で裁判までの期間が長引き、被告として不安定な状態に置かれ続けたことも考慮した」と結びました。