新型コロナ 感染後の子どもに相次ぐ「MIS-C」とは

新型コロナ 感染後の子どもに相次ぐ「MIS-C」とは
子どもが突然訴える発熱、おう吐、目の痛み。新型コロナウイルスへの感染後、しばらく時間がたってから、こうした症状を訴える子どもが相次いでいます。

診断名は「MIS-C(ミスシー)」、小児多系統炎症性症候群。

欧米では死亡例も報告され、日本でもその実態が明らかになってきました。
(宇都宮放送局 記者 平間一彰)

患者を診察した医師

栃木県にある自治医科大学附属病院の松原大輔医師です。

おととし10月、栃木県内で初めてMIS-Cの患者を診断しました。
松原医師はその年の夏まで、アメリカの病院でMIS-Cの患者の治療にあたっていました。当時、日本では子どもの感染自体が少なく、MIS-Cと診断されるケースはほとんどないと聞いたので、驚いたといいます。
自治医科大学附属病院 松原大輔医師
「夜間の当直の先生から電話があって、ちょっと前にコロナに感染して熱があり、どういう状態かよくわからない子が来たという連絡があり、ひょっとしてMISーCかなと思いました」

患者は11歳の男の子

MIS-Cと診断されたのは、栃木県内に住む当時11歳の男の子です。スポーツ好きの活発な少年でした。
最初の異変は、新型コロナの感染から1か月後。突然39度の発熱と吐き気を訴えました。

吐き気は徐々に強まり、水を飲んでももどすほどでした。

かかりつけの小児科を受診したところ、診断は「胃腸炎」。しかし、症状は一向に改善しませんでした。

さらに男の子は、目の奥に強い痛みを訴えていました。家の中にいても、まぶしくて目を開けられないほどだったといいます。

このため、自宅近くの眼科を受診したところ、難病の「クローン病」の疑いと診断されました。この間、症状は改善するどころか、悪化の一途をたどったといいます。

父親 “つらい思い出”

男の子は再びかかりつけの小児科を受診。詳しい検査をする必要があるとして、紹介状を持って自治医科大学附属病院にかかったところ、初めてMIS-Cと診断されました。

異変が起きてから、1週間がたっていました。

男の子はそのまま入院。

一時は心臓の働きが悪化したといいます。

父親が当時の心境をメールで明かしてくれました。
父親
「原因がわかるまではとても不安でした。大好きなスポーツができない場合はどうしたらいいのか、夫婦で話し合った時間がつらい思い出です」

命に関わることも

MIS-Cは、新型コロナの感染が世界的に拡大して以降、初めて確認されました。

特に欧米で、感染の数週間後、発熱やおう吐、目の痛みを訴える子どもが相次ぎ、当初は原因不明の病気とさえいわれていました。

その後の研究で明らかになった代表的な症状は、次のとおりです。
▽発熱
▽おう吐
▽腹痛・下痢
▽目の痛み・充血
適切な治療をしないと、心臓など複数の臓器の働きが悪くなることも

アメリカのCDC=疾病対策センターによりますと、去年11月末までにMIS-Cと診断された子どもは全米で9000人あまり。亡くなった子どもは74人に上ります。

日本でも相次ぐ

MIS-Cの子どもは、日本にもかなりいるのではないか。

松原医師をはじめとする専門医でつくるグループは、約2000の医療機関を対象に初めて全国調査を実施。その結果、少なくとも全国で64人がMIS-Cと診断されていたことがわかりました。

重症化したケースはありませんでしたが、多くが入院して治療を受けていました。
自治医科大学附属病院 松原大輔医師
「軽症も含めると100人ぐらいはいるのかなという感じです。小児の感染が今後も続くとすると、MIS-Cを患う子どもも、少しずつ増えていく可能性はあります」

医師を悩ます“診断の難しさ”

さらに、全国調査の過程では、現場の医療機関に戸惑いがあることもわかりました。

それは、MIS-Cの診断の難しさです。

原因不明の乳幼児の病気「川崎病」と区別がつかないというのです。
茨城県にある、茨城西南医療センター病院。MIS-Cなのか川崎病なのか、診断に迷ったという医療機関のひとつです。

診断に迷ったのは、小児科を受診した3人の子どもです。

3人とも、新型コロナウイルスへの感染などを経験していました。
医師は、このうち8歳の子どもの心臓のエコー検査の画像を見せてくれました。

小刻みで不規則な心臓の動き。MIS-Cが疑われました。

しかし、医師の診断は川崎病。

川崎病でも、重症化すると心臓の働きが悪くなることがあるためです。
茨城西南医療センター病院 石川伸行医師
「新型コロナに直近で感染していれば、MIS-Cも川崎病も両方の診断基準を満たしてしまう。どちらか判断するのは難しい」

日本特有の課題

実は、MIS-Cか川崎病かを診断する難しさは、日本特有の問題ともいえます。

川崎病は、欧米にくらべ、日本を含むアジアで患者が多いからです。

日本では、新型コロナのオミクロン株の流行以降、子どもの感染が急増。その結果、MIS-Cなのか川崎病なのか、一般の医療機関では区別がつかず、混乱が広がっているのです。

正しく診断をつけなければ、適切な治療につながらないおそれもあります。

MIS-Cと川崎病では、治療に使われる薬が違うこともあるためです。

わかりやすい診断基準作成へ

こうした状況を受け、全国調査を行った松原医師たち専門医のグループは、MIS-Cのわかりやすい診断基準の作成に向けた取り組みを始めています。
全国調査でMIS-Cと診断されたケースと、川崎病と診断されたケースのあわせておよそ100例を対象に、専門医が主治医に代わって診断をやり直す取り組みです。

すべての症例を詳細に検討し直し、診断基準の作成につなげようというねらいです。
自治医科大学附属病院 松原大輔医師
「医療現場は困っているというのは感じます。どういう治療がいいのかというのを考える際に、診断がきちんとついていないと、データの蓄積ができません。専門家が集まって診断をつけるというのが、いまできる最善の方法かなと思います」

子どもの異変に注意

MIS-Cの診断が行われるようになったのは、日本ではこの1年ほどのことです。

医療関係者でさえ、MIS-Cについて十分に理解が深まっているとはいえません。

専門家は今後、新型コロナと共存していくにあたり、MIS-Cと診断される子どもは増えるおそれがあるとみています。

感染から数週間後に、原因不明の発熱やおう吐、目の痛みなどを訴えた場合、MIS-Cを疑い、専門の医療機関を受診することが必要です。
宇都宮放送局 記者 
平間一彰
新型コロナウイルスと闘う医療現場の最前線を3年間にわたって取材