親が知らないうちに… 未成年が利用する「後払い」サービス

親が知らないうちに… 未成年が利用する「後払い」サービス
「今、買いたい」「すぐにネット決済したい」

手元にお金がないときには「後払い」のサービスを使って欲しいものを手に入れる。

若い世代を中心に、利用が広がっています。

しかし、未成年の子どもが保護者の知らないうちに「後払い」のサービスを利用するケースがあることがわかりました。

保護者からの懸念の声。それを受けて企業側も対策に乗り出しています。

(経済部記者 大江麻衣子、真方健太朗/機動展開プロジェクト記者 柳澤あゆみ)

子どもが勝手に使おうと

取材のきっかけはNHKの情報投稿窓口「ニュースポスト」に届いた投稿でした。
「クレジットカードのような13歳から作れるプリペイド式のカードで前借りのようなシステムがついている。未成年は保護者の同意が必要なのに子どもが勝手にカードを作っていた」

保護者の同意の仕組みも調べてほしいと書かれていました。

後払いチャージとは

そのサービスの仕組みです。

スマートフォン上のプリペイド式のカードの形式で、アプリをダウンロードして生年月日と電話番号などを入力すれば1分程度の手続きで利用が始められます。

ネットショッピングやゲームへの課金、フリマサイトの決済などに使うことができます。

クレジットカードと違い利用を始めるのに審査がないのが特徴です。

利用の方法は2つあります。

原則としてはスマホに現金を入金する「チャージ」が必要で、コンビニのATMなどで現金を入れれば、その分だけ買い物などで使うことができます。
今回、投稿があったのは現金がなくても、後払いすることを条件に先にチャージができるいわば「後払いチャージ」と呼ばれるサービスについてです。
13歳以上が対象で18歳未満の未成年は保護者の同意があれば利用でき、数千円から5万円の限度額が設定されています。

利用ごとに手数料がかかります。

昨年度利用額 459億円

投稿があった「後払いチャージ」のサービスはコンビニ系銀行のセブン銀行が審査、フィンテック企業のカンムがアプリの機能を提供しています。
サービス自体は5年前から始まり銀行によると2022年度の利用額は459億円に上るとしています。

後払いチャージにはほかにも大手カード会社のグループや、信販会社などが参入しています。

サービスをよく利用するという20代の男性を取材しました。

急な出費が必要になったり生活費が足りなくなったりした時に便利だと話します。

スマホ上のアプリを見せてもらうと8月の利用額は手数料込みで4万7000円あまり。
終電を逃してしまった時にタクシー代が足りずに後払いチャージして支払いにあてたといいます。

金融庁によると、後払いチャージはお金を貸すのではなく、「一定額をチャージするというサービスを提供する」という位置づけで、「貸金業法」の対象ではありません。

クレジットカードを介さず2か月以内に支払いが行われるので「割賦販売法」も適用されません。

保護者からは懸念の声も

取材を進めると「保護者の同意」がないのに子どもが利用するケースがあることがわかりました。

「偶然、見つけた時は震えました。これは何だ?と思って」

こう話すのは東海地方に住む40代の女性です。
高校1年生の息子が知らないうちにアプリをダウンロードし、後払いチャージを利用していることに気付きました。

使っていたのは、息子が夢中になっているゲームへの課金。

3000円を2回、後払いでチャージしていました。

決められた期日までに支払いは済ませていましたが、1回ごとに手数料が510円かかっていました。

必要な保護者の同意を得ているか確認する項目もありましたが、息子は無断でチェックを入れていたということです。
40代女性
「手数料としてお金が余計にかかっていますし、私にしてみればこれは“借金”だと思います。それに、保護者が同意していないのに簡単にチェックして始められてしまうのも怖いなと思います」
さらに、女性が驚いたのが、息子の後払いチャージの使い方でした。
ある土曜日の午前中。

息子は、1万3000円をコンビニで前払いでチャージ。

4分後にはほとんど使い切りました。

さらに、その17分後、「後払い」を使ってチャージ。

またすぐに使い切っていたのです。
40代女性
「どうしてもその日に課金がしたくて、後払いのチャージをやればいいと考えたと思います。自分で自分を律することができるようにもう少し親子で話し合いをしたいですが、親としては後払いで決済をするのをあまり当たり前にしてほしくない。ほしいものがあれば、お小遣いを貯めて買う。お金がないなら諦める。未成年で収入がないのだから、お小遣いの範囲でやりくりするようにしてほしい」

対象年齢18歳以上に引き上げへ

企業側はNHKの取材に対して対策に乗り出すことを明らかにしました。
サービスを運営するフィンテック企業 カンム
「子どもが保護者の同意が表示された際に同意を得ずにチェックを行った上で、不適切に利用してしまう事例が存在することは認識している。保護者から相談があった場合には対応できる態勢をとっている」
その上で、できるだけ早く、家族や保護者と相談してから利用するよう呼びかける表示やトラブル事例などを紹介するといった対策を行うことを検討しているということです。

後払いチャージの審査を行っているコンビニ系銀行は、年内にも18歳未満の利用をできなくする方針を明らかにしました。
セブン銀行 廿浦隆 執行役員
「実態として未成年の方が、親権者の同意を得ずに利用されているという意見を真摯に受け止めて、早ければ年内、遅くとも年度内には対象年齢を18歳に引き上げるという対応をしてまいります」
後払いサービスを手がける別の企業でも、ことし8月まで規則を変更し未成年の利用をできなくしたということです。

一方で企業側を取材すると保護者への確認など対策を強化すると、必要な時にすぐに支払いができるという利便性が損なわれることになる。

どういった対策が適切なのか判断が難しいという声も聞かれました。

利便性の確保と未成年の安全な利用の両立を各社が模索しています。

お金の感覚 “数字”に

こうした「後払い」の決済。

これまで見てきた「後払いチャージ」以外にも、さまざまなサービスがあり広がりを見せています。

たとえば。
・携帯電話の料金に上乗せして支払う「キャリア決済」
・商品が届いてから請求書や振り込み用紙で支払い
・アプリ上であとから好きな方法を選択し支払い
東京都消費生活総合センターでは、1年ほど前から、子どもが知らないうちに後払いサービスを利用しているという相談が増えているといいます。

実際に寄せられた相談です。
「11歳・小学生のケース。SNSの投げ銭やオンラインゲームの課金のため、スマホ決済で15万円くらい使ってしまった」

「14歳・中学生のケース。ネット通販で親の承諾なしにアニメバッジを購入。後日、3万6000円の振込用紙が届いた。親の承諾なしに購入した商品の契約解除はできるのか」
相談で目立つのは中学生くらいの子どもたち。

お金の使いみちは、ゲームの課金が多いといいます。

また、化粧品やアニメのグッズなどを買ったというケースもあるそうです。

センターの担当者は、子どもにとっての「お金」の感覚が、スマホの普及やキャッシュレス化によって変わってきていることが、相談増加の背景にあるのではと考えています。
東京都消費生活総合センター 高村淳子相談課長
「スマートフォンの中で後払いをするという仕組みは、基本的にスマートフォンの中で数字が動いているだけで、お金を見ていない。数字がちょこちょこ動いていくだけなので、いくら課金したかわからないくらい乗っかっていく、お金を使っている感覚があるかというのも疑問なところがあります。やはり、お金の管理をしないといけないという意識を、一緒につけていけるかどうかが大切なのかなと思います」

じゃあ、どうしたら? 家庭での話し合いのポイントは

子どもの金銭教育に詳しいファイナンシャルプランナーの八木陽子さんは、まずは企業の対策強化が必要だと指摘します。

そのうえで、家庭で話し合う時には、いくつかポイントを押さえる必要があるといいます。
ポイント1:基本的なお金の考え方をきちんと子どもに伝える
「お金は働かなければ手に入らないもので、大人も大事に使っているということなど、お金の大切さをしっかり伝える。大切だからこそ、信用がないと後払いができないんだということも含めてお金の基本を伝えてほしいです」

ポイント2:子どもが気軽に相談できる関係をつくる
「新しい決済サービスが次々に出てくるなか、保護者がすべてを把握して先回りすることは難しいと思います。子どもの方が新サービスを見つけるのは速かったりする。だからこそ、新しいサービスを子どもが知った時に、これって使っていいのかな?と保護者などに気軽に相談できる関係があることが重要だと思います」

ポイント3:一度話したら終わりではなくて、何度も話し合う
「お金がデータで見えなくなってきているのであれば、ことばで可視化する、ちゃんとあらわしていくということ。1回話しただけで実感を持てる訳ではないと思うので、折に触れて話をしていくことも必要なのではと思います」
NHKでは、普段の生活でみなさんが直面した困りごとなどについて、情報提供窓口「ニュースポスト」に寄せられた投稿をもとに、取材を展開しています。

みなさまからの情報をお待ちしております。
(10月14日 おはよう日本で放送)
経済部記者
真方 健太朗
2011年入局
帯広局 高松局 広島局を経て現所属
経済部記者
大江 麻衣子
2009年入局
水戸局 福岡局を経て現所属
機動展開プロジェクト記者
柳澤 あゆみ
2008年入局
仙台局 カイロ支局などを経て現所属