“人種や国籍を理由に職務質問” 国などに賠償求め提訴へ

人種や肌の色、国籍などを理由に警察官から繰り返し職務質問を受けてきたとして、外国出身の3人が「差別にあたり憲法違反だ」と主張して、国などに賠償を求める訴えを近く東京地方裁判所に起こすことがわかりました。人種や国籍などに基づく職務質問は海外で問題になっていて、国内でもそうした行為の違法性について争われるとみられます。

代理人の弁護士によりますと、訴えを起こすのは東京や愛知県などに住む外国出身の男性3人で、いずれも外見などを理由に繰り返し警察の職務質問を受け、苦痛を感じてきたとしています。

中には20年以上、繰り返し職務質問を受けるうちに自宅にこもりがちになったと訴える原告もいます。

3人は「人種に基づいた差別的な取り扱いで憲法違反だ」として、国と東京都、愛知県に1人あたり300万円の賠償などを求める訴えを、近く、東京地方裁判所に起こすということです。

人種や肌の色、国籍などを理由に相手を選ぶ職務質問や取り調べは「レイシャルプロファイリング」と呼ばれ、国連の人種差別撤廃委員会が防止のためのガイドライン策定などを勧告するなど、国際的な問題となっています。

原告側の代理人を務める谷口太規弁護士は「国内ではレイシャルプロファイリングと呼ばれる職務質問の違法性について争われた裁判例はなく、初めてとみられる。裁判をきっかけに、警察の運用が国際社会に合わせた基準になっているか考えてもらいたい」と話しています。

おととし、警察庁は人種などを元にした職務質問で不適切な言動が前年の2021年、全国で6件あったとする調査結果を発表し、指導を徹底するとしています。

原告のひとり “職務質問で外出が怖くなった”

インドにルーツを持ち、原告の1人となるマシューさん(53)は日本人の妻との結婚を機に来日し、20年以上日本で暮らしています。

この20年以上の間、マシューさんは駅や路上などで警察官に止められるなど、繰り返し職務質問を受け、多いときは1日に2回受けたこともあるといいます。

自宅の前で4、5人の警察官に取り囲まれたことや、職務質問に応じなかった時には警察署に連れて行かれて事情聴取を受けたこともありました。

3年前の10月には東京都内で職場に向かうために妻を乗せて車を運転していたとき、サイレンを鳴らしたパトカーに止められました。

マシューさんが「なぜ止めたのか。スピードが出ていたのか」などと聞くと、警察官は「外国人がこのあたりを運転するのは珍しいからだ」と答えたということです。

このときのことについてマシューさんは「正当な理由だとは思えず、警察が自分たちの力を好きなように利用しているように思った。立場を乱用した人種差別だ」と話していました。

職務質問を繰り返し受けたことで、マシューさんは一時期、外出することが怖くなり、自宅にこもりがちになったといいます。

マシューさんは「いつも警察官が自分を監視していて、プライバシーを侵害しているような気がしていた。あまりに頻繁に続くので『なんで私だけ』という気持ちにもなった」と話していました。

今回、裁判の原告になろうと決めた理由については「同じ問題で苦しんでいる多くの人がいると思う。裁判をきっかけに、私たち全員が平和な生活を送ることができるような解決策が見つかってほしい」と話していました。

外国人や外国籍の親のいる人「過去5年で職務質問受けた」6割余に

「レイシャルプロファイリング」をめぐっては、国連の人種差別撤廃委員会が2020年、各国に防止のためのガイドライン策定などを勧告しました。

こうした中、東京弁護士会はおととし、日本で暮らす外国人や外国籍の親を持つ日本人などにインターネットでのアンケート調査を行い、およそ2100人から回答がありました。

それによりますと、過去5年間で職務質問を受けた人は62.9%にあたる1318人でした。職務質問を受けた人のうち、2回から5回程度受けた人が50.4%、6回から9回程度が10.8%、10回以上が11.5%でした。

声をかけてきた警察官が最初から自分が外国にルーツを持つ人だとわかっていたと思うか聞くと、職務質問を受けた人の85.4%がそう思うと回答しました。回答者の90%以上はその理由として「身体的特徴」を挙げました。

このほか、「日本語以外で話していた」ことや「日本語以外の雑誌や本などを持っていた」と答えた人もいました。

自由記述には「外国人だとわかったとたん、警察官の態度が急変し、タメ口で職務質問が行われた」とか、「大勢の人々の前で犯人のように調査された」「見た目だけで薬物を持っているのではと疑われた」など、差別的だと訴えるさまざまな声が寄せられました。