岸田前首相襲撃事件 最高検が不適正な取り調べあったと認定

去年、和歌山市に選挙の応援に訪れていた岸田・前総理大臣の近くに爆発物を投げ込んだとして起訴された被告に対し、取り調べにあたった和歌山地方検察庁の検事が、被告が自宅に引きこもる生活をしていたことに触れたうえで、人格を否定するような発言をしたとして、被告の弁護士が検察に抗議し、最高検察庁が不適正な取り調べがあったと認定していたことが検察関係者への取材でわかりました。

去年4月、和歌山市の漁港で、衆議院の補欠選挙の応援に訪れていた岸田・前総理大臣の近くに手製の爆発物が投げ込まれ2人がけがをした事件で、兵庫県川西市の無職 木村隆二被告(25)は、殺人未遂や爆発物取締罰則違反など5つの罪に問われています。

被告の弁護士などによりますと、逮捕後の取り調べで黙秘を続ける被告に対し、和歌山地方検察庁の男性検事が、自宅に引きこもる生活をしていたことに触れたうえで「かわいそうな木村さん」などと、人格を否定するような発言を複数回行ったということです。

また事件の前に被告が、年齢の規定などによって参議院選挙に立候補できなかったのは不当だとして国に損害賠償を求める訴えを起こしていたことに関連して、男性検事は「憲法を勉強しているようだが小学生レベルの知識だ」などと発言したということです。

このほか、目を閉じていた被告に対し、「肯定なら目を開けて」とか「否定なら目を開けて」などという発言もしていたということです。

被告から連絡を受けた弁護士は、去年5月「明らかな人格攻撃で不適切な取り調べだ」として、最高検察庁に抗議文を送ったということです。

検察関係者によりますと、取り調べは、録音・録画されていて、内容を確認した最高検が不適正な取り調べがあったと認定し、和歌山地検がこの検事を指導したということです。

最高検は「個別の事件に関わることなのでお答えは差し控えます」とコメントしています。

被告の初公判は、来年2月、和歌山地方裁判所で開かれる予定です。

被告の弁護士「人権侵害にあたる取り調べ」

被告の弁護士はNHKの取材に対し、「黙秘権を行使しているのにそれをないがしろにする、陰湿で人権侵害にあたる取り調べだったと認識している。録音・録画が導入されても、取り調べに過度に依存した立証が行われているのは問題だ」と話しています。

検事の不適切な取り調べ 相次いで明らかに

近年、検事の不適切な取り調べが相次いで明らかになっています。

5年前の2019年、大阪地検特捜部が捜査した横領事件では、当時捜査を担当した検事が「検察なめんなよ」と取り調べで罵倒したなどとして特別公務員暴行陵虐の罪に問われ刑事裁判が開かれることになっています。

この裁判は、横領事件で無罪となった不動産会社の元社長が違法な取り調べがあったとして検事を被告とする刑事裁判を開くよう「付審判請求」を行ったもので、大阪高等裁判所が2024年8月、請求を認めました。

2024年7月には、横浜地検の検事が黙秘を続ける容疑者に「ガキだよね」などという発言を繰り返したのは黙秘権の保障の趣旨に反する違法な取り調べだとして、東京地方裁判所が国に110万円の賠償を命じる判決を言い渡しました。

また、河井克行元法務大臣が有罪判決を受けた5年前の参議院選挙をめぐる大規模買収事件では、任意の取り調べを受けた元広島市議会議員が東京地検特捜部の検事から不起訴にすることを示唆して買収の趣旨を認める供述をするよう促されたと訴え、最高検察庁は2023年12月、「不適正な取り調べだった」などとする調査結果をまとめました。