米Apple(アップル)は米国時間2024年2月2日、ゴーグル型ヘッドマウントディスプレー「Apple Vision Pro」を米国で発売した。アップルによる久々の新領域端末で、予約開始から数分で初日の在庫が完売した。世間の注目を集めるデバイスの実力やいかに。シリコンバレー支局駐在記者が、Vision Proを使って原稿の大半を書いた本音の5000字レビュー。
結論を先に示そう。丸一日使い倒した段階での評価は以下の5点に要約できる。
詳しく解説する前に留意点をお伝えしたい。記者は米国に駐在しており、アップル製品に利用する「Apple ID」などは米国居住の仕様となっている。今回発売されたのは米国市場向けの製品で、日本のユーザーが日本国内で使用しているApple IDを利用すると一部のアプリケーションが動作しないので注意されたい。
1=高精細ディスプレーと驚くほどゆがみのないレンズ。歩き回っても違和感なし
Vision Proを使用して最も驚いたのは、その高精細なディスプレーとゆがみのないレンズだった。初期設定ではパススルーモード(ゴーグルの外側が見えるモード)に設定されており、装着するとすぐに外部の映像がディスプレーに映し出される。
そのまま眼で見えている通りの世界とはさすがに言えないが、20mほど離れた距離にいた同僚の表情ははっきり読み取ることができた。
ディスプレーのドットは全く気にならなかった。アップルによれば、Vision Proの2枚の切手大のディスプレーパネルの合計ピクセル数は2300万。片目当たりのピクセル数は4Kテレビを超えるという。操作と表示のレイテンシーも、体感レベルでは全く感じないと言っていい。
視野角の実感は90度程度だった。人間の最大視野は120度とされており、両端に若干制限があるが、モノを識別できる「有効視野」の70度を超えているので、動画などを見るに当たって違和感は感じなかった。
加えてゆがみの小ささにも驚いた。一般的に、パススルー機能を備えたゴーグル型端末は、視界の端部に行けば行くほど対象がゆがんで大きく見える傾向にあり、これが違和感を生む。Vision Proでは端部でもほぼゆがみがない。横からペンを渡されても、距離感とモノの大きさが実際と変わらないので、違和感なく受け取ることができた。もちろん、歩き回ることも可能だ。「当たり前」なので気付にくいが、実現には極めて高い技術が必要だっただろう。
さて、コンテンツだ。各種の設定を終えた後で、早速「Apple TV」アプリを使って映画を見てみる。このアップル純正アプリは、Vision ProのOS(基本ソフト)「visionOS」向けに最適化されたものだ。
アップルの動画サブスクリプション「Apple TV +」では、Vision Pro向けの「Apple Immersive Video」が利用できる。180度角の3Dコンテンツで、映像の中に没入したような感覚を味わえる。
最初に「Adventure」を試してみた。ノルウェーの雄大な自然の中で、まるで空中を移動しているかのような映像が広がる。上空3000mの綱渡りに挑戦するというスリリングなコンテンツで、その内容と映像技術が相まって息を飲むような美しさを感じた。左右上下を見渡したくなるので最初は首が疲れたが、徐々に慣れてきた。これまでVR(仮想現実)端末を経験したことがないユーザーにとっては全く新しいユーザー体験だろう。
Immersive Videoだけでなく、平面的なディスプレーの中に立体感のある映像が流れる「3D映画」も多数用意されており、Apple TVアプリ内で購入やレンタルができる。アップルによれば、発売時点で3D映画は150コンテンツを超えるという。
通常の映画コンテンツも、大型スクリーンで見ているような体験ができる。Vision Proはそれぞれのコンテンツのウィンドウサイズを指でつまんで変えられる。記者の実感では、最も大きくした時の映像は、多少、首を横に振らないと全てを認識できないような大きさ。大型映画館の前列席で見ているような感覚だった。
アップルでマーケティングを担当するグレッグ・ジョスウィアック副社長はVision Proを「究極のエンターテインメントデバイスだ」と表現する。初期ユーザーにとって、映像コンテンツやゲームなどのエンタメが大きなユースケースになることは間違いなさそうだ。